元の世界の人間、キーパーソンクラスになるかもしれない人たちが出てきて一気に盛り上がってきました。
前回も前々回も書きましたが、キャッキャウフフのラブコメを期待すると大火傷します。
人物模様、人物描写がとても色濃く描かれている小説なのです。



モンスターのご主人様3巻





今回はモンスターのご主人様の3巻の感想記事です。
ネタバレだらけというかネタバレしか無いです。要注意ください。

1巻はアラクネの少女、ローズと戦うところまで。
2巻は異世界の住人(騎士団)と出会うところまでが描かれていました。
2巻までを鑑みるとかなりスローなペースで進んでいるので、2巻までを要約すると、

・モンスター少女を3人+人型ではないモンスターを2人(匹が正しいか?)眷属にした
・加藤さんを助けたあと、加藤さんはガーベラと交流を重ねた
・異世界の騎士団と孝弘君と擬態したリリィが合流した

といったところになります。
次に答え合わせ。

異世界転移した孝弘君たちが拠点に使っていた小屋の数々。
造ったのは異世界に住む人々で確定です
シラン(金髪美少女エルフで騎士副団長)らが率いる、『同盟第三騎士団』よりも前にチリア砦に在中していた騎士団が造ったのだと思われます。
ではどうして造ったのかというと『この世界』に来訪した異世界人を助けるため……ではなく、樹海の最深部を目指すための中継地点だった、というわけですね。
というか確かに小屋の中にモンスターが襲ってくる展開は無かったですけど、襲ってこない明確な理由あったのですね……。

 おれはリリィにあらかじめ聞いておいた『一番嫌な感じがする場所』を調べた。
(1巻、No.769-770より引用) 

(中略)おれは小屋の近くの地面に埋まっている綺麗な透明の石を見付けた。石にはなにやら精緻な文字が刻まれていた。
 察するに、これは魔法的な品物ではないだろうか。こんなものを作れるという話はコロニーで聞いたことがないが、これがこの小屋の本来の持ち主のものだと考えれば納得 がいく。
 これは地味だが重要な事実を示唆している。
 この世界には、おれたち転移者以外の人間が、きちんと存在するということだ。
(1巻、No.772-778より引用) 

あ、あった……調べたらちゃんと描写ありますね。
思いっきり見逃してました。うううorzlll

魔法技術の粋を集めた(ただし製法が失われたとあるのでロストテクノロジーなんでしょう)って記述がありますし、科学文明とは別に魔法文明が非常に発達した世界なのだと思われます。今のところ90年代ファンタジーアニメのような魔法は出てきていませんし、魔法が科学の立ち位置になっているかはちょっとわかんないです。
追記:よくよく考えれば階梯というクラス分けで今まで何度か魔法出ていましたですハイ。
孝弘君パーティだとリリィ、つまり水島美穂が魔法使ってましたね。失礼しましたorzlll


追記ついでに確認。
リリィが今まで使った魔法をいくつか調べてみると、

 数秒のうちに作り上げたリリィの魔法は、第二階梯の水魔法。
 狩猟用大型拳銃に匹敵する殺傷能力を持ち、剣の性質を与えられていた。
 3本の水の剣が空中に現れ、隼の如く飛翔する。
(1巻、No.1363-1368より引用) 

「ごめん、ご主人様。わたしの回復魔法は第三階梯が限界だから」
(1巻、No.1516-1517より引用) 

 とっておきの攻撃魔法が、後方で待機していたリリィの掌で輝いた。
 属性は風。性質は弾丸。
 込められた魔力は第三階梯。対物ライフルにも匹敵する大威力だ。
 ――きぃん、と。
  鼓膜を引っ掻くような音の終点に、トレントの体躯の一部が炸裂した。
(1巻、No.3204-3210より引用) 

 四つん這いになって地に伏せていたリリィが、準備していた魔法を発動させた。
 三階梯の風魔法。与えられた性質は37本の刃。
 威力は多少落ちるが、その分だけ広い範囲を切り刻む、彼女のとっておきの一つだった。
 荒れ狂う風が暴威を振るう。蜘蛛の糸で吊り下がっていた照明がいくつか吹き飛び、床板代わりの細い丸太がばきばきと音を立てて舞い上がっていく。
(1巻、No.5036-5041より引用) 

ということで水属性、風属性、そして回復魔法の三属性。
リリィは上の引用でもあるように、水と風属性が得意分野。これはそのまま水島美穂の素質がそうだったのだと思われます。
魔法は階梯と呼ばれるクラス分けでカテゴライズされ、カウントが上がれば上がるほど上位魔法として扱われるようです。リリィはどうやら第三階梯魔法まで使えるようです。
1巻の途中で部位欠損は第五階梯回復魔法とありますので、きっと第五階梯回復魔法が使えるキャラが今後出てくるんだろうと思います。

あと魔法を使う際に幾何学模様の魔法陣が描かれます。
魔法陣の色がそのまま属性に対応しているようですね。



チリア砦であてがわれた個室で孝弘君は自分の気持ちを整理し、リリィに吐露します。
孝弘君の言うことはもっともであると同時に、それだけ裏切られ続けたのか否かで心境が変わるのかなぁと思いました。そもそもこの世界で生きていくためには、力の無い者は誰かに縋らなければいけませんからね。NOと言えないレールを進まなければいけないのです。
故にモンスターを眷属にできる孝弘君は中間のレールを進んでいるんじゃないかなと。
孝弘君の眷属たるリリィたちは強いですけど、孝弘君自身はまだまだ発展途上ですからね……腕に寄生したアサリナが戦闘方面で活躍するのはもっと先になるんでしょうし。

そしてもうひとつ大きい変化がありましたね。
孝弘君の友人(親友)の鐘木幹彦君が登場したことです。

なんていうか思ったよりも普通でビックリしました
オタク気質ってあったのでもっとこう……濃いキャラだと思ったら話し方はフランクだし好感抱ける好青年じゃないですか。しかも一途。良い……凄く良い。
挿絵を見て思いましたけど、異世界に来てもネクタイをきちんとしているくらいですし、根が真面目なんでしょうきっと。男性キャラが出てきて癒されるの嬉しいですね……。
例えるなら……そう、幹彦君はオアシスです。オアシス。読んでいて笑みがこぼれてしまいました。

ひとつ、気になったことがあります。
チリア砦の責任者はジェイラス=グリーンって人なんですけど、今のところシランはフルネーム名乗っていないんですよね。苗字は限られた者しか無い世界なのでしょうか。

そして異世界系で避けて通れない問題。どうして会話が成立するのか
これも上手いシステムが用意されていてなるほどなぁと思いました。

と同時に疑問に思ったこともあります。
魔石を用いて異世界の人と会話が成立するのはわかります。
リリィは水島美穂の身体を触媒にしているのですから日本語が成立するのもわかります。
ではローズとガーベラはどうして日本語で会話できるのでしょうか
とまで考えて、孝弘君とパスが繋がっている以上、孝弘君の使う言語、即ち日本語になったのかなと思いました。仮にこの仮説が正しいとするならば、日本語を読むこともできるんじゃないかなとも思いました。秘密の暗号通信に使えそう。

「同じ異世界転移ファンタジーでも、おれたちとは物語のジャンルが違っているんだよ」
(3巻、No.871より引用)

これが全てだと思いました。
英雄たる振る舞いをする遠征組。
裏切りや惨禍に怯えるコロニー組の対比になってます。

そしてそれを聞き、違和感の正体、そして『それも正しい』と考えていく孝弘君のプロセスが良いですね。1巻も2巻も感想で書きましたが、この小説はとても心情描写が繊細に丁寧に書かれています。同意できるかは別にして、説得性が非常に高いんですね。孝弘君の一人称視点で基本的に物語は進みますけど、言葉だけの他の人物も、動機と行動に一貫性があるので非常に骨太な印象に見えます。ノイズを感じないんですね。

中盤、十文字君が手ほどきをしている場面でひとつ、大きく思ったことがあります。
この世界に来た稀人(元の世界の人)はこの世界の人と比べて、何故か特異的に何かしら能力が高いケースがいくつかあります。
孝弘君が、

 対して、十文字の力には、そうしたものが感じられない。
 本来なら時間をかけて、想いを傾けた結果として得るべきものを、なんの代償もなく、 降って湧いたように手に入れたものだから、当然あって然るべきものが欠けているのだ。 むしろおれは、そうした彼らの在り方に、薄ら寒いものを感じていた。
 だからこそ、なのかもしれない。ふと思った。思ってしまった。
 おれたちのこの力には、本当に代償はないのだろうか?
(3巻、No.1199-1203より引用)

と胸の内で思っています。
読んでいて、ソシャゲで例えると重課金組と無課金組の対比に近いのではないかと思いました。重課金というのは、要するに時間や労力をお金でショートカットしている、ということです。であるならば、チート能力はお金に該当する、何らかの代償コストを経て努力や在り方を獲得している、であってもおかしくないんですね。
当たり前のように享受している超パワーは、元々この世界の住人だったらいざ知らず、別世界から来たのですから、何かしら理由が無いと本当はおかしいのです。
ゲームはそういう『設定』があるからこそ『プレイヤー』はすんなり入り込めますが、この小説の『登場人物』にとっては、この現在こそが『リアル』なんですし。



シランからこの世界について、この世界に来訪した異邦人――稀人、勇者の伝承を聴いていく流れで、ふと思いました。
この手のお話って特別扱いされる人って、結婚して子供を授かったりしないんでしょうかね。悪い書き方をすれば種馬みたいな扱いになってしまってもおかしくないと思うんですが……。
異世界から来るのがチート能力のトリガーなのか、異世界の血があればトリガーになるのか定かではないですが、勇者を戦力として見ている以上、そういう試みのようなものが行われてもおかしくないんじゃないかなぁと思いました。勇者が男性であればそれこそハーレムルートのような展開が過去にあってもおかしくないと思うんですね。
異世界から来る人が必ずしも良い人とは限りません。悪に染まる人もいれば、最初から悪人だったケースもあるのではないでしょうか。もしくは悪人は来訪できないシステムなのかもしれないですね。

「……この指先サイズの筒は?」
「ライターですね。火が出ます」
(3巻、No.1578-1579より引用)

日本語に自動翻訳されているんだなぁと改めて思いました。
火筒とかじゃなくてライターですからね。孝弘君が処理できる最適な単語が自動選択されているんだなぁと……。

ほかのモンスター使い(テイマー)がいるかいないか……シランとケイの反応、そしてそのあらましを見て、これ絶対悪のモンスター使いが出てくるだろうなぁと思いました。
友好的か敵対的かなんて表面上じゃ判断できないですよね。リリィたちが友好的であるのを孝弘君はわかっていますが、それはパスが繋がっている、そしてモンスター・テイムのチート能力があるからです。無い人には、それはわからないのです。
であるならば精霊使いであるシランたちの反応も至極当然ですよね。使い手にしかわからないのですから……裏切りに転じられて敵になれば、って考えれば恐れられ、差別されてもおかしくないと思うのです。



中盤、ケイが行方不明になりました。
孝弘君たちの推理は論理的で良いですねぇ……筋道立てて考えていくのですんなり理解できます。面白いなぁと思ったのは、異世界の人と元の世界の人は翻訳の魔石があるから会話が成立できるけど、じゃあ魔石が無かったら会話はどうなるのか、というシーンがあったことです。
というか金髪少年で嫌な予感がしましたけど、やっぱしケイに悪さしていたの、坂上君じゃないですか……トラブルをまき散らしちゃってますね。困ったものです(困ったで済む話じゃないですけど)。

十文字君、坂上君、そして工藤君。
三人とも何かしら含みがありますし、まぁ何かあるんだろうなと。
このまま砦でコツコツ鍛錬を重ねましたーで終わるわけはないでしょうからね。
ただ1000人over+稀人組という大規模な砦ですし、何かが起こっても数の論理で何とか……ならないですよね。多分。これが単純にモンスターと人間が戦う構図であるならば、チート能力持ちが活躍すればそれで決着に向きますが、稀人組の誰かが裏切れば簡単に均衡が崩れるのは目に見えていますし。ただ裏切るメリットが浮かばないので、当面の間は大丈夫だと思うのですが……。

悪かった点だけではなく、そのあとの展開を鑑みれば、ケイと孝弘君の距離感が縮まったのはほんわかしました。「孝弘様」ではなく、「孝弘さん」と呼ぶのを見てグッと来ましたです。なんていうんでしょうね。慕っている感が強くなったんですよね。
それまでのケイは一歩どころか二歩引いているというか、恥ずかしさと恐れで身震いしているに近い印象があったんですね。だから助けられたあと、孝弘君たちの付き人になってケイの言葉と印象がほんわかする方向にシフトして、良いなぁと思いました。



夜。
今まで何度かリリィと逢瀬を重ねるに近い場面があったと思うんですけど、なんていうかシチュ、そしてリリィの決意も相まってとても尊い場面に見えました。
挿絵の破壊力が凄いですね。この小説の挿絵はどちらかというと萌えーな感じよりは半歩ほど引いた印象があるんですよね。地味とかそういうのじゃなくて、何て言うんでしょうかね……綺麗、でしょうか。1巻の表紙絵は背景が真っ白なのもあって地味だなーと思ったのですけど、2巻、3巻と背景が加わり、表情豊かになることで綺麗だなーと思ったのです。

「ごめんね、アサリナ。一晩だけ、ご主人様を独り占めさせてちょうだい?」
(3巻、No.2748-2749より引用)

直接的な表現を使わずに、これでもかと情熱的なセリフですよね。
この小説はR18小説ではありませんが、かといって何も無いのかというとそんなことは無いと思います。漫画版は顕著に描かれているので、そういう意味では漫画版のほうが正しいのかもしれません。
けれど直接書かない情緒がわたしは大好きです。
奥ゆかしさと言うんでしょうかね……綺麗というか美しいというか。上手く言葉にできません。

孝弘君サイドの3巻のお話はここで終わりを告げます。
中途半端ってことは無いんですけど、もうちょっと先を見たい(別にそういうシーンが見たいって意味じゃなくてチリア砦のお話の続きがって意味で)って強い気持ちを抱いちゃいますね……。



ココからはローズ視点のお話。

そういえば3巻の表紙絵、最初「誰!?」って感じで見ていましたけど、よく見れば関節や白い面を見て、「ああああローズなのかあああ」ってわかりました。
顔は何となく何をどうすればそうなったかの想像はついたのですが、髪の毛どうしたんだって思ったので気になっていたんですよね。
というか感想書くためにカラー挿絵を見直しに行ったのですけど、なんという大惨事。スーパーネタバレになってるじゃないですか……孝弘君視点の段階でこういう展開になっていないですよ……も、もうちょっと手心のあるマイルドなネタバレをお願いしたいです。

さて、2巻の後半で加藤さんとローズで何か含みのありそうな展開がありましたけど、なるほど、そういうことだったのですね。

 上体を乗り出したわたしに、友人――加藤真菜は、薄らと笑みを浮かべた。
「リメイクで」
(3巻、No.2789-2792より引用)

なんでしょうね。
モンスターのご主人様ってギャグ的な展開は皆無な小説だと思っているんですけど、たまに真面目シリアスで笑いを誘ってくるから卑怯です。文章だけなら至極普通なのに手前の流れで笑いを誘ってくるんですよ……ずるいですよ。場面は真面目一辺倒なだけに余計。

 そう。『思いのままに』だ。それがつまり『思い描けないものは作れない』ということ を意味していると知ったのは、この試みを始めてからのことだった。
(3巻、No.2821-2823より引用)

クリエイト系スキルの良点であると同時に弱点ですよね。
自分という名の限界、殻が最大の障壁になるっていう。
限界を超えるには、限界を超えるきっかけ、刺激が無いと、そして相応の努力が必要っていう。天才肌であればあるほど、苦しむ部分じゃないでしょうか。それも機能性と見た目っていう、ある意味真逆の方向に対しての技術ですし。
不気味の谷をラノベで見るとは思わなかったですね……どっちかっていうと現実かゲームで目にする単語ですし。

「ローズさんは表情がうまく作れていません。造形についてはかなり人間らしくなってい ますけど……と言いますか、むしろ完璧過ぎて人間味がなくて天使みたいになってますけど、表情が駄目です」
(3巻、No.2850-2852より引用)

例えとして正しいかわかんないんですけど、PS4のゲームソフトで精巧に描かれた人物みたいな感じなんでしょうかね。綺麗すぎて違和感があるーみたいな。 

  彼女が指先を押し付けると、わたしの頬はやわらかく沈み込んだ。
(3巻、No.2863-2864より引用)

なん……だと……?
てっきり精巧なブティックなどで置かれているファッションショップや大手百貨店に置かれているマネキンみたいな感じ(感触が硬い的に)だと思っていたのでびっくりですよ。
名前出しちゃいけないと思うので濁しますけど、某工業さんのシリコン製ドールみたいな感じなんでしょうかね。
柔らかさがあるなら、もう人間と大差ないじゃないですか……一気にローズのヒロイン力が格段とパワーアップしたというか。3巻の表紙絵のローズめちゃ可愛いですし

3巻の表紙絵を見た時、どうしても疑問に思ったことがあったんですよ。
顔は技術で再現するとして、髪の毛をどうやって再現したんだろと。
読み進めるまではてっきりガーベラにお願いして蜘蛛の糸を髪の毛のように加工してもらったーと思っていたんですけど、そうか、その手があったかと感服しました。
別に髪の毛を再現するのに必ずしも髪の毛でなければいけない理屈は無いですよね。それも今までの時点で近しいものをドロップしていたじゃないですかっていう。
だから少女の顔になったローズの髪の毛の色は灰色の髪だったのかと感嘆としました。

「……体のほうにも、手を加えるべきですね」
「体もですか」
「はい。これまでは顔の造形に全力を挙げてきたわけですが、それだけでは、片手落ちでしょう。女の子はやっぱり、やわらかくないと駄目です」
「駄目、ですか?」
「駄目です」
(3巻、No.3022-3024より引用)

加藤さんもローズも似ている部分があるんですよね。
即ち、成果を上げるために努力も犠牲も厭わないタイプ。端的に言えば研究者タイプ。
顔だけ変えても身体のほうは硬いままでしょって思っていたので、あぁ、やっぱし身体も細工していくのかと読者の動線誘導が上手いなぁと。孝弘君と合流するまでに変化というか進化というか生まれ変わりに近いところまで進んでしまいそうです。

「心配しなくても、真菜の体はとても可愛らしかったですよ」
「う、うぅう……」
(3巻、No.3101-3102より引用) 

少女モンスターと人間の考え方の違いが面白いですね。
プロセスの根っこが全く異なるので噛み合うようで噛み合わない。だから相互理解できているようで相互理解できていない。ズレても合う場所もあるから会話は成立する。けれど繊細な部分ですれ違いがあるので価値観の違いで四苦八苦する……。

端的にいうとご馳走様でした、ということです。この二行だけ読んだら絶対に勘違いするでしょ……潤いを感じます。

「あれだけ美人で可愛くて、好きな人のために尽くすタイプで、おまけに、えっちな捕食 系。先輩とはパスで心が繋がっていて、好きな気持ちは筒抜けで、耳元でお互いに、いつ でもラブレター朗読してるような状態なんですよ。これがチートでなくてなんなんですか」
(3巻、No.3139-3141より引用)

見方を変えると、そのままリリィに対する嫉妬に見えるんですね。
ということは程度の大きさはわかりませんけど、やはり加藤さんも孝弘君に対して好意を持っているのだなと。孝弘君グループの中では唯一の人間・女性ですがリリィたちのように戦う力があるわけでもなく、女性的な意味合いで身体的に優れているわけでもない。つまりコンプレックスの塊であると。そしてローズのボディ制作を行う過程で再認識して痛感した……といった感じなのではないでしょうか。
加藤さん視点は一巻の後半で大きく枠が設けられていますけど、あの時は孝弘君がガーベラに攫われて非常事態でした。

思えばこの小説は視点を大きく武器にしていると思います。
基本的に孝弘君の視点でお話は進みますけど、時折視点が変わります。リリィも、ローズも、ガーベラも、そして加藤さんもロジカルにプロセスを積み立てていくので、とても読者に伝わり易いと思うのです。だからこそ、明かされていない時の時間軸の胸の内を想像するのはとてもワクワクします。

1巻ではリリィ視点が。
2巻番外編ではローズ視点が。
3巻ではローズ視点がそれぞれあります。
ガーベラの視点が今のところ(見逃しが無ければ)多分無いのが残念です。

加藤さんの視点が無いのかというと、3巻の番外編で初めて出てきます。
話が前後しますが番外編を読み進めていくと、加藤さんが主に孝弘君とローズに対してどのような感情を抱いていたのかの一端が語られます。
加藤さんに限った話ではないんですけど、この小説って結構難しい言い回しがそこそこの頻度で出てきます。賢い、頭が良い、だから論理的に考えていくことができるんだろうなと思います。孝弘君とパスを結び、自我と心を獲得したリリィたちも同様です。リリィの場合はベースとなる水島美穂の記憶・知識もありますが、感情的であってもとてもロジカルなのです。

では加藤さんはどうなのか。
加藤さんは感情の起伏が薄く、どちらかというと自分を曲げない頑固な気質があって、実は情熱的な女の子だと思います。ただそれが表面に出にくいだけで、喜怒哀楽はハッキリとしていますし、他者のために自分の身を投げうる自己犠牲に近い精神性も持ち合わせています。
そしてハッキリと孝弘君に対して恋心を抱いているのが語られました。
静かに燃える炎は今後どのように大きく、情熱的に燃え盛っていくのか……楽しみが増えましたです。



話を戻します。
美少女になったローズには当然、それ相応の可愛らしい服装が必要になります。
となると機織り職人よろしく、ガーベラの手が必要になるわけです。

が、が……ですよ。
ガーベラは暴走気質ありましたけど、まさか先にずっと後のことを想定してアクションを行っているとは思わなかったです。言葉遣いこそ古めかしいですけど、多分一番肉食系ですよね。それも行為に及ぶという意味ではなく、もっと長期的な意味での肉食系
思えば孝弘君を攫った実力行使派ですし、正式な眷属として仲間になったからといって、うちに秘める想いは燻らないわけがないのです。わけがないんですけど、なるほどーそう来るかーと……アラクネ、つまり蜘蛛である強みを二重三重に活かされたヒロインなんですね。
なんだかほくほくしちゃいますね。どちらかというと淡々と進んでいくのがこの小説だと思うんですけど、こういう場面を見るとほくほくしちゃいますね。萌え萌え路線も好きですけど、こういう機微を楽しむ路線好きなんですよね。何度も読むことでじっくりコトコトと煮詰まっていくというか……。



前後に次ぐ前後ですが、先に3巻の番外編を見て良かったと思いました。
何が良かったのか? 3巻の終盤が、です。

終盤はしばらくの間、ローズ視点で加藤さんとひたすら会話が続いていきます。
3巻はガーベラが不憫だなと思ったのはナイショ

ローズが加藤さんが孝弘君に対して、恋心を抱いているのを看破するんですよね。
この時のロジカルなシナリオ運びは、まるで推理小説の犯人当てパートのような重厚な見応えがあって面白いです
正直なところ、3巻の終盤を読むまでは、全体の七割くらいが孝弘君とリリィが中心に話が展開されるので、ローズが美少女になった驚きを差し引いても、表紙絵をローズと加藤さんにする大きい意味があるのか? と思っていました。

なんですけど残り三割でそんな疑問がひっくり返されちゃいましたね。

「疑われたままでもかまわないから、それでも真菜は、ご主人様の近くにいたいと願って いる。それだけの想いを、ご主人様に抱いている。だからこそ、ご主人様のために、見返りを求めず力を尽くしもしたのではありませんか?」
(3巻、No.3496-3498より引用)

上手い対比になっているなぁと思いました。

リリィは孝弘君に人間をもう一度信じて、人間と一緒に暮らして欲しい
対して加藤さんは、孝弘君に人間を信じて欲しくなくて、ずっと一緒に居たい

という、他の人間に対してどう思って欲しいのかが見事に真逆になっています。

「わたしはこの気持ちを、真島先輩に伝えるつもりはありません」
「っ! なぜです……!?」
「伝えたくないんです」
(3巻、No.3559-3560より引用)

加藤さんが抱く想い。
シンプルなようで複雑で、そして一枚岩ではありません。
端的に書けば加藤さんは関係性が変化するのを恐れている。今の自分が在るのは孝弘君のお陰で、それまでの自分自身は死んでしまった。そして心の空白を埋めてくれたのが孝弘君であり、埋まっていない自らは生きているが死んでいる。何が? 心がです。

加藤さんはローズを応援し、想い続ける。
ローズは加藤さんを応援し、想い続ける。

加藤さんとローズがどんどん対になってきていますよね。
孝弘君とリリィ。加藤さんとローズ。……ガーベラが不憫な立ち回りになっている気がするんですけど、二人一組で良い流れができていると思います。

モンスターのご主人様は現在11巻まで発売されていて、今度12巻が発売されます。
つまりお話は長く続きます。加藤さんの立ち位置もきっと変わるでしょう。
その時に前向きに変わるのか、それとも後ろ向きに変わるのか、話が進むにつれて孝弘君も含め、孝弘君たちのパーティ全体の心が成長していっているので、お楽しみがどんどん増えていくなと。
わたしが読むスペースはゆっくりですけど、続き読んでいきたいですね……。



最終盤は急転直下というか、それまで戦闘とはほぼ無縁だった3巻ですけど、一気に雲行きが怪しくなってきました。
モンスターが襲ってくる描写は1巻や2巻で何度もありましたけど、大規模な軍団で襲ってくるシーンは今まで無かったのです。いや、コロニーを襲ったモンスターは大軍団だったかもしれないですが……。

流れが流れなので読んでいて強く違和感を覚えるわけです。
何かから逃げている最中の大軍団なら、「あぁボス的なモンスターが襲ってくるんだろうなぁ」って展開が予想できるんですけど、なんか統率が取れているっぽい節があるんですよね。

そして、

 ダメージがなかった? そんなはずがない。頭部がふたつに割れているのだ。即座に死なないのは、虫の生命力ゆえのことだとしても、ほんの一瞬さえ動きをとめないなんてことがあるはずがない。本当に、なにが起こって……。
(3巻、No.3725-3727より引用)

とあります。
……中盤辺りのシランのお話と組み合わせると、これ悪い考えを抱いたモンスター使いの人がいるってことですよね。
つまり元の世界からこの世界に来た人の中かつチート能力持ちで裏切り者って書くのが正しいかわかんないですけど、明確に殺意を抱いている者がいるってことですよね。
しかもパスを繋げるなんて優しいものではなくて、洗脳レベルで指令を出すレベルで

問題はチリア砦の外側にいるのか内側にいるのか不明であること。
しかもチート能力は孝弘君のように隠している可能性もあります。
目に見えるものが正しいとは限らないのです

「どうか生きてください。幸せになってください。……真菜が幸せになれないのに、わたしの物語がハッピー・エンドになるはずないではありませんか」
(3巻、No.3823-3824より引用)

ローズにフラグ乱立していません?
死亡フラグっていうフラグが。あからさまに加藤さんを庇って命を落としそうな雰囲気がじわりじわりと近づいているんですけど……。
嫌ですよ……せっかく容姿を変え、孝弘君により近づこうとひたむきで、それでいて加藤さんとどんどん友情を育んでいっているのに……。

ガーベラと合流したところで3巻は終わりを迎えます。
冒頭のカラー挿絵のように、チリア砦が襲われている構図を迎えて。

ここでひとつ、疑問が浮かびました。
ローズって直前で左眼が転げ落ちて、左腕の手首から先が破壊されているんですよね。
あれ? カラー挿絵だと無事じゃなかったっけ? ってことで早速冒頭を見直しました。

ローズの左目は髪の毛で隠されてわからなくなっています。
加藤さんを抱き抱えていますけど右腕のみが映っています。整合性取れてました……見えないところは勝手に『あるだろう』と思うのが人間心理。確か空間補完効果って言うんでしたっけね。想像で補ってあるものだとばっかり思っていました。
というか本編最後の部分をカラー挿絵に持ってきているのか……凄いネタバレをしちゃってますね。びっくりですよ……良いんです? 

ってことで3巻は終わりを迎えました。
4巻は孝弘君視点とローズ視点、二つの視点から多角的に展開される……でいいんでしょうかね。砦が襲撃されるまでの場面が描かれていませんので、きっと4巻が始まるとじわりじわりと不穏な展開が這いずっていくのだと思います。
砦が襲われている以上、誰かが黒幕なのは間違いありません。今まで登場したキャラなのか。それとも今まで登場していないキャラなのか。雰囲気だけで行くなら坂上君か工藤君が怪しいのかなぁと思っています。遠征して離れた飯野さんが悪人とは思えないので、多分男子勢の誰かが手を引いているのだと予想します。

問題はどうしてそういうことを引き起こしたか、なんですよね。
メリットがわからないんですよ……いうなれば砦って絶対安全地帯に近い聖域みたいなものでしょ? それをわざわざ壊すっていったい何がしたいんでしょうか。
モンスター使いだから砦を壊しても生きていける、と見立てることもできます。
けれどその場合もわざわざ砦を壊す必要性が無いんですよね。こっそり出ていけば良いだけの話なので。バレて殺されるリスクだってあるでしょうに……。

3巻は緩急の付け方が上手い構成だと思います。
じっくり温めて急に爆発させるというか……4巻を直ぐに読んで続きを見なければっ!



ってことで今回はこの辺で終わりにします。
いやーカラー挿絵でどうなるか予想がついていたにせよ、盛り上げ方が上手いですね……複雑に絡み合う人間模様も相まって、いったい誰が生き残れるのか、誰が真犯人なのか楽しみで楽しみで仕方ないです。