ラノベ熱が上がってきました。
この勢いを大事にしたいですね。
去年は記事をあまりアップしませんでしたし……。

GS5

今回はゴブリンスレイヤー5巻の感想記事になります。
いつもどおりネタバレ満載でお送りします。
2020年2月に公開される映画、ゴブリンスレイヤー -GOBLIN’S CROWN-の巻に当たりますので観に行く方は特に記事をご覧になる際、ご注意ください。

ゴブリンスレイヤー -GOBLIN’S CROWN- 劇場情報

ゴブリンスレイヤー -GOBLIN’S CROWN- 特別チラ見せPV




ゴブリンスレイヤー 5(GA文庫) 
著:蝸牛 くも先生
イラスト:神奈月 昇先生

ゴブリンスレイヤー5 (GA文庫)
蝸牛 くも
SBクリエイティブ
2017-05-17



1巻は時系列が数珠繋ぎとなる4つのエピソード。
2巻は水の街。下水道と遺跡を舞台にした長編エピソード。
3巻は拠点である辺境の街が舞台のシティアドベンチャー。
4巻は1巻から3巻の時間軸で描かれるショートエピソード集でした。

3巻、4巻となるにつれてゴブリンを狩る描写が減っていきました。
物語として面白い反面、ゴブリンをひたすら鏖殺するカタルシスが減りました。
物足りなさを覚えたんですよね……。

今回、5巻はひたすらゴブリン狩りに終始します。
雰囲気としては2巻が比較的近いですね。
一度に殲滅するのではなく、体勢を整えたり準備をしたり。
RPGで大きなダンジョンを攻略するような動きになっています。

5巻は1巻丸ごと関わるキャラとして、令嬢剣士の存在が挙げられます。
ちなみに劇場版で令嬢剣士を演じられるのは上坂すみれさんです。
オーバーロードのシャルティアなどを演じられている方ですね。
今の時期だとスター☆トゥインクルプリキュアのキュアコスモです。
メイン陣もそうですけど声優陣豪華過ぎでしょ……。

結果から見れば令嬢剣士の行動の悉くが裏目に出ました。
令嬢剣士は何もかもを奪われ、ゴブリンに対し怨嗟で燃えています。
そう、令嬢剣士は在りし日のゴブリンスレイヤーさんなのです

令嬢剣士を見て特に思った部分がひとつあります。
それは令嬢剣士が救出後、ゴブリンスレイヤーさんたちから酷く責められかったことです。
優しく対応されている描写が精神的にキツかったです。
責任や後悔の気持ちを抱くことすら許されなかった、と見立てることができるんですね。
かといって咎められたら咎められたで令嬢剣士の心が死ぬだろうなとも思いますが……。

令嬢剣士の取った行動は結果的に裏目に出まくってます。
でもプランそのものは悪くなかったんですよね。
パーティの連携も上手く取れていました。
戦力もそれなりにありました。

令嬢剣士の何が悪かったのでしょうか。
そのひとつは、ただただ運が悪かったんじゃないでしょうかね……。

> ただ、その冒険者は他の者とはちょっと違いました。
> 彼は常に策を練り、考え、行動し、鍛え、機転を利かせ、徹底的でした。 
> 彼は決して、神々にサイコロを振らせようとはしませんでした。
(1巻、位置No.4037-4040より引用)

四方世界が神々が見守るボード盤の世界であるならば、あらゆる行動はサイコロによって判定が行われていることになります。
つまりクリティカルが出て運が良い人もいれば、ファンブルが出て運が悪い人もいるわけです。

令嬢剣士の採ったプランは悪くありませんでした。
しかし運悪く、彼女らの想像を遥かに越える知恵者が紛れ込んでいたのです。

>「想像力は武器だ」
> そう呟くゴブリンスレイヤーは、油断なく矢を番える。
>「それがない奴から死ぬ」
>「……先に潜った、人たちみたいに、ですか」
>「そうだ」
(1巻、位置No.1471-1473より引用) 

1巻で特に印象に残ったやり取りです。
まさにそれを体現した形になっています。
しかし予測しろってのも酷な話です。
何故なら彼女らはゴブリンスレイヤーさんのような専門家では無いのですから……。

――と、色々調べるまでは思ってました。
令嬢剣士、白磁等級(第十位)でしかもこれが初任務じゃないですか……
初任務でゴブリン退治に挑んで壊滅するってこの世界じゃ様式美ですねこれ。

令嬢剣士鋼鉄等級じゃなかったっけ? と首を傾げました。
……1巻の貴族令嬢のパーティとごっちゃになってました(滝汗 。
令嬢剣士と貴族令嬢別人なんですよね。
ちなみに貴族令嬢って誰かというと、砦で全滅した女性4人パーティのリーダーです。
アニメ版はほぼフルカットでしたが、コミカライズ版と小説版では描写があります。

なお、FFさんの力も借りたのですが、令嬢剣士のパーティの他の4人の等級はわかりませんでした。
もしかすると劇場版の中で等級が明らかになるのかもしれないですね。

戦慣れしていたこと。
戦場において男女の関係にならなかったこと。
そして何より頼もしかったので、最低でも黒曜等級以上だと思われます。


――そう。
頼もしいんです。
5巻。何が凄かったかってゴブリンスレイヤーさん他戦闘方面はもちろんそうなんですが、女神官の精神的な成長っぷり、心の余裕の広さが凄かったのです。
令嬢剣士を救出後、嫌な顔ひとつせずずっと励まし続けているんですよ。

常に希望を抱いているんですよね。敵地真っ只中だっていうのに。
アドリブにも強くなっていて、冒険し始めて(つまりゴブリンスレイヤーさんと出会って)1年の歳月は女神官を心身ともに成長させたんだなとしみじみですね。


蜥蜴僧侶の手札の広さも凄かったですね。
ゴブリンと意思疎通する《念話》(コミュニケート)の呪文。
さらに《腐食》(ラスト。錆を意味するrust)の呪文まで使えるのかと舌を巻きました。
戦闘も戦闘以外も汎用性に優れまくりで一騎当千の大活躍ですね……。
誰とでもフランクに円滑に会話できてますし、パーティの仲裁役ですし縁の下の力持ち過ぎます。


脱線ついでにもうひとつ。
前巻、4巻はサイドエピソード集で別にナンバリング出さずに外伝的に出せば良いのでは?
とぶっちゃけると思っていました。実際販売サイトのレビューも4巻は評価芳しく無いですし。

そんな4巻ですが、ゴブリンスレイヤーさんは槍使いと次のようなやり取りをしています。

>「お前も魔剣の一本くらい持ち歩いたらどうだ。格好つかねえだろ?」
>「魔剣を持つ気はないが、指輪の類なら持っている」
>「へえ?」
>「水中呼吸だ」
> ゴブリンスレイヤーは短く言った。
>「小鬼どもに奪われても、痛手にならん」
>「何に使うんだ、っつか……奪われるの前提かよ」
(4巻、位置No.2116-2119より引用)

ゴブリンスレイヤーさんのストイックさが際立ってるなぁって思いながら読んでいたんですよ。
……まさかココ伏線だったとは
5巻で凄い方法でこのやり取りが回収されたの絶句しましたですよ……。

ということは、4巻の他のエピソードも今後の伏線になっている可能性が非常に高いと思います。
再評価の流れ来るかもですね……やられましたです。




話が脱線しました。
それではある程度シナリオの流れに沿って感想を書いていきます。

まず剣の乙女。
フォントを変えた演出がとても良かったです。
ゴブリンスレイヤーさん唐変木ってわけではないです。
けれどいかんせん色恋沙汰には向いてない性格ですね。
……剣の乙女の想いが届く日は来るのでしょうか。



次に村での戦闘。
今までの戦闘と大きく異なり、三次元的な戦闘になっていて面白かったです。
twitterでも呟きましたが、まるでXcomのようだな、と思いました。
高低差を活かす戦闘そのものは1巻の遺跡でありましたけど、あれは一方的な展開でしたからね。
高い場所も同時に目配せしなければいけない緊張感……良いですねぇ。

この世界は呪文を連発できる世界観ではないので、呪文は事実上切り札なんですよね。
だからいかに膂力・戦略・機転で立ち回るかが問われてくるんですよね。
多対少数の戦いになりますし、想像力の無い者から倒れていくのです。



次に温泉シーン。
別にえっちな意味で良かったって訳では無いです。
あれだけ温泉は火と水の精霊がーと嫌がっていた妖精弓手が温泉に入ったのが大きいんですね。
異文化コミュニケーション。
他の文化を汲み取ろうとしている多様性に対して寛容的になっている成長を感じました。



次に洞窟までの道のり。
令嬢剣士のパーティもそうでしたけど、冬の雪山は寒さその他との戦いなのです。
その場にいるだけで体力精神力兵糧水分その他を消費していきます。サバイバルなんですね。

しかしゴブリンスレイヤーさん御一行。
寒そうだなと伝わってきても辛そうだなとはあまり伝わってこなかったです。
脅威として感じることが無かったというか……。
気候の変化に対応する臨機応変さが強くなっていたというか。



次に洞窟のシーン。
カラー挿絵のことをすっかり忘れていたので、この洞窟がロングなダンジョンになっていてボスポジションのゴブリンと戦うことになるのかな、とぼんやり思いながら読んでいました。

印象的なのはやはり妖精弓手の怪我でしょうか。
この四方世界の科学技術力がどれほどのものなのかわかんないですけど、金属が身体に毒というのは判明しています。
実は薬学毒性学って結構発展した世界なのかな、とか想像しています。
あと風化って概念がわかっていますし、足りない科学を魔法・呪文技術が補っていて見えていないだけで実は結構凄い世界なのかも……。

ゴブリンスレイヤーのアニメ第7話で女神官を演じられていた小倉唯さんの悲鳴が凄かったので、劇場版でこの場面の妖精弓手演じる東山奈央さんの演技が凄いことになるだろうなぁと思ってます。

今回の依頼の目的は、ゴブリンの殲滅はサブでメインは令嬢剣士の救出です。
割とあっさりと見つかったので、ここを読んでいた時点では全体のボリュームから見ても半分に全然届いていませんでしたし、まだ前座なのかと変な汗が出ました。

最後にもうひとつ。
ゴブリンスレイヤーさんがゴブリンパラディンの存在を看破するシーン、凄くゾクゾクしました。
得体の知れなさとその黒い霧が晴れていくのが奇妙なカタルシス感がありましたね……この辺劇場版になるとBGMが無音になってそうな気がします。




次に令嬢剣士の過去回想と復活。
いかにして令嬢剣士のパーティが壊滅していったのかがわかるんですけど、もう裏目裏目で可哀想でしたね……。1巻の青年剣士たちのような初歩的ミスをしていないから余計思いました。

前日譚で嫌な予感しかしなかったんですけど、なるべくしてなった悲劇が丁寧でリアルです。
特に人間関係が時間の経過と疲労と焦りで悪化していくのが読んでいて胃が痛かったですね。
兵糧攻めって有効な反面、いつ終わりが来るのか見え難いんだろうなと。
精神的な意味で危うい戦術なんだな、と思いました。

自分は助かった。
仲間は殺された。
家宝は奪われた。
貞操も奪われた。
誇りが奪われた。

自分以外の何もかもを失ってしまったというのは、ゴブリンスレイヤーと同じなんですね。
不幸中の幸いながら令嬢剣士は実家が無事、というのが大きな違いです。
もっとも、実家を飛び出して冒険者になったのですから、捨て去った実家から助けられるというのもまた、令嬢剣士に大きなダメージを与えていると思います。

故にゴブリンに対し、何が何でも殲滅しなければいけない、と復讐に走るのは仕方が無いのです。
略奪される前のはつらつとした明るさを失い、怨嗟の闇に投じるのは仕方が無いのです。
ゴブリンスレイヤーさんと違うのは、直ぐに復讐できる『戦力』があったこと。

髪の毛は女の命。
自分が女であることの髪の毛を切る(捨てる)ことで覚悟完了。
ゴブリンスレイヤーさんたちも彼女の意を汲みました。
もしも汲まなかったら令嬢剣士は勝手に特攻していたでしょう。
自分の目の届くところに居させることが最大の安全ですね。

……ただですね、

復讐に走る余りに周りの話に耳を傾けない。
コミュニケーションを取らない。
勝手な行動を取る。

というのはゴブリンスレイヤーさんのパーティだからこそ受け入れられたのであって、そうでなければ他の何かしらの手を使われていてもおかしくなかったと思うんですね。
ついていく以上、令嬢剣士は戦力なのです。
お荷物では守りながらの戦いになってしまうので危険なのです。
なにせゴブリン数十匹を倒したあの洞窟が前座であるならば、本陣はもっと相当数のゴブリン、そして上位種がいるのは想像に難くないのですから。

多対少数の戦いは守るものがあれば俄然不利になります。
故に令嬢剣士は守られる存在ではなく、戦力にならなければいけないんですね。
それでもゴブリンスレイヤーさんたちは令嬢剣士の意を最大限汲みました。

妖精弓手が割とキレてましたけど、それでも突き放すことなく優しかったですよね。
妖精弓手が割とキレていたのは、ある意味では令嬢剣士にとって救いになったかもです。
何故なら妖精弓手は令嬢剣士のことを怒ってくれた(つまり責めてくれた)のですから……。



次に雪山の城砦。
5巻のメインフィールドですね。
5巻の構成40%くらいがこの雪山の城砦関連で占められています。
地の利が圧倒的にゴブリン側に有利ですので、予め相応に準備と戦略を立ててから行きます。
もっとも、城砦の中がどうなっているかは地図が無いのでわからないです。
ですので迷宮探索的な要素も多く出てきます。2巻の地下水道以上に手探り感満載です。

まず城砦の中に入るにはどうすればいいか問題。
RPG的に考えると裏口の鍵を持っていたり実は地下から侵入できたりetc...といくつか描くことができますが、ゴブリンスレイヤーさんたちはもっと違う方法を選択しました。
(というかあるのかどうかわからない場所なのでこれくらいしか有効な方法無いでしょうし)

ここで思ったのがゴブリンスレイヤーさんと令嬢剣士の差。
ゴブリンスレイヤーさんも令嬢剣士もゴブリンを殲滅したいという共通項がありますが、冷静を保つことができるのか、という大きな違いがあります。

要はゴブリンという餌が目の前にぶらさがっていて、『待て』ができるかどうかですね。
恐ろしいくらいにゴブリンスレイヤーさん冷静なので頼もしさ満載です。いかにして最大効率を狙っているのかがヒシヒシと伝わってきます。

対する令嬢剣士はゴブリンを倒せるタイミングが来れば即座に食って掛かる感じなんですよね。
それでも最後の一線、《稲妻》(ライトニング)は言われたとおり使わずにキープしましたし、理性と憎悪が常にギリギリの均衡状態だったんでしょうね

そして上でも書きましたが蜥蜴僧侶の一手が良かったです。
制約があるとはいえ、意思疎通を図れるのはとても大きいです。
こういう特異な状況だからこその一手ですけど、この一手が無かったら城砦の攻略初手でリソースは大きく割かれていたのが容易に想像できます。

別口では鉱人道士が《着火》(ティンダー)の呪文で機転を利かせて温めてくれた場面好きです。
さらに加えるなら少し時間を戻しますが洞窟攻略の手前、雪山登山の時、《追風》(ティルウィンド)で吹雪対策していますし……。

もうなんでしょうか。
蜥蜴僧侶と鉱人道士の2人、戦闘以外の手札の数の多さが凄いんですよね。
頼りになりすぎる……さすが銀等級の冒険者なのです。



雪山の城砦の中に入ってからはもう凄かったです。
地下水道と違って敵陣ど真ん中で援軍も期待できず、限られたリソースでしかも捕らえられていた者を守りながらの戦いなので緊迫感が凄かったです。

特に良かったって思うシーンがいくつかあって、その筆頭がゴブリンスレイヤーとゴブリンパラディンが対峙する挿絵ですね。
カラー挿絵の時と違い、ゴブリンスレイヤーさんがゴブリンパラディンを見下ろしている構図なんですけど、どっちが悪役なのかわからなくなるようなすんごい描かれ方がされていて燃えますねこれ。

視線が合って、決戦の火蓋がその瞬間に切られて、そこからは息をする間もない激戦に次ぐ激戦。敵陣で隠れながら各個撃破または頭であるゴブリンパラディンを先に落とす戦略が取れなくなったので、アドリブで全て乗り切らなければいけないっていう。
それまでに令嬢剣士が色々やらかしちゃってますが、不可抗力でトドメが刺されたってのがまた悲惨ですね……せっかく持ち直しそうだったのにこれですもの。

初見なんですから城砦はゴブリンスレイヤーさんたちにとって立体迷宮なんですよね。
どこが安全地帯なのか踏破しながら即席でプランを立てつつ、限られた呪文を最大効率で使うタイミングを見計らっていきます。
全滅するかもしれないから出し惜しみなく使うの逆ですね。
事実、出し惜しみしたからこそ城砦から脱出後の最後の大技が使えたんですよね。

よくよく考えると、こういう舞台なんですから、こういう展開が予想できてもおかしくないです。
思考の誘導が上手いですよね……こういうクライマックスになるとは思わなかったです。

読み終えてみると、ゴブリンパラディンって統率性があったり知識を分け与えたり、戦闘よりも戦闘以外の部分の暗躍が目立った印象です。
そして戦闘方面ですが強いんじゃなくてすんごいしぶといって印象になっちゃいますね。
戦闘だけで見るなら1巻のオーガのほうが苦戦していたと思いましたし。

決め手が令嬢剣士だったからこそ、今までの全てのマイナスがプラスになるわけでも帳消しになるわけでもありませんけど、救われた、止まった時間を前に進めて良かった……って思いました。
在りし日のゴブリンスレイヤーさんと同じだった令嬢剣士は、家宝と、そして誇りを取り戻せたのです。

仲間も貞操も希望も失ってしまいましたが、帰る場所があるってのは大きいですね……。
それとwikipediaを読むと今後も出番のあるキャラのようですし、憑き物が落ちてはつらつとまでは行かなくても、次なる一面を見るのが非常に楽しみです。



最後に今回の一連の出来事。
大きなキャンペーン(TRPG的に)の一幕のようですし、もっと大きな何かが暗躍を始めたようですね……ゴブリンパラディンが結局何がしたかったのか割と最後のほうまでわからなかったんですけど、ゴブリンスレイヤーさんの推理を見て背筋がゾクッとしました。怖かったです。

ともあれ、四方世界も新年を迎えたようで。
これで最後のエピローグが「明けましておめでとうございます」的な挨拶だったら盛大にずっこけたんですけど、手堅くまとめられていて、最後までシリアスだったなぁと思った5巻でした。