今回は久しぶりにゴブリンスレイヤー関連以外のラノベの感想記事になります。

ラノベ……うん、ラノベ……なのかな。
表紙絵以外に挿絵が無かったレジェンドノベルスのDSDもラノベ扱いにしましたし、きっとラノベ扱いで良い……はず。

というわけで今回は俗に恥パと呼ばれている恥知らずのパープルヘイズをお送りします。
いつも通りですがネタバレだらけですのでお読みの際はご注意ください

また、一応感想記事の体裁になっていますがぶっちゃけかなり読み難いと思います
引用込みで軽く1万文字を突破する久しぶりの超ボリューミィな記事となっています。

考えたり思ったり、まとめたことをあれこれマシンガンしたので感想と解説が混合するようなデコボコな記事になっています。ごめんなさい。

あと恥パの記事からになりますが、1巻完結作品はカテゴリーを単巻感想に入れています

何を隠そう第五部まではジョジョ読破済みなわたしなのです。
もっと早くに読めば良かった……と満足感と後悔でいっぱいになりました

(※第六部以降は読みたいと思いつつ、結構な金額が必要なので中々気が進まない感じ)

HPH



恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より― (集英社) 
著:上遠野 浩平先生
現著:荒木 飛呂彦先生
イラスト:荒木 飛呂彦先生
先に軽く恥知らずのパープルヘイズ(以下『恥パ』と記載)を紹介すると、『ジョジョの奇妙な冒険第五部、黄金の風』の後日談、半年後を扱った小説です。
ただし著者は荒木先生ではなく、上遠野先生です。
荒木先生はイラストで参加しています。
上遠野先生はブギーポップは笑わない(ブギーポップシリーズ)が特に有名だと思います。

恥パは公式なのか非公式なのか?
一次創作なのか二次創作なのか?
判断するのは非常に難しいです。
色々調べて腑に落ちたのは、『公式だけど正史ではない』です。

でもぶっちゃけ、

「もう正史で良いじゃん?」

って思う人はわたしを含め相当数いると思います。
じゃないとフーゴが救われませんし……。



先に追記の形で以下の3行を書きます。
文体について全く触れて無かったことにアップしてから気付きましたので……。

小説として昨今のラノベに慣れ親しんでいればいるほどかなり読み辛いです
一文毎に段落が変わるってことが無いので、地の文が線ではなく面で襲ってきます。
そういう意味では恥パは漫画に慣れ親しんで普段小説や読み物を読まない人にはハードルが高いかもしれませんね……。



恥パはスタンド〈パープル・ヘイズ〉を使うパンナコッタ・フーゴが主人公のお話です。
第五部で死亡して離脱した味方とは別に、途中で戦線離脱したことでフーゴは生存しています。

アニメだと離脱後、ナランチャが死亡した直後、フーゴは街をふらついていてナランチャの魂と思しき鳥の影が通過後、空を見上げていました。

原作(漫画)はフーゴが戦線離脱したあと、どこで何をしていたのか不明でした。
恥パではその一部始終どころか場面場面で何を考えていたのか語られます。

恥パの良い所はいくつもあるのですが、フーゴに絞って書くと大きく分けて3つ挙げられます。


まず、フーゴの思考回路の説得性。
フーゴがブチャラティを裏切る結果になって戦線離脱しました。
どうしてそういう行動を取ったのか、だけなら原作を読めばわかります。

しかしどうしてそういう行動を取ってしまったのか。
自分はどうしたかったのか。
何が間違っていたのか。
後悔と無力の念に苛まれたフーゴがどのような人物なのか深く掘り下げられています。


次にフーゴが信頼と絆を築いていく流れ。
中盤まで読めばわかりますが、フーゴは仲間を信頼しても仲間と絆を結ぶことができなかったのが決定的事実として描かれています。いわゆるビジネスライクな付き合いといった感じです。

・信頼しても絆を結べないのはどうしてなのか?
・どうすれば絆を結ぶことができるのか?

というのが精神の成長と共に描かれています。

少し外れますが、今回のチームのシーラEもムーロロも同様に信頼と絆を結ぶことができなかったキャラとして描かれています。

フーゴ:信頼しても絆は結べなかった
シーラE:他人を信頼できない。また、ジョルノは信頼を通り越して心酔の領域に至っている
ムーロロ:誰も信じず、自分自身ですら信じることができなかった

反面、敵の麻薬チームの4人は信頼を築いた上で深い絆で結ばれていて、命懸けで仲間を守ろうとするなど、フーゴたちと見事な対比になっています。
3人とも誰からそれを学んだのかが異なりますが、精神の成長に至るプロセスが見事です。


そういえば第五部において、ジョルノが入団テストを受けるために刑務所の中でポルポから言われた言葉がありました。

>「人が人を選ぶにあたって……一番『大切な』事は何だと思うね? それは『信頼』だよ、ジョルノ・ジョバーナ君!」

>「人が人を選ぶにあたって、最も大切なのは『信頼』なんだ。それに比べたら、頭がいいとか、才能があるなんて事は、このクラッカーの歯クソほどの事もないんだ……」

信頼を得ることは地道でとても難しいです。
そして信頼を一度失ってしまうと、取り戻すことはもっと難しいのです。
フーゴが失った信頼を取り戻すことは、困難な道であって当たり前なのです。

もっとも、本当の狙い目は別のところにありました。
二重三重に仕組まれていてジョルノの深慮遠謀スキルの底の見えなさが恐ろしいです。



最後にエピローグ。
結論から書くと漫画版第五部でジョルノがパッショーネの新たなボスに着任した時のシーンで部下が手の甲にキスをするシーンがあります。

あのシーンをフーゴが行う=魂を取り戻す=前に進む構図はぶわーっと感動しました。
感動したポイントは他にもあるんですが、何度も何度もブチャラティを裏切った行為を自問自答して心が擦り切れて読むだけで悲惨な気持ちになったんですが、よくここまで立ち直れて成長できたなぁと思いました。




感想に移る前に全体を通して特に良かった点をいくつか書きます。


まずジョジョネタに溢れていたのが凄かったです。、といっても差し支えないでしょう。
Part1からPart5まで無茶苦茶濃いです。
キーワードや名詞だけじゃなくてセリフのオマージュまであります。
上遠野先生はジョジョが大好きなんだろうなぁと思いました。

特に好きなのがムーロロがビットリオを説得しようとするシーン。

>「オレは自分が無敵だと思ってきた。誰だってその気になれば殺せると信じてきた。リゾットと ディアボロを天秤に掛けたときも、これっぽっちもスリルなど感じなかった。都合のいい方につく だけだって冷め切っていた。ヤツらのためにオレが神経をすり減らすなんて馬鹿らしいって思っ ていたんだ――誰のためであっても、オレがストレスを感じるのは許せない、ずっとそうやって 生きてきた。そんなオレが――」
(恥パ、位置No.2457-2461より引用)

>「―― 初めて〝この人にだけは失望されたくない〟と心の底から思った。あのお方は初めて会っ たときに、オレにこう言った――」
(恥パ、位置No.2462-2463より引用)

この2つのセリフ。
ジョジョが好きで察しの良い方はわかるかと思いますが、第三部で承太郎たちの前に立ち塞がったエジプト9栄神の1人目、ンドゥールのセリフのオマージュです。

しかもンドゥールが心酔した対象がDIOなのに対し、ムーロロが心酔しているのはDIOの息子のジョルノです。DIOもジョルノも他人の心・思考を見透かすのが超得意です。
ジョルノは黄金の精神の持ち主であると同時に、DIOの息子なんだなと思わされました。

そしてンドゥールと同様に、ムーロロもまた、誇り高いキャラとして描かれています。
それまでの軽薄な言動から一転し、ビットリオが負けると覚悟しながらも命を賭けて薄皮一枚の一撃を与えて死亡した場面でビットリオに敬意を表したシーンは恥パの中でトップクラスに印象に残ったシーンのひとつです。



次に作中で『スタンド』、という単語が一度も出なかったこと。
あとがきでは『スタンド』の固有名詞がじゃんじゃん登場しています。

作中ではスタンドは全て『能力』という名前で差し替えられています。
読み始める前はスタンドバトルってどう小説に落とし込むんだろうと思っていたのですが、地名や名詞以外で必要以上にカタカナが使われていないので統一性があって非常に良かったです。
そして能力という名称はスタンドという単語じゃないので、ジョジョにあまり詳しくない人が読んだとしても単独完結作品の能力バトルモノとして楽しめると思いました。


恥パは第五部のバトルと構成が大きく異なります。
恥パはスタンド同士が殴り合いや格闘術で攻撃し合う場面がほぼ無いです。

(描写は短いですが)肉体をスタンド、〈マニック・デプレッション〉で強化したヴォルペがシーラEのスタンド、〈ヴードゥー・チャイルド〉とかち合う時くらいじゃないでしょうかね。
他のスタンドバトルって結果だけ見ると、ワンサイドゲームになるか知略VS知略の戦いで正面きっての力比べってわけではないんですよね。珍しい構成なのです。

恥パは漫画ではなく小説媒体ですから、複雑な見た目のスタンドデザインにしてしまうと、地の文で伝えるのが非常に難しくなるのもバトルの方向性を大きく変えた理由のひとつなんじゃないかなと思いました。
第五部で登場しているデザインは既に読了済みならすんなり伝わっても、完全な新規スタンドとなるとそうは行かないでしょうし……。

トランプの兵隊、霧の雨、鳥、ナイフ……わかりやすいですよね。
あと例に漏れず、恥パに登場するスタンドはアーティストの楽曲から採られています。

下記サイトがわかりやすかったです。

小説版「恥知らずのパープルヘイズ」



最後に敵の麻薬チームの魅力が凄まじかったこと。
持論ですが、敵に魅力がとても溢れる作品は名作になり易いと思っています。
恥パも例に漏れず、麻薬チーム4人それぞれが凄く魅力に溢れています。
信頼があり、絆があり、命を賭けて仲間を守るというヒーローサイドさながらの活躍をします。

でも、倒さなくちゃいけない相手なんですよね。
存在自体が罪、というパターンなので和解も不可能です。
この点、存在するだけで世界を滅ぼしかねない可能性があったフーゴとの対比になってます。

自分でコントロールすれば滅ばない〈パープル・ヘイズ〉と違い、存在するだけで人の魂を滅ぼしてしまう〈マニック・デプレッション〉はパッショーネが義賊的な立ち位置になった上、ブチャラティの夢が麻薬の撲滅だったので存在自体が許されないです。

そして〈マニック・デプレッション〉の能力が麻薬を作ってしまう(時間限定で)ことで第五部の暗殺チームがもしもディアボロを倒すことができたとしても本質的な部分で解決できなかった衝撃は大きかったですね。

この辺ムーロロも絡んできて中々複雑なことになっているんですけど、組織が一枚岩ではなく、トップが挿げ替えればそのままオイシイ思いができるのかといえばそうじゃないっていう。

ムーロロといえばアニメだと写真の復元をしていたのがムーロロなのか定かでは無いです。
というのも写真を復元した人って殺されてますからね……某所の記事にありましたが、復元した人とそれを現像した人が別人でムーロロは前者だったら生きていることに矛盾が無くなります。
この場合、他人を身代わり同然にしたのですから、そりゃコカキに唾棄されるわってなります。

また、フーゴが堕ちた理由もアニメと恥パでそれぞれ異なるので、恥パは『理想』であっても正史になることはできないと思います。

ただ恥パで語られたフーゴが堕ちた理由はただただ不幸だ……と思わざるを得ません。
この辺も他人を信用していなかったフーゴが、そのまま他人(教授)がフーゴを信用してくれなかった(=実家側を信用してしまった)ですし。




それでは登場人物別に感想を書いていきます。
※いくつかのこと(セリフなど)は複数の登場人物で重複します



ブローノ・ブチャラティ

恥パ開始時点で故人です。
フーゴの苦悩はブチャラティが軸になっていて、これでもかと反復させて色々補強する作りになっています。

書きたいことの大半が他の項目と被るので省略します。

それとは別で第五部時点で答えは提示されているんですけど、補完でさらに深まってジーンと来た……という場面がひとつあります。

> 彼は、そいつに出会っていたのだ。人生を変えてしまう選択を終えていたのだ。そう……フーゴがブチャラティと出会ったときと同じように。
> なんということだろう。
> ブチャラティは、その意味でチームの誰よりも遅れていたのだ。他の者たちは全員、彼と出会うことで人生が変わったのだが、ブチャラティ自身は……その少年と出会うまで、その「感覚を知らなかったのだ。
> いつだって頼っていた。いつだって信じていた。彼ならなんでもできると思っていた。
> それなのに彼は、こんなにも簡単なことでさえ、それまで知らなかったのだ。
> 誰かに憧れて、その人に未来を、夢を託したいという気持ちを。
(恥パ、位置No.2815-2821より引用)

思わず涙腺が緩みかけました。
ナランチャたちの夢・希望・託せる相手がブチャラティでも、組織に買い殺されていたブチャラティが夢・希望・託せる相手っていなかったんですよね……。
生きて死ぬ日々を送り続けていたブチャラティにとって、ジョルノとの出会いはそれはもう青天の霹靂ですよね。できるかわからない希望を抱いてもおかしくないのです。

あと恥パを読んでビックリしたのが本編のあとのオマケ(文庫版とそのkindle版のみ収録)です。
まさかこういう方向で第五部の補完が来るとは思わなかったです。
ブチャラティという第五部におけるもうひとりの主役の掘り下げ嬉しかったですね。



グイード・ミスタ

第五部もそうでしたが、軽口や陽気なのを崩さないまま行動に移すので、根っからのギャング気質だと思いました。
話は通じますけど折れることがなく、線引きを越えさせることをしないので第五部以上に恐ろしさがあります。
また、ブチャラティの存在が全てだったからこそ、ジョルノがブチャラティが既に死んでいた事実を隠していたことに対し、全力でキレたのはミスタらしいなと思いました。

ここでジョルノの話になってしまいますが、ジョルノがミスタを説得するセリフがこれがまたズルいんですよね……。

>「そしてもうひとつは――そのこだわりとこれからも共に生きていくという道。君のその習慣には意味があり、今、まさにこのときに引き金を引かないことを暗示していたのだと――そう考える 道。君がこれからも〝四番め〟を避け続ける人生を選ぶというのなら、ぼくは君がそういう立場 に立たされたとき、迷うことなく君の代わりにその〝四番め〟を選択しよう。それがぼくの〝責任〟のひとつだ」
(恥パ、位置No.3120-3124より引用)

清算する道を提示しておいて、もうひとつがジョルノが責任を果たす道っていう。
こんなことを言われたら折らざるを得ないでしょっていう。
ホントジョルノは人の心を見透かす力に長けてますよ……。

そして『4』という数字を忌み嫌っているミスタが組織のナンバー2ではなくナンバー3を請け負った説得性も増しているんですよね。
序盤でナンバー3なのは明かされるんですけど、上のジョルノのセリフと組み合わせるとやられた……ってなります。



ナランチャ・ギルガ

恥パ開始時点で故人です。
フーゴがナランチャをスカウトしたので、何も思ってないハズが無いんですよね。

ナランチャに何故キレたのか?
ナランチャを見て何故あれこれ思ったのか?

ナランチャを通じてフーゴが自分を見つめ直すきっかけになったのは非常に良かったです。

ビットリオの項目で深く書きますが、麻薬サイドのビットリオの合わせ鏡的なキャラとして描かれています。学が浅く先を考えないタイプで、そして凄く仲間想いっていう。



レオーネ・アバッキオ

恥パ開始時点で故人です。
フーゴがアバッキオをどのように思っていたってのは第五部ではほぼ無かった(ハズ)なので非常に面白かったです。
第五部では描かれない、ジョルノ加入前のブチャラティチームの一面が見えました。

>「憶測で物事を言うな。フーゴ、おまえにはそういうところがある――頭が回りすぎて、考えなく てもいいことを考える癖が、な」
(恥パ、位置No.884-885より引用)

>「そしてオレが忠誠を誓ったのは〝組織〟になんだ。あんたに対し忠誠を誓ったわけじゃねえ―― しかしだ」
> そこまで言ったところで、急に立ち上がった。
>「オレも元々よォ――行くところや居場所なんてなかった男だ。この国の社会から弾き出されてよ ォーッ。オレの落ち着けるところは……ブチャラティ、あんたと一緒の時だけだ」
(恥パ、位置No.1852-1855より引用)

アバッキオとフーゴが似た者同士だーと見せた上でこの2つの場面(セリフ)が全てだと思います。
後述で詳しく書きますが、フーゴは頭が良すぎて最適解を出していたようで、そこに『自分の意思』は無かった(第三者目線で見た時に最も最良なのが何かを考えていた)。
アバッキオは『自分の意思』で決断できた。

ナランチャもそうです。
ブチャラティから決断を迫られた時、ナランチャはブチャラティに決断を委ねました。
しかし、最終的にはナランチャは何がしたいのか、から決断したのです。
そこに『自分の意思』は込められています。
フーゴは、それができなかったのです。



サーレー&マリオ・ズッケェロ

第五部でブチャラティチームと序盤で戦った敵。
生死がよくわかんない状態でしたけど、生存確定した上で恥パで死亡確定したっていうある種一番の被害者。

なんですけど、2人ともスタンドの使い方次第では無茶苦茶凶悪なことになるってのを存分に証明してくれたと思います。

ただ、相手が悪かったですね……。
スタンドバトルって有利不利がえげつないほど効いてきますからね……。
特に〈クラフト・ワーク〉VS〈ドリー・ダガー〉戦。
心臓を固定するって、あぁそういう使い方できるんだ……ってなりました。

でも直ぐに返り討ちで死亡。
ズッケェロの〈ソフト・マシーン〉も地上で使うとああいうこともできるんだって驚愕です。

感想から外れる蛇足になりますが、サーレーの〈クラフト・ワーク〉ってややこしいスタンドだと思うのです。

どの辺がっていうと、物体を固定するのは良いんですけど、地球って自転と公転で動いているので物体を固定した瞬間、凄い勢いでいずれかの方向に吹っ飛ばされると思うんですね。
その上、第五部でミスタと戦ったのは後半走行中のトラックの上でしたからね……。
なので正確には、自分の位置を基準にしたXYZ座標に固定するのが正しい能力なんだと思います。



カンノーロ・ムーロロ

もしも第三部のンドゥールが味方サイドだったら?
なifを叶えたキャラだと思います。
生い立ちといい、自らの強さに対する自信の表れといい、そのあとの変化といい、あらゆる点でンドゥールとの類似性が際立ちます。

自分も他人も信頼できなかった者が心酔できる相手(ジョルノ)に出会い、気高い誇りを獲得した上で依頼されたのが組織を裏切った者の始末なので、信頼できなかった者が信頼を裏切った者に対する構図になっているのが面白かったです。

また、二面性が大きく描かれたキャラであり、とぼけた前半戦と気高い誇りを感じさせる後半戦の比較がグッと来ます。
恐らく他の戦いにおいても始末されそうになったら本性を現してスタンドで戦っていたでしょう。

〈オール・アロング・ウォッチタワー〉はその真の特性が明らかになると、そりゃ誰にも負けないって自負を追うほどに強いわ……と思わせる説得性がある屈指のチートスタンドです。
同種のスタンドだと小説内でも書かれてますが、〈バッド・カンパニー〉や〈ハーベスト〉も同じ特性があります。

要するに第四部の〈ハーベスト〉と第五部の〈セックス・ピストルズ〉を足した能力(暴論)なので、よっぽどなことが無い限りは即敗北にはならないでしょう。

あとムーロロの背景で群体スタンドはどういう経緯で生まれたのかって解釈が加わってますが、ナルホドと納得させる説得性がありました。



ヴラディミール・コカキ

恥パのみ登場する登場キャラの中だと一番好きです。
知性の塊。
ヴォルペも含めた3人の希望……と言うか敵――麻薬チームって信頼と絆で固く結ばれていて、家族のようにも見えます。即ち、コカキは3人にとっての父親的存在だと言えます。
優しく諭し、敵(フーゴチーム)にも一定の情を見せているので暗殺チーム以上に大物感が凄いです。語られている内容だけを見ても、あのディアブロですら力ではなく交渉術で味方に引き入れていたっていうんですから驚きです。

あと矜持と誇りがありますよね。
〈ヴードゥー・チャイルド〉を喰らったあとの反応で、「この人には勝てないわ……」感が凄いです。いわゆる『正義の味方』では無いですが、黄金の精神に近い崇高なものを持っていたんじゃないでしょうかね……。

ムーロロに対して唾棄する態度を取っていたのも納得できます。
そんなムーロロはボスがジョルノに変わり、心変わり(精神の成長)をするんですから複雑な話なのです。

そしてスタンド、〈レイニーデイ・ドリームアウェイ〉のチート感。
こんなんどうやって勝つんだ……って思っちゃいました。
思っちゃった瞬間に敗北してしまうんですから恐ろしいってもんです。

あまりにもツワモノな描写だったので終盤まで生き残ると思ったらあっさりと退場。
どれだけ強いキャラであっても、死ぬときは死ぬって嗚呼無情がえぐいのがジョジョの魅力のひとつですが、コカキもその宿命から逃れることはできませんでした。
それもスタンド同士の相性で負けたのではなく、フーゴの機転で負けたんですから個人的にこの戦いは恥パの中でのベストバウトです。ホント凄いバトルでした。

あとコカキがフーゴに精神の成長を間接的に促してしまったのが何とも皮肉ですね……。

>「我々シチリア人は“沈黙”ということに価値を置いている。“沈黙”して“忍耐”する――そこに希望というものを見出している。自分の意思だけで人生が切り拓ける、などというのは虫もいい考え方だ。運命はそこまで人に優しくない――“正解”などはないんだ、フーゴ君。君が“間違ってない”と決められることなど、この世のどこにも存在しない。君がいくら理想に溺れず現実的だと思う判断をしても、それはしょせん比較の問題だよ。夢と現実にはそれほど違いはない――君の思う現実など、ちっぽけな錯覚のひとつに過ぎぬのだよ」
(恥パ、位置No.1358-1363より引用)

>「君は何も知らないんだ、フーゴ君。君がわかっていると思っていることは、すべて表面的な、薄っぺらな浅知恵にすぎぬ――君は勇気を知らない。人が己を捨てて生きるときの力強さを、なにもわかっちゃあいないのだ。勇気を知らないという点で君は、賢い人間の血を吸おうと噛みついて叩き潰されるノミにも等しい――」
(恥パ、位置No.1376-1379より引用)

このコカキの2つのセリフ。
フーゴが抱いている数々の疑問に対して答えになっているんですよね……。
気付くことができるのか気付けないのか。
なまじ頭の回転が速いからこそ、自分の心に素直になれなかったっていう……。

コカキはホント早い段階で退場してしまったのが本当に惜しいです。
麻薬チームは最終的に全滅するんですが、コカキは生き残って欲しかったですね……。



ビットリオ・カタルディ

もしもナランチャが敵サイドだったら……?
という答えのひとつがビットリオだと思います。

ムーロロが何としても助けたかった……というのが頷けるキャラになっています。
自分の命に対する執着が薄く、危険な思想の部分も含め、麻薬の影響が大きくあると思われます。故に麻薬に染められていなかったら、もしも出会った相手が麻薬を毛嫌いするブチャラティだったら……とあれこれ想像してしまいます。

しかし出会った相手の麻薬チームの他の3人はビットリオを大切にしていたのもまた事実。
堅い絆があったからこそ、敵を倒すために自分を犠牲にすることを厭わなかったのも説得性があります。

ただスタンドの特性上、個を相手にしても群を相手にできないのがきついです。
さらに能力次第では反射しても自分が死んでしまうっていうハイリスクハイリターンなものなのでよく今まで生きてこれたな……と思っちゃいます。

事実、〈クラフト・ワーク〉との戦いにおいては3割影響を受けたのですから運が悪かったらその時点でドロップアウトしていてもおかしくありませんでした。
故に高い運も備わっていたのだと思います。
しかし最後は運が悪かったですね……スタンドの相性が最悪なムーロロが相手だったんですから。



アンジェリカ・アッタナシオ

恥パに登場するオリジナル女性キャラは敵味方にそれぞれ1名ずついます。
その中でシーラEよりもアンジェリカのほうがわたしは好きですね……。
服装がすんごいデザインで、イラスト見た時「どうなってるんだこの服……」となりました。
民族衣装のようにデザインされていて、5巻くらいまで読んだことがある第七部、SBRのサンドマンを何となく想起しました(正確にはサンドマンの姉)。

アンジェリカの不幸は出会ってしまったのが弟のヴォルペではなくヴォルペの兄だったら……と思わざるを得ません。不治の血液がささくれ立つ病を恐らく治せると思いますし。

ブチャラティと対極にいるキャラですよね。
麻薬を撲滅したいブチャラティに対し、麻薬が延命を繋げているアンジェリカの構図です。
年相応の可愛らしい少女らしさも持ち合わせていて、特にヴォルペとビットリオに対する数々のセリフや動作は涙を誘うまでは行かなくても結構胸にズーンと来ました。

> そしてヴォルペは、彼女の身体が悪化したときに即座に治療するために、それほど離れること もできない。確かに行けるのはビットリオただひとりなのだった。
>「だいじょうぶよ、ビットリオ――心配ないわ」
> 苦悩に顔を歪めている彼の頰を、少女は優しく両手で挟んで、すりすりと擦った。顔を近づけ て、いたるところにちゅっちゅっとキスをする。
>「あんたが、私たちの希望になるの……あんた次第よ。平気よ、あんたは強いもん。絶対にできるわ」
> それは泣き虫の我が子をあやす母親のような表情だった。
(恥パ、位置No.2170-2175より引用)

麻薬チームサイドだと一番好きな場面です。
地の文は母親のようだ、と書かれていますが、全体的にアンジェリカは『姉』のように振る舞うシーンが多いです。
ヴォルペがいないと満足に動く(痛みを和らげることができないため)ことすらままならないですが、心の強さがありますよね。麻薬チームに依存しつつ、依存させる性質も非常に強いです。

麻薬チームの3人に対しては甘くても、敵や他の者に対しては苛烈、無慈悲の一言。
特に後半のまるでゾンビ映画のような一幕は恐怖を覚えました。

スタンド能力の〈ナイトバード・フライング〉は恐らく受けた者によって結果が大きく異なるのだと思います。
幻覚を見せるスタンドはちょくちょく登場しますが、〈ナイトバード・フライング〉は範囲が滅茶苦茶広いですね……。
その上、もしかすると幸福な幻覚が見えるかもしれないので、受けてみたいと思った人はいるんじゃないでしょうか……。少なくともフーゴが『見た』あったかもしれない未来は読んでいて即幻覚だとわかりつつ涙が誘われました。フーゴから見た幻想世界、理想の世界ですよねあれは……。

満足に走ることができなくても、〈パープル・ヘイズ〉のウィルスに侵されていても、ヴォルペの場所まで辿り着いたあとの展開はとてもヒロイックに見えました。
もうひとつの主役サイドとして魅力的に麻薬チームは描かれてますよね……ぶっちゃけた話、電子書籍を買う前にお試し読みを読んだ時にわたし泣いちゃったんですけど、それとは別に一番胸に来たのが、

>「あ、アンジェリカ――無事だったのか、よかった……」
> ヴォルペが彼女のもとへ駆け寄ろうとしたところで、アンジェリカは、
>「――そう、それそれ」
> と、彼のことを指差した。
>「ほら、ね――それがいい……その方がずっと、いいよ」
>「え?」
>「ヴォルペ、あんたはァ……そうやって笑うと、すっごく可愛いよ――うん、ほんとうに、可愛いから――さァ……」
> そう言って、彼女もにっこりと微笑む。
(恥パ、位置No.2640-2645より引用)

なんですよね。
〈パープル・ヘイズ〉の一撃を受けて生きていたのは、麻薬がウィルスに勝ったのだと思ったんですけど気力を振り絞ってやっとのことで辿り着いたのが、仇を討ってくれとかそういうのじゃなくて、ヴォルペの心配だったっていう……。

アンジェリカはコカキが倒されて以降、フーゴに対して憎悪の炎が点火していますが、最期のセリフが心配なんですよ……無茶苦茶胸が切なくなりました。
しかもヴォルペのスタンドによる延命があったとはいえ、9割がた死んでいるのにそれでも命を賭してヴォルペを助けようとしているのは、第五部のプロシュート兄貴を連想して滅茶苦茶尊かったです。

それだけにそこからあの展開なので、読了後の切ない余韻も非常に大きかったです。



シーラE

恥パのメインヒロインポジ。
恐らく恥パの後日談があるとするならフーゴと付き合ってるんじゃないでしょうか。
冒頭に繋がるクライマックスはとても王道的でヒロイックな展開で良かったです。

いわゆる好感度ゼロからスタートタイプのヒロインタイプ……なんですが、恥パのお話が短い日にちを描いたことを鑑みると、中盤以降、相当な勢いでフーゴに対する印象が変わっていったかと思われます。

ジョルノに心酔している反面、他の人物に心を開かない、信用できないってことでフーゴチーム共通の信頼と絆を構築できないタイプの人物として前半は描かれていました。

ジョルノとフーゴに還しきれない恩がありますが、復讐するために組織に入ったのに、復讐対象が既に居なくなってます。
生きる目的を失って無気力になるルートもありえたでしょうに、無気力にならない=復讐対象を倒したジョルノに心酔するって流れは、ある種の生存本能、死なないための防衛プログラムで仕方ないんじゃないかなと思いました。

中盤、後半と精神性の成長が描かれていてとっても良かったです。
特にコカキに対して敵わない、勝てないという精神性の敗北を抱かせた上で勝てない格上の相手であるヴォルペに立ち向かっていくのは精神の成長を感じてとっても良かったです。
この前者の場面ってシーラEの〈ヴードゥー・チャイルド〉が万能ではない、力押し以外の弱点があることを描写しつつ、コカキの精神の気高さ、強者感が描かれていてとっても好きです。

ジョジョに登場する殴るタイプのスタンドでは珍しく、ラッシュ時の掛け声が尾を引かれるような寂しさを漂わせるもので印象に残りました。

最後に。
恥パはフーゴの物語なので仕方ないんですけど、あのあとシーラEがどうなったのか……って意味でのエピローグも欲しかったです。
恐らくフーゴとシーラEは近いポジションになるでしょうし、顔を合わせる機会も多かったでしょうし……。



マッシモ・ヴォルペ

もうひとりの恥パの主人公。
存在自体が悪のタイプでありますが、性格まで悪人なのかっていうとそうじゃないと思います。
服装がロシアのような(イメージ)雪国の冬服(イメージ)でオシャレさんです。
この服装は、

> それは周辺の空気すべてを焦げ付かせてしまうかのような火炎であり、同時になにもかもを凍りつかせてしまう吹雪だった。
(恥パ、位置No.2651-2652より引用) 

の一文を書くために集約しているんじゃないかなと思いました。
性格はクール&ドライで執着心が無いことが描かれているのでピッタリだと思います。

ヴォルペもまたとても仲間想いでコカキとの関係性はとても読んでいて味わい深かったです。

しかもフーゴの級友であり、根底にある性質が似ててifのフーゴと言えるのではないでしょうか。
フーゴはヴォルペを理解していませんでしたが、ヴォルペはフーゴの性質を理解していました。

>「あんなうわべだけ気取ってりゃいいとしか思っていない、頭でっかちのプッツン野郎には、な――」
(恥パ、位置No.777-778より引用)

終盤でジョルノが語ってくれる答え合わせを雑にするとホントこの一行で済むんですよね。
最初このセリフを読んだ時は、飛び級で入学したり仲の良い間柄ではなかったことから皮肉で言っているのかと思ったんですけど、その実そのまま答えだったんですね……。

兎にも角にもヴォルペを語る上で外せないのが、ヴォルペのスタンド、〈マニック・デプレッション〉。こんなんアリかよ!? と思うのと同時に第五部の暗殺チームに対する見方が強制的に変えられてしまうので何とも複雑です。

このスタンド何が恐ろしいかって精製する麻薬って期限付きなんですよね。
恥パ内でも触れられてますが、要は麻薬はイコール資産になりますし、こっそりくすねて隠し持っていけば隠し財産的になっていくことは難くないです。
しかし期限が決まっていることで資産としての力を持たせにくいってのは凄くいやらしいなぁと思いました。

ただ麻薬ってモルヒネを筆頭として医療用麻薬と呼ばれ、医療でも使われていますし使い方を間違えなければアンジェリカを始めとする人々を救うために使えたんじゃないかって思うんですね。
……まぁ、コカキが世界を支配できる力がある~みたいに言っているので、そういう方向になるのはまず不可能なんでしょうけど……。

〈マニック・デプレッション〉がどれくらい戦闘方面で強いのかってのは、データ不足なのでどうなるんだろうなーってあれこれ想像しちゃいます。
少なくとも破壊力Bの〈ヴードゥー・チャイルド〉を力で圧倒したので相当強いのは言うまでもないです。

しかも人間の肉体でスタンドに干渉できるようになるってのは相当な強みですし、痛みを忘れることもできます。さらに肉体の過剰促進で回復も行えるので攻守どちらも長けています。
さらに麻薬を打ち込むってプロセスが必要ですが、敵の精神や肉体に干渉もできますし、あらゆる方面で強いスタンドなのは間違いありません。
第五部の元凶とも言えるスタンドなので間違いなく世界を変えるスタンドだと思いました。

ただ恥パのスタンドバトルってページ数の関係で仕方ないんですが、漫画のように長い尺を用いてバトルをすることができません。
一瞬で決着がついてしまうのは何とも寂しいというか物足りないというか、ぽっかりと穴が空いてしまうような切ない余韻がありました。もうひとりの主役として描かれているヴォルペが、これほどなまでに呆気なく退場するのは胸が辛かったです。

最後に外せないのが兄が第四部のトニオさんだということ。

基本的に他人に対して無関心なヴォルペですけど、兄であるトニオさんの性質は見事に見抜いていましたね……兄弟の絆があったことがよくわかります。

他人の身体を癒す〈パール・ジャム〉と逆で他人の身体を侵す〈マニック・デプレッション〉という真逆の性質なのが何とも皮肉ですね……。



トリッシュ・ウナ

たぶん恥パを読んで一番のサプライズキャラですね。
pixivのトリッシュの記事を読むと文庫版だけらしいですね。後日談が描かれているのは。

ボスの娘であること以外はあまりわかんなくて、第五部のエンディングでトリッシュってどうなったんだろう……って思った方はわたしも含めかなり多いと思います。
その疑問に対し、ひとつの答えが提示され、公式正史ではないとはいえ、良かったなぁ……と思う後日談だと思うのは言うまでもないです。精神の成長が大きく描かれてましたね。

また、作中に過去のトリッシュの言動が何度か登場するんですが、シーラEの言葉を借りつつ、非常に腑に落ちた場面があります。

>「君は――」
> と話しかけてみても、もうシーラEは彼のことを睨み返してこずに、
>「何よ?」
> と前を向いたまま訊き返してきた。
>「いや、その――いきなり知らない男たちの中に放り込まれたら、君ならどういう態度を取る?」
>「何よそれ」
>「まあ、深い意味はないんだけど」
>「よくわかんないけど――とりあえず、舐められたくはないわね」
>「というと?」
>「口なんか利いてやんないってことよ」
> 突き放したように言われた。フーゴは少しぎくりとした。
> トリッシュのあの冷ややかな態度も、そういうことだったのだろうか。舐められたくなかった――それは彼女なりの、必死の防衛反応だったのだろうか。ボスの娘だからといって威張っていたのではなく、その中で自分を保とうとして懸命だったのが、あの固い態度に現れていたのだろうか――。
(恥パ、位置No.1955-1963より引用) 

我儘に振る舞っていた裏で、そうか……そりゃいきなり知らない人に拉致同然のことをされて、縋る相手がいなかったらそりゃこういう気持ちになってもおかしくないですよね。

この直後に描かれるフーゴの心情描写がまた苦しかったですね。

・理解すること。
・自分が正しいと思うこと。
・常識的に考えて正しいこと。

はそれぞれ違います。
この辺りからフーゴの心の葛藤に答えがちょっとずつ浮かんでいくんですよね。
テストの答え合わせではないのです。
自分が納得できる、自分だけの答え探しなのです。



ジョルノ・ジョバァーナ

相変わらず権謀術数、深謀遠慮に長けていて底が見えないキャラです。
優しすぎて勇ましすぎてなんだか人間らしさを感じることができませんでした。
なんていうんでしょうかね。概念と化している――そんな気がします。

ジョルノは過去回想以外の部分は地の文で言動が描かれているので、てっきり最後までセリフは無いのかなーと思ったらラストでがっつりセリフがあってビックリしました。

フーゴの物語が恥パですけど、今回フーゴチームは3人それぞれ別の裏任務が与えられていた(3人のうち、2人はそれを知らされてない)ことは舌を巻きました。
そして自分の夢だけでなくブチャラティの夢を継ぎ、パッショーネを変えていくっていう強い意志を感じました。

そして下記の感動した点を鑑みると、ジョルノは黄金の精神の持ち主ですが、同時にDIOの性質も色濃く受け継いでいるのがよくわかります。

DIOにせよ、ジョルノにせよ、2人の味方に対する言葉は甘言になり、その人が欲しい言葉を差し伸べてくれるんですよね。
ジョルノがもしも黄金の精神を持たず、DIOの吐き気を催す邪悪の精神を受け継いでいたら、魔王として覚醒したでしょう。


個人的にジョルノに関して凄く感動した場面が大きく分けて3つあります。

ひとつはブチャラティチームの集合写真。
漫画版で写真を撮ったのか覚えて無いんですけど、そりゃ団結するチームなら集合写真のようなものは撮ってもおかしくないですよね。
第五部ってジョルノが康一君と出会ったのが始まりですけど、僅か9日間の物語なんですよね
そんな短い日数を敵と戦いながらイタリア近辺を右往左往して写真を現像する暇なんて、そりゃ無いよな……ってなっちゃうわけです。

そんな写真を、ジョルノはちゃーんと現像しててくれたんですよね。
読んでいてクラッと来ました。あれだけ色んなことがあって、フーゴに示したものが『思い出』だったんですから……。


ふたつ目はミスタがジョルノにキレるシーン。
ブチャラティの肉体が死んでいることを知っていても最後までブチャラティから頼まれていたとはいえ、ひた隠しにしていたジョルノが責められるのは仕方ないのです。
ジョルノがブチャラティにとっての希望、夢であるならば、ミスタ、フーゴ、アバッキオ、ナランチャにとっての希望、夢はブチャラティです。

あの時、ブチャラティにチームのメンバーが乗っていったのは、『正しい行動』よりもブチャラティが全てだったからです。『正しい行動』は『自分の考え』ではありません。
そこに、自分自身がいないのです。

フーゴの項目でもう一度触れますが、フーゴは考えているようで『自分の意見』ではなかったんですよね。例えるならRPGに出てくる選択肢のうち、もっとも益があるのはどれか。もっとも常識的に相応しいのはどれか、で判断していたのです。

そんな夢・希望の象徴であるブチャラティの肉体の死を隠していたという事実は、ミスタにとっては酷い裏切りも同然です。
そんな中でジョルノの口から出たセリフが、ミスタの項目でも引用しましたが、

>「そしてもうひとつは――そのこだわりとこれからも共に生きていくという道。君のその習慣には意味があり、今、まさにこのときに引き金を引かないことを暗示していたのだと――そう考える 道。君がこれからも〝四番め〟を避け続ける人生を選ぶというのなら、ぼくは君がそういう立場 に立たされたとき、迷うことなく君の代わりにその〝四番め〟を選択しよう。それがぼくの〝責任〟のひとつだ」
(恥パ、位置No.3120-3124より引用)

これですもの。
過去の清算=ジョルノを討つと共に提示された選択肢がこれなんですよ。
責任ってことは背負うってことですからね。肩代わりするってことですからね。ズルいです。


最後はフーゴに対して諭すシーン。

>「君が一歩を踏み出せないと言うのなら、ぼくの方から――半歩だけ近づこう」
>「…………」
>「すべては君の判断にかかっているが、それでも悲しみが君の脚を重くするのならば、ぼくもそれを共に背負っていこう」
(恥パ、位置No.2990-2992より引用)

この場面、何が良いかってブチャラティがチームのメンバーを説得した時、フーゴから見て欲しかった言葉が含まれているんですよね。
チームのメンバーに判断を委ねつつ、ブチャラティは決断を委ねるだけで一緒に背負おうって言葉じゃなかったんですよね。一蓮托生。夢(ボス打倒)を共に追いかけよう、ではなかったんですよね……。
しかもジョルノが一歩ではなく半歩だけ近づく、なので思考停止にはさせない、決断しないってことをさせないって比喩にもなっていて、フーゴをとても尊重しているのがよくわかります。


最後に、第五部の後日談、そしてジョルノ・ジョバァーナという人物における集大成とも言えるすんごく感動したセリフがあるんですよ。

>「去っていった者から受け継いだものは、さらに先に進めなければいけない。それがぼくらの責任だ。神(ディオ)のように気に入らぬものを破壊するのではなく、星(スター)のようなわずかな光明でも、それを頼りに苦難を歩んでいかなければならないんだ」
(恥パ、位置No.2997-2999より引用)

割とこのセリフが出まで忘れていたんですけど、ジョルノは第三部におけるDIOの息子です。
と同時にDIOの首から下はジョナサン・ジョースターの肉体なんですよね。
だからジョルノにはDIOと同時にジョナサン――ジョジョの血も受け継いでいたのを。

だからこのセリフは凄く感動しました。
ここにおけるスターってジョジョの血統における首にある星型の痣にかかってますからね。
こんなすんごいセリフ、よく上遠野先生は考えたなぁ……と舌を巻きました。



パンナコッタ・フーゴ

生きて死ぬ日々を送っていたフーゴにとって、自分の夢、希望、全てを失い、第五部のあとの半年間は地獄だったでしょう。

ジョルノに指摘されていますが、ブチャラティを裏切ったのではなく、ブチャラティに裏切られたと思っていたフーゴはなまじ頭が良かっただけに自分の考えの過ちを考える、認めることができませんでした。

恥パを買って大きく良かったと思ったことのひとつが正史ではないので確定にはなりませんが、フーゴの生い立ちの深い掘り下げが行われたことです。

IQが高く、飛び級で大学に入学し、才子だけどいきなりキレることがある人物として描かれた第五部に対し、恥パは実はそれぞれの肉付けを行ったことでまるで違う印象を与える人物として描かれています。

特にいきなりキレる理由にちゃんと納得させる答えを用意したのは感嘆としました。
これなら第五部でナランチャが問題の解答を間違えた時にキレたのも納得できますし、それ以降であまりキレる描写が無かったことも納得できます。

そしてグレてギャング入りすることになったのもアニメと全く異なるものになってますが、コレなら大学教授を滅多打ちにしても仕方ないな……って思ってしまいました。
(無論、やっていいかは別にして、です)

だらだらと長く書いても仕方がないので、ヴォルペとジョルノのセリフを借りると、

>「あんなうわべだけ気取ってりゃいいとしか思っていない、頭でっかちのプッツン野郎には、な――」
(恥パ、位置No.777-778より引用)

>「君は“裏切った”とぼくらが思っているだろうという計算をして、先回りしてそういうことを言っている――心にもないくせに」
(恥パ、位置No.2911より引用)

>「あのときもそうだった――ギャングの社会的にはこういうのが当然、みたいなことしか言わなかった。君の気持はどこにもなかった。世間常識に倣っていただけだ。しかし」
> ジョルノが自分を直視している、その視線が痛いほどに感じる。
>「実のところ、君は世間常識というのが大ッ嫌いなはずだ。そうでなければ、そもそもの最初で、教師を百科事典で殴らなかったよ。君が信じているものを他人が信じてくれないことに、つねに心の片隅で怒っている――だからどうでもいいところで、いきなりキレる。それが君だよ」
(恥パ、位置No.2912-2917より引用)

要するに自分で考えているようで『模範解答というなの世間常識』に則っているという教科書タイプだった。
しかもその『世間常識』を毛嫌いしているという、いったい自分の意見はどこにあるんだってタイプがフーゴだったんですね。

そう考えると今までの第五部の数々の言動も見方が変わってきます。
提言するのも、叱咤するのも、激励するのも、それがギャングにとっての『世間常識』に則っていたから。それが正しさだと思っていたから。

しかしそこに自分はいません。
いるのは世間常識に則って行動しているボットです。

だからブチャラティの行動に絶望し、ブチャラティについていくことができなくなったのです。
そして同時に、世間常識を毛嫌いしているのですから行かなかった自分自身にも絶望しつつ、理由がわからなかったんですね。
その答えは自分に対する否定であり、今までの自分は何だったのかと瓦解してしまうのですから。

フーゴに必要だったものは、世間常識ではなく、あくまでフーゴ自身がどう思っているのか、どう感じているか。
そしてそれを理解してくれる、認めてくれる、受け入れてくれる一言。

即ち、理解者

思えばブチャラティチームのメンバーってフーゴに対して、性質を読み取っても心を理解してくれた人はいないんですよね。
そのブチャラティでさえ、フーゴの心は理解してくれませんでしたし……。

だからエピローグでジョルノがフーゴの性質を理解し、心の在り方を理解してくれたのはフーゴにとって最大限の救いですよね。誰にも理解されず、このまま孤独のまま生涯を追えれば灰色の人生のままでしたし……。

それだけに、

>「い、いえ――ただ……ただ、ここにいるのが、ブチャラティではなくて、ぼくなのだろう……と思ったんです。どうして、あなたに忠誠を誓うのが彼ではなく、ぼくなのだろう、と……」
(恥パ、位置No.2974-2975より引用)

のセリフは凄くズルいと思いました。
第五部で特に印象に残ったシーンのひとつがエピローグでジョルノがパッショーネのボスになり、幹部と思しきメンバーがジョルノの手の甲にキスをするシーンです。
ブチャラティが生きていれば、この幹部がブチャラティだったんですよね……。

さらにズルいと思ったのはその直後の描写。
フーゴが今回の任務(冒険)を経て成長し、メンバーの考え方、在り方を理解することができたって証左になっています。
だからブチャラティが組織を裏切った時にそれぞれついてったのが何故なのかも理解できていますし、同時に酷い後悔になるわけです。
『現在』のフーゴなら確実についていく選択肢が取れたのですから。

いやー……もうアレですね。
何度も何度も反復させて過去回想を行わせ、疑問に対する答えをじっくり描いていったお陰でフーゴって人物の心の在り方の描写が凄いですよね。
しかも第五部と整合性取れてますから「あの時のフーゴはそういう考えだったのか……」ってひとつの答え合わせになっていますし。

もうこれで正史で良いじゃん? ってなりますよもぅ……。




……といった感じで今回の記事は終わりとさせていただきます。
細かい部分を拾っていくとキリが無いんですよね。
未読の方は恥パを読んで、是非とも確かめて欲しい、と願います。
意図的に書かなかったものもあります。読んで震えて欲しいから。例えばシーラEの某麻薬に対する憎悪のセリフとか。

あとがきが面白いんですよまた……ギアッチョに恨みあるのか上遠野先生は(誉め言葉)ってなってしまったのはご愛敬です。

とにかく魂が震えました
魂を感じました。
第一部から第五部まで、ジョジョが好きって人ならまず読んで損は無いでしょう。

至高の一冊になるハズです。
もっと早く読めば良かったです……。