年が明けました。
長いこと放置してすみませんでした(滝汗)。
今年ものんびり読んだラノベの感想をアップしていきます。

2019年ひとつ目の記事はモンスターのご主人様の4巻になります。



モンスターのご主人様4巻表紙絵




今回はモンスターのご主人様の4巻の感想記事です。
ネタバレだらけですので要注意です。


まず4巻の時系列がちょっとだけややこしいので2、3巻を軽く振り返ります。
2巻の終盤でエルフの騎士、シランと孝弘君たちは出会うんですが、この時孝弘君のパーティは二分します。

・孝弘君パーティ
孝弘君(アサリナ寄生)、リリィ(水島美穂の見た目、胸元にあやめ)

・加藤さんパーティ
加藤さん、ローズ、ガーベラ

孝弘君たちはシランたち騎士団に連れられ、何人かの転移者と共にチリア砦へ。
救出されたのは坂上君や工藤君、三好君たちも含まれています。

チリア砦で親友の幹彦君と再会。幹彦君は隊長にゾッコン状態。
他にはチート持ちの十文字君や渡辺君、飯野さんがいました。
飯野さんは帝国騎士団の一部を引き連れて樹海に向かっていきました。

3巻の終盤でモンスターの集団がおりゃおりゃーと砦目掛けて突っ込みました。
少女の顔になったローズの顔と腕が確か破損して、加藤さんたち3人は砦が炎上しているのを目撃するのでした。

色々省いていますがおおよそこんな感じでしょうかね。
4巻は3巻の途中の時系列から始まります。即ち、チリア砦が襲われる少し前から、ですね。まだ平穏な時です。



それでは4巻の感想に参ります。

まず孝弘君はモンスターを使役できるチート能力を他の人、エルフに明かしていませんでした。モンスターから守るためにあれこれ頑張っているのに、モンスターを従えられたらそりゃ敵扱いされてもおかしくないのです。
事実、砦が襲われた時に騎士団の人たちから黒幕だと疑われました。
無実の潔白をいっても証明する材料が無ければ冤罪は真実に書き換えられます。

孝弘君は人を信じていませんが、人を信じています。
そして元来優しい主人公君なのです。3巻で培った繋がりが彼を救ってくれました。

ただ、ですね……いくつか展開予想しながら読んでいたんですよ。
モンスターを操る黒幕は味方の誰かなんだろうなぁと。即ち、誰かが裏切るだろうなぁーと……。

それがカッコイイ挿絵の次のページでいきなし訪れるとは思わなかったですよ
敵が退場するだろうなーって展開は予想していましたが、味方が、それもチート持ちから退場していくとは夢にも思わなかったです。
攻撃の瞬間を狙って裏切ったのはちゃんと理由があって納得しました。
やはりこの小説の作者様は人物の論理的思考のプロセスの書き方が巧いです。
そのプロセスに同意できるかどうかは別にして、筋が通っていて納得しちゃうんですね。これは敵も味方も理詰めされているというか、詰将棋みたいな感じですね。

そしてもうひとつ。
4巻の挿絵はシランが飾っているのですが、まさかシランが死ぬとは思いませんでした。死亡フラグと生存フラグが同時に成り立っていましたけど、相手が悪すぎたのはまだ良いとして、表紙絵飾ってるんだから死ぬとは思いませんよ……。

でも、そこで終わらないのがこの小説の凄いところですね。
死んでも蘇生手段が無いのが明らかになっていますが、あそこからアンデッド化してアンデッド=モンスターだからパスを繋げて心を取り戻してアンデッドモンスターとして新たな眷属になるなんて予想できませんでした。
よくよく考えると2巻の時点でアンデッドになった騎士団と鉢合わせしますが、4巻ってあれだけ大量に死者が出たのにアンデッドになったのはシランただ一人だけっぽいんですよね。ってことはアンデッドになる条件は明らかになっていない非公開情報が隠されているのかなーなんて思ってしまいます。



十文字君が裏切るってのも予想していなかったです。3巻の時点では
でも4巻で挿絵で彼の顔が出てきた時、なんとなく裏切りそうな風貌だなぁって思ってしまいました(ごめんなさい)。
ただ裏切るにしてもどうして裏切って砦襲撃を起こさせたのかってのは推理しきれませんでした。
可能不可能は置いといて、よくよく考えると割と納得する動機で良かったです。
……いや、倫理的に考えると全然良くないんですけど、十文字君は現実を見据えていたんだなって思っちゃいますね。

根底に異世界に順応できるのかってのがこの小説の底のひとつにあると思うんですけど、異世界ライフを楽しむ余裕なんて4巻までの段階だと無いんですよね。平和であっても一時的なものですし、今まで出てきた施設は小屋や砦で人里とは無縁の状態が続いていますし。
なら極限状態に常に置かれているのですから、精神的に参ってしまっても仕方が無いと思うのです。思うんですけど平気で他人の命を奪ってしまうと一線を越えて戻れなくなっちゃうって思っちゃいますね……。

他人を殺してスイッチ入った十文字君ですけど、三好君との会話では良心と良心の呵責を感じましたし……でも、それはそれ、これはこれで割り切ってますよね。わが身が可愛いのはある種自然なことですし、元の世界に戻るために手段なんて選んでられないってのはよくわかります。同意できませんけど。



4巻はチリア砦を奪還していく流れになるだろうことは分かり易かったですが、展開が二転三転して中々先が読み難く、バトルシーンが多くて見応え抜群です。

……表紙絵の一部をガーベラが担っていますが、正直登場場面はそれなりにあったんですけど思ったほど印象に残らなかったです
猪口才なーとかしゃらくさいなど古風なセリフは印象に残っているんですが、他が濃すぎて主張負けしたイメージが(汗


真の黒幕は何となく読めたんですよ。
読めたんですけど中盤明らかに死んだでしょこれはって展開があって、あそこからどうやって生還したんだーってばかり考えていたので、中盤くらいに登場するドッペルゲンガーがああいう感じで絡んでくるとは思わなかったです。

真の黒幕こと工藤君ですけど、壮大なことをして真の目的が勧誘でしたし、工藤君のさらに上の存在がいることが示唆されていますし、先が読めないなぁと。

意外だったのは三好君が生還したこと……ではなく、三好君が特に大きくシナリオに絡まなかったことですね。ネームドキャラですしもっと大きい役割を担ってくるもんだとばかり思っていました。
幹彦君は隊長に惚れていますが、そこを突かれる(例えば人質にされるなど)と裏切る展開もあり得そうで中々怖い現状です。

チリア砦編……で良いんでしょうかね。
死者が沢山出ましたけどめでたしめでたし……じゃないですよね。
まだ砦のモンスターを追い払って工藤くんたち黒幕組が去っていっただけで、まだ敗残処理が残っています。5巻もチリア砦編なんでしょうかね。
懸念するべきは飯野さんたちがまだ戻ってきていないこと
ひと悶着あるだろうなーって思っちゃいます。膂力が強化されたウォーリアである十文字君と違い、明確にスピード特化ってスキル持ちの飯野さんです。
孝弘君たちと戦うことになったと仮定して、正面からではまず勝ち目なさそうな相手です。

この膂力が強化されたウォーリアってチートにも正しいかどうかは別にして、工藤君の解説は舌を巻きましたね……そういうことなのかーって思っちゃいました。

願いが、想いが力を成すなら幹彦君も何か明確に願った結果がエアリアル・ナイトってことですよね。一人称視点の幹彦君の心情描写が無い以上、あれで全力なのかまだジョーカーを隠し持っているのか定かじゃないですが、何か願った方向性があのチートだとするならば、それもシナリオに絡んできそうで楽しみです。

そういえば前回の記事で以下の部分を引用して紹介しました。

 対して、十文字の力には、そうしたものが感じられない。
 本来なら時間をかけて、想いを傾けた結果として得るべきものを、なんの代償もなく、 降って湧いたように手に入れたものだから、当然あって然るべきものが欠けているのだ。 むしろおれは、そうした彼らの在り方に、薄ら寒いものを感じていた。
 だからこそ、なのかもしれない。ふと思った。思ってしまった。
 おれたちのこの力には、本当に代償はないのだろうか?
(3巻、No.1199-1203より引用)

ってことは想いを媒介にして得たチートスキルの代償って何なんでしょう。
今回、シランを死から心を生還して取り戻した少しあとで孝弘君に何かしらフィードバックのようなものがあった描写があります。
恐らくあれが代償のヒントなんでしょうね。
生命力、寿命が代償だとなんかありきたりというか……。
この小説で論理的にあれこれ説明がついているのに、未来で回収されるものが代償ってのはしっくり来ないのです。もっと別の何かが代償になっている気がします。



4巻はいくつも好みの場面というか、好きな地の文やセリフが出てきて胸の内が凄く盛り上がりました。
いくつか挙げるとですね……、

 さあ。失われたものを取り戻しに行こう。
(4巻、No.3058より引用)

まず中後半のこの地の文ですね。
何が良かったかってあれだけ色んなものに疑い、信じず、常に一歩引いたところから考えていた孝弘君からこういう前向きな思いが飛び出したことですね。
しかもモンスター相手じゃなくて人(エルフ)に対して何ですから猶更です。
親友である幹彦君にすらカードを切りながら会話していたのに、チリア砦の戦闘で孝弘君の心が大きく成長したんだなぁと思っています。

 人間が笑うときには、たとえ作り笑いであったところで、そこになんらかの感情が 付随するものだ。しかし、『ベルタ』の笑みにはそれがない。その笑みは皮膚に張り付いた『なにか』にしか見えず、ただただ、おぞましさしか感じられないものだった。
(4巻、No.3738-3741より引用)

ここも好きな場面です。
どうしてかっていうと3巻でローズが少女の顔を作りましたよね。
ローズは加藤さんとガーベラを見て、人間味を、女の子を学んでいきました。
途中、表情についての指摘がありました。ローズは表情も学んでいきます。

4巻の後半に出てきた、ベルタが作った十文字君のコピー体は作り物の笑顔であっても感情の笑顔ではないのです。笑顔を模した笑顔。故に不気味の谷現象を起こしています。

ベースが人間でありつつ人間の笑顔から遠く離れるベルタ
ベースが人形でありつつ人間の笑顔に少しずつ近付くローズ

この対比ですね。
4巻は今までの展開と対比になる展開が多くて、読み追いかけていって思わず「おおっ」って思った場面がいくつもあります。
解決しきれていないものの、4巻で大きく一区切りついています。

孝弘君と工藤君の対比もそうですね。一歩ズレると孝弘君は第二の工藤君になっていたかもしれません。
孝弘君と工藤君。何が違っていたのかっていえば心の通った信頼できる存在に出会えたかどうか、じゃないでしょうか。
同じチートスキルでありながら、同じ境遇を歩みながらこうも大きくルートが異なってしまうのか……って思ってしまいます。

そしてこれがファーストインプレッションである以上、これから何度も工藤君と戦ったり絡む機会が増えていくんだと予想できます。
この時、孝弘君が自分を見失わないまま自分の道を歩んでいけるのか、些か不安なんですけど、リリィたちがちゃんと支え続けてあげればきっと孝弘君は茨の道でも歩み続けることができると思います。



ただ不安というかどうなるんだー的に気になる点もあります。
たとえばこの小説はどうすればエンディングに辿り着けるのか、辿り着くために何が必要なのかわからないという点です。
樹海が広がって人間を脅かしているのが大きい課題です。
工藤君たちの動向も気になりますが、帰るために必要なポイントなのかっていうとそうじゃないと思います。

そして仮定で話が進んだ以上、本当にスキルの成長が元の世界への帰還に絡んでくるならややこしいことになるだろうなぁと思います。そもそも孝弘君は元の世界にどれくらい還りたいのかもわからなくなり始めました。

つまりリリィたち眷属の存在が日に日に大きくなっていっている以上、彼女たちの存在が元の世界と天秤にかけた時の錘になってくるってことですね。
異世界をどうしたいのか、どうなりたいのかってビジョンがまだ全然見えない以上、まだまだ序盤というかいかようにも世界が広がっていきます。

そしてまだ表れていないネームドの元の世界のキャラたちもいます。彼ら彼女らもシナリオに関わって来るんでしょうね……特に気になるのは水島美穂と懇意だったっていうあの人ですが……さて。



最後に4巻を読んでとても個人的に気になったこと。
4巻の冒頭のカラー挿絵でリリィとローズが黒幕組と対峙する場面があります。
ローズは3巻の時点で顔を負傷しています。挿絵では顔が見えていますね。
でも4巻の作中でこういう描写があります。

  苦鳴とともに森の薄闇から飛び出してきたのは、白い服を身に纏った灰色の髪の 仮面の女と、彼女を追って飛来する無数の影絵の剣だった。
「ローズ!?」
 盾で防ぎきれなかった影絵の剣を、肩口から生やした仮面の女……もといローズ が、おれのもとまで後退してきた。
(4巻、No.4233-4236より引用)

ってことはですね、孝弘君ローズが少女の顔を創ったことを知らないはずなんですよね。最終盤で『仮面の奥でー』って地の文がありますし、まだ仮面は外されていません。
即ち、孝弘君がローズの表情を見るイベントが5巻で訪れることがほぼ確定しますので5巻の一番の楽しみになりました。
5巻を読むのは少しあとになりますが、いやー5巻も楽しみですねぇ……。
(おわり)

※追記
ひとつ書き忘れました。
シランが蘇りましたけど、アンデッド状態の時点で片目が喪われていますよね。
眷属になった現状、この片目ってどうなったんでしょう?

(今度こそおわり)