今回は異世界迷宮の最深部を目指そう11巻の感想記事をお送りします。

10巻で『迷宮編』が終わり、地上編へ。
それにしてもこの作品は、パーティ編成の組み方が上手いですね……。
加入・脱退の理由に説得性があるので自然な気持ちで読み進めることができますし。


はい。いつも通りおことわりです。
当ブログの感想記事はネタバレだらけです
特に未読の方は記事をお読みの際はご注意ください。
あと今回結構グダグダな考察記事な構成になっています。ごめんなさいです(汗

DWL11

異世界迷宮の最深部を目指そう 11 (オーバーラップ文庫) Kindle版
著:割内タリサ先生
イラスト:鵜飼沙樹先生 

11巻はシリアスなシーンもありますが、大半のパートはワクワクしたりギャグに走ったりと、体感的に7巻から探索パートを落としてギャグの密度を上げたようなお話だと思いました。

胃痛持ちの渦波君ですが、ある意味では7巻以上に胃痛に見舞われたと推察します。
しかしどれもこれもある意味で自業自得。
ある意味で自分で蒔いた種。
刈り取る時が来た、ということなんでしょうね。
……もっとも、刈り取ったのは渦波君ではなくティティーなのが大問題なのですが。

今回はティティーがナビゲート役としてお話が進みます。
約1000年先の地上に出たことにより、裏表が無い非常に素直なトラブルメーカーになっています。
憑き物が落ちた上に良い感じに過去と現在、2人のティティーがミックスされたことにより、非常に萌え度の高いキャラに進化しました。
たぶん……人気投票をするとかなり上位に食い込むんじゃないでしょうか?
もう別れるのが約束されてしまっているキャラですが、しかし遊ぶことに余念が無いです。
この世界はまるで宝石箱のように見えていたに違いありません。


それは渦波君もライナー君もある意味で同じ。
1年後の現在はアイド先生の手によって強制的に文明水準がアップデートされていました。




渦波君やライナー君に触れる前に、先にアイド先生についてあれこれ書いていきます。

アイド先生関連

「……少し違いますが、そんなところです。渦波様は『統べる王』が戻るまでの王の代用にもなれる ほどの方です。入念に面接をしなければならないでしょう」
(8巻、位置No.687-689より引用)

アイド先生の目的は今までで十分語られていたんですね。
他にもいくつかありますが、アイド先生が『新生ヴィアイシア国』を作ろうとしていること。
渦波君がティティーを『連れ去った』こと。
そして魔石人間を必要としていること。

直接的な単語こそあまり出ないものの、全部出ていますね……。
とはいえ、8巻の時点では新生ヴィアイシア国を建国しようと躍起になっているだろうことは伝わってきますが、しかしその手段や目的については空白だらけです。
その空白の部分が判明するのが11巻です。

守護者が未練に引っ張られて汚染……というべきでしょうかね。
在り方を変えられてしまっているのは今まで散々ありましたが、アイド先生もまた、逃れられないひとりです。

というか、1000年前の南北……いや、パリンクロンが8巻で使っていた言葉を借りるならば、境界戦争を『再現』しようとしているとは思わなかったです。
序盤を読んで、「あれ? アイド先生結果的に良いことしてる?」と思いながら読んでいました。
しかしそれは色んな意味でその想いは打ち砕かれました。

アイド先生は11巻の終盤、戦闘を終えたあとでティティーに対し、次のように語っています。

(……そ、その者たちは『魔石人間』です。自分の助けたい真の『魔人』とは、まだ言えません)
(11巻、位置No.4882-4883より引用) 

しかし8巻では次のようなセリフがあるんですね。

「気にするに決まっています……。あなたたち『魔石人間』は自分が絶対に助けて見せます……。あなたたちは自分の『楽園』に必要な存在なのですから……」
(8巻、位置No.604-606より引用)

11巻の表紙を飾っているルージュら新生ヴィアイシア国の創始者メンバークラスの魔石人間を前にしてすらこのような態度の変化。
そしてアイドの身近に居たルージュも、

「先生は宣言通りに、すぐに新しい『統べる王』を用意して、王国を作ってみせたよ。でも、その王国の『宰相』になってから、ちょっとずつ変になっていった気がするの。休む間もなく、先生は働い て働いて、働き続けて、少しずつ何かに追い詰められていって……、いつの間にか、全く笑わなくなってた……」
(11巻、位置No.5093-5096より引用) 

とアイド先生の変化を思い返しています。
アイド先生が『王』として動いていた時はまだ『大丈夫』だったけれど、陽滝という『統べる王』を用意し、自分が宰相という『役割』になって以降、どんどん未練による汚染が加速していっているようですね……。

言葉は通じるけど会話がどんどん通じなくなっているのはノスフィーと同じです。
しかしアイド先生は妄執に憑り付かれながらも、しかし信念があります。
芯があります。揺ぎ無き大義があります。
汚染され、想いが先鋭化し、1000年前にどんどん戻っていっているんでしょうね……。


そんなアイド先生ですが、どうやって渦波君らと決着を付けるのか。
それこそ戦争を行うのかと思ったらかなり意外な方法になりました。

アイド先生の目的は渦波君を倒すことが第一目的では無いですし、実に理に適っていると思います。
ティティーの心が、アイド先生の意思を絶対に汲まないという一点を除いて。
……いや、攻撃手段を持たないアイド先生が渦波君に真正面から勝つヴィジョンが見えないんですが……補助魔法を自分にてんこ盛りにしてバフ漬けにするんでしょうか……?


狂っているけど理性をギリギリで保っている……そんな風に感じました。
仮に……仮にアイド先生の目的が、1000年前の戦争を再現して、完全勝利を果たしたとして、その先に何があるんだろうって思うんですね。
何がしたかったのかって部分は今回で十分ティティーに論破されてしまっていますし。

だから、アイド先生の未練って1000年前の戦争を再現して勝ちたかったことじゃないのは明々白々です。ではアイド先生は本当は何がしたかったんでしょう。ティティーのいない戦争を起こして、何がしたかったんでしょう。

ティティーの未練は、あの日に還ること。
ならアイド先生の未練もまた、あの日に還ることなんでしょうか? 
しかしそれは違うと思うんですね。
新たな境界戦争を起こすために行ったことがあまりにも道理から外れていますし……。


全ての謎は12巻で明らかになるでしょう。
というかよく見ていなかったのでわかんなかったんですけど、12巻の表紙絵アイド先生じゃないですか。これもうティティーとアイド先生ともに未練を果たす展開にしか見えないですよ……。




ライナー君関連

12巻はほぼアイド先生と決着をつける巻なのだろうことは上記で書いた通りですが、12巻は恐らく、それとは別にメインシナリオが大きく揺れ動くだろうことが目に見えます。

ライナー君は紆余曲折を経て、渦波君の『騎士』になりました。
騎士といってもイエスマンではなく、苦言を呈すこともありますし、提案を出すこともあります。
ライナー君がセラさんを見て尊敬の眼差しを見せていますが、セラさんも含め、光だけでなく陰も見え隠れします。

12巻はアイド先生と決着をつけるためにあれこれ準備をする巻であると同時に、ライナー君の視点からもうひとつの物語が描かれます。


今回特に思ったのが、ライナー君の決意。ゾッとしましたね……。
恐らく12巻の終盤か13巻で聖人ティアラが再誕するのは避けられない展開だと思います。

ライナー君の意思は渦波君の願いを叶えるために動きます。
ただでさえ先鋭化の兆しがあったライナー君ですが、渦波君が泥酔したことでよっぽどな意思を見たようですね。考えが固まっていくほど、それはもう凄かったのでしょう。

しかし……しかしですよ?
それにそぐわない場合はどう動くのか? まさかココまでとは思わなかったです。
光が強ければ強いほど、生まれる影もより濃く大きくなる……そう言わんばかりです。

ライナー君がライナー君だけの道を見つけましたが、その両手は血で汚れています。
遠い未来、犠牲を嫌がる渦波君はライナー君と袂を分かつ……そんな気がしてなりません。

ちなみに11巻のライナー君で一番好きなシーンは、ティティーと別れの挨拶をする際、感謝の意を述べたシーンです
廃れたあと、跳ねっ返りな性格の彼が素直に感謝を述べる……。
一緒に過ごした時間こそ短いものの、ティティーの存在はライナー君の中で大きなものになったようです。




ラスティアラ関連

渦波君のことを想っているからこそすれ違っていて、見ていて切なかったです。
てっきりメンタル面が暗黒期に突入したのかと思ったら、ある意味でもっと大きかったです。

パリンクロンと戦うまでにラスティアラが強キャラだって散々描かれていたんですけど、まさか早熟タイプだったとは……。
しかも今ラスティアラがしようとしていることを行えば、最悪死亡。
最高でも素質が失われる(持ってかれる)という、どう考えても戦闘方面でラスティアラの出番は無くなる展開なので、色々モヤッとしちゃいます。

そしてレベルアップのシステムについて復習があるんですけど、「あー……そんな話だったっけ」ってことで、モンスターを倒しまくれば良いって単純な話ではなく、根深い問題ですね。

解決手段のひとつは魔人還りだと思うんですが……。
うーん、今回のルージュらを見ていると、あながちそうなりそうな気がしますね。
でも魔人還りはデメリットが強烈なので、ラスティアラが渦波君と一緒に冒険したいって意思を新たに抱くか次第なんでしょうね。
もっとも、現在は聖人ティアラに全て譲ろうとしている状態なので、聖人ティアラと渦波君(始祖カナミ)の問題が解決しない限りはややこしいことになりそうです。


あとtwitterで何回か呟きましたが、1巻の時点でラスティアラって屈指の狂人として描かれていたんですね。
そんなラスティアラが物語の中でどんどん精神面の成長が描かれていて、ヒロインズの中だと一番の良識人になっています。
肉体の成長が止まっても、精神面は今後もどんどん成長していきそうです。
……しかし聖人ティアラの再誕ですか。どう考えても嫌な予感しかしないですね……。




スノウ関連

今回スノウは三面性を見せてくれました。
11巻で一番成長を感じたのがスノウではないでしょうか。
総司令官として活躍するスノウを見て、スノウがラスティアラのようになった、と感じました。喋り方とか考え方とか。

あのスノウが、ですよ? 渦波君の帰還を信じ、1年間耐え続けただけでも凄いです。
その上、副官のクロエさん他多数の南連盟の人らから尊敬の眼差しで見られるほど他者の意を汲み、勇猛果敢、冷静沈着の仮面を被り続けたのは圧巻の一言です。

11巻におけるスノウは、弱音を吐けるセラさんがいるラスティアラと合わせ鏡になっています
クロエさんとスノウの関係は良好ですが、どちらかというとクロエさんがスノウを見る眼差しは尊敬を通り越して崇拝、神格化していますし。渦波君とスノウのやり取りを見て、クロエさんがどんどん変化していったので、今まで弱音を吐いたことすら無かったんでしょうね


それだけに渦波君と再会を果たしたあとのスノウは凄まじかったです。
特にティティーとの絡みが凄くごちそうさまでしたと言わざるを得ません。

8巻で渦波君とライナー君が世界奉還陣に呑み込まれましたが、ココにスノウもいれば、9巻は全然違う展開になっていたに違いありません
……というかスノウとティティーの絡みをもっと読みたいので、このままティティー退場して欲しく無いんですが(泣

「ああっ、お姉様ってば寛大! 器が大きい! 本当に王様みたいだね! うん、私の王様! 王様、ばんざーいばんざーい!!」
 スノウはティティーを煽てていくが、その言葉には少し問題があった。
「王様万歳……? うっ、頭が……!」
(11巻、位置No.3598-3601より引用) 

この場面は大笑いしました。
11巻はティティーが絡むコミカルな場面がとても多く、9巻、10巻と下がり続けたSAN値が幾分快復できて良かったです


スノウもまたアイド先生の影響を間接的に受けている、と思われます。
強制的に世界の魔法技術がアップデートされたことにより、メリットだけでなくデメリットも広く浸透していきました。
その中のひとつ、魔人還りの影響をスノウも受けています。
さすがにこのまま進行してドラゴラムと化すことは無いでしょうけど、しかしスノウの強みであり弱みとして何度も触れられる機会がありそうですね……。


そしてスノウ関連で最後にもうひとつ、触れなければいけない点があります。
11巻は過去から未来へ、色々なものが伝承されるエピソードがあります。
言ってみればアイド先生が提供した技術も過去から未来に伝承しているようなものですね。

ライナー君とティティーの師弟関係。
ティティーの技術をライナー君は受け継ぎました。

そんな中で今回、ティティーは現代を満喫するのですが、魔王と呼ばれたロードを降り、何を目指すのか道に迷っている最中、彼女は勇者に憧れました。
紆余曲折を経てティティーは自分は何に向いているのか自覚するのですが、その過程で用意した装備をスノウに伝授しました。

結果だけ見るとティティーが使うよりもスノウが使ったほうが良い結果をもたらす装備になっているのが大きな特徴です。特にスノウは膂力がありますし、ブレイブフローライトはスノウに絶大な恩恵をもたらすでしょう。

他にも用意した鎧などは『勇者』を意識したものですし、スノウは自覚なく勇者の道を歩み始めた……そんな気がします。もっとも、スノウがなりたいのは勇者じゃなくて渦波君のお嫁さんですけどね。




クウネル関連

今回新たに登場した新キャラの中だと一番重要そうなキャラだと思いました。
異世界を取り扱う創作物全般に言えることですが、方言キャラが登場した時、どうしてそういう言葉遣いなんだよと気になってしまいます

クウネルの場合は関西方面、大阪と京都のハイブリットな言葉遣いになっています。
出てきた瞬間、和を意識した衣装でしたので、「あぁそういうキャラなのね」と思ったら言葉遣いはちゃんと理由付けがされていて感服しました
異世界迷宮の最深部を目指そう全般的に言えますが、始祖カナミが功罪あれこれもたらしまくってますね……

さて、クウネルは重要そうだけど本当に重要なのか中々判断に困りますね……。
今回で一応渦波君に内面見られているんですよね。渦波君の性格を熟知した上で隠しているなら怖いんですけど、今のところ裏の面らしさは見えませんし。
ただ1000年を生きる生き証人ですし、今後もあちらこちらで出番がありそうです。巻き込まれ気質。




マリア、リーパー関連

てっきりリーパーはラスティアラと一緒なんじゃないかとばっかし思っていました。
そうか、アルティの魔石がある以上、マリアと一緒にいるのは理に適っています。
今回チラッと出てきたリーパーとマリアの掛け合いから新技が多数開発されたことがわかります。

マリアと直接エンカウントすることはありませんでしたが、1年の間に一番荒れたのがマリアのようで、ストッパーを失ったことにより、我が道を突き進んでいるようです。
人類だと最強クラスのグレンさんでもあまりストッパーの役目になってませんね……シア・レガシィは挿絵の表情から悲惨さが伝わってきます。良識人ほどズタズタになりますねこの作品は。

アイド先生と決着をつける戦いにマリアとリーパーは合流できないようです。
もっとも、『木の理を盗むもの』に『火の理を盗むもの』の力関係を鑑みるならば、単純に属性の相性でアルティの力を得たマリアに軍配が上がりそうです。




ところでマリア、リーパーから離れますが、どうしても気になったことがあるので書きます。

マリアたちが探している、使徒ディプラクラ is 誰?

えぇっと、11巻で出てきた情報を順番に見ていくと、

・ティティーと面識がある
・使徒である。つまり始祖カナミサイドのキャラ
・1000年前の賢者と呼ばれている
・世界樹(ユグドラシル)にいるかもしれない
・(アイド先生から見て)南連盟の敵の筆頭だった

とありました。世界樹は2巻で触れられていたのを覚えています。
どうせなのでと過去の巻を紐解いていくと、実に面白いことが書かれていました。

「こうして、道を阻む敵たちを味方につけた聖人ティアラは『北連盟』の軍勢を追い詰めます。そして、狂王を倒し、裏切りの使徒ディプラクラを説得しようとします。けれど、裏切りの使徒は往生際 が悪く、その命と引き換えに大陸全てを滅ぼす凶悪な『魔法陣』を発動させてしまうのです」
(7巻、位置No.3956-3958より引用) 

「千年後の未来……? 私もレヴァン教徒なので、それなりに詳しいですが……それは聖人テアラ様を導いた使徒シス様の話ですか? それとも北の王を狂わせた使徒ディプラクラでしょうか?」
(8巻、位置No.103-104より引用)

「そうよ。観葉植物にしてやったディプラクラのように、レガシィのやつも封印してやる。これで使徒は私一人だけ! 今度こそ完璧! 世界は平和になる……!!」
(8巻、位置No.1417-1418より引用)

とあります。結構重要なワードが飛び交ってますね……。
そういえば世界樹ってそもそもなんだっけ? ということで過去を読み直すと、

「他の聖人さんもすごいよ。大抵は国を作ったり、世界を救ったりしてる」
「世界を救うのか……。聖人って人間だよな……?」
「人間だよ。ただ、聖人さんは聞こえない声が聞こえるらしいよ。その声を聞き、この世にない知識 を持って、大陸に奇跡をもたらす。結果、多くの人々が救われるから、そりゃ聖人と呼んで崇めたく もなるわけだね」
 聖人の定義は『聞こえない声が聞こえる人』らしい。
「聞こえない声って、神様の声みたいなものか?」
「いや、彼らに聞こえるのは、大陸の真ん中に生えてるでかい樹の声……だったはず。世界樹って呼ばれてて、聖人さんはその樹から声が聞こえるらしいよ。というか、私もジークも聞こえるかもね。 私たち、かなりアレだから」
(2巻、位置No.3802-3810より引用)

と書かれていました。
世界樹の場所はフーズヤーズにあるので、渦波君らから見て現在行けない距離では無いです。

最後にティティーから見た使徒ディプラクラ像はというと、

「三騎士の内、まだ出てないのはファフナーのやつじゃな。……すまぬが、ファフナーのことは、よく知らぬ。あやつ、童との一対一を最後まで避けておったからのー。知っておるのは、あやつが『血 の理を盗むもの』であることくらいじゃ。使徒のほうは、ディプラクラのやつと少し話したのみ。ただ、そのときは一方的に謝られただけで、碌な話はしておらん」
(11巻、位置No.3811-3815より引用)

と使徒ディプラクラはティティーに一方的に平謝りしていたようです。


さて、こうして得た情報をまとめていくと、使徒ディプラクラの輪郭線が見えてきます。
その前に前提として、1000年前には、

始祖カナミ
聖人ティアラ
使徒シス
使徒レガシィ
使徒ディプラクラ

がいました。
使徒ディプラクラって断片的には今までちょくちょく触れられていたんですね……。

情報をまとめます

★1000年前、使徒ディプラクラは南連盟の筆頭として挙げられるほどの実力者だった
◇1000年前、使徒ディプラクラは始祖カナミたちを裏切った
◇1000年前、使徒ディプラクラは命と引き換えに魔法陣を発動した
◇1000年前、使徒ディプラクラは境界戦争で北の王を狂わせた
★1000年前、使徒シスの手で使徒ディプラクラは観葉植物に封印された
★1000年前、使徒ディプラクラは『統べる王』ティティーに平謝りした
◇聖人は世界樹から『声』が聞こえる

こんなところでしょうか。
◇マークは伝聞または伝承もしくは文献からの情報。
★マークをつけたのは、『1000年前の経験者本人』からの自己申告です。

さて、これらの情報をかみ砕くと、まず魔法陣とは世界奉還陣のことでしょう
ちなみにパリンクロンは使徒レガシィの力を利用して世界奉還陣を発動しています。

そして観葉植物とは、即ち1000年後における世界樹のことでしょう。
つまり聖人とは、『世界樹から使徒ディプラクラの声が聞こえる者』と言い換えられます。
よって、『命と引き換えに世界奉還陣を発動した』と矛盾が生じるのがわかります。

ただし、基本的に1000年前の逸話は盛られていたり肝心なことが書かれていなかったり、南連盟が有利になるような記述が大半だとありました。
よってこの矛盾は、使徒シスが言っていることのほうが正しいんでしょうね。

使徒シスが使徒ディプラクラを封印したのは、使徒シスから見て何らかの裏切り行為をしたのだと推察できます。
しかしアイドたち北連盟に肩入れしたわけではないようです。
もし肩入れしたならば、アイド先生が使徒ディプラクラを筆頭候補に挙げるのは正しいとしても、ニュアンスや言葉選びが変わってくるはずです。

そして北の王を狂わせたのが事実であるならば、恐らくそれは、ティティーに一方的に平謝りした場面を切り取って都合の良い解釈をしているのだと思われます。
とするならば、1000年前、境界戦争が起因で世界奉還陣を発動する理由が無いんですね。

 ローウェンの顔色から真実を探ろうとするが、彼は薄く笑って再度首を振る。
「本当だよ。噓じゃないと友に誓おう。……私の守護者化は誰よりも雑だから、ろくな説明も受けて いないんだ。あの日、リーパーと睨み合っていると、いきなり吞み込まれたんだ。何の話もされずにね」
「の、吞み込まれたって、何に?」
「大陸に飲み込まれたんだ。そういう魔法――いや、魔法陣があるんだ。で、私とリーパーは、いつの間にか迷宮へ飛ばされたというわけさ」
(4巻、位置No.3590-3595より引用)

ちなみに世界奉還陣は1000年前にローウェンやリーパーを巻き込んだ魔法陣だと思われます。
また、1000年前におけるティティーとノスフィーの戦いにおいても、

「――な!? ノスフィーが自壊していく!? いや、陣に吞み込まれている!? まさか、この陣の真の 目的は、妾たち『理を盗むもの』の捕獲――いや、吸収か!? 『魔法陣』に干渉するのを止めるのじゃ、ノスフィー! このままだと共倒れじゃぞ!?」
(10巻、位置No.3200-3203より引用)

 いや、正確には「魔法陣によって、二人とも殺されてしまった」のほうが正しいか。
 そして、妾は大陸に吞み込まれながら、思う。もしかして、この魔法陣の力は渦波の仕業だったの かもしれない。彼は世界もだけれど、特に『理を盗むもの』を嫌っていた。
 最初から、ここで妾とノスフィーを纏めて消すつもりだった可能性は高い。
(10巻、位置No.3214-3218より引用)

とありました。
つまり世界奉還陣の真の目的は、『迷宮に理を盗むもの』の魔石を集めること
ただし世界奉還陣を発動させたのは、使徒ディプラクラなのか始祖カナミなのか、判断するのはまだ早計だとも思います。


使徒ディプラクラをマリアたちが探しているのは、『統べる王』を倒す手立て、もしくは渦波君を探す手掛かりが見つかるかもしれないからです。
この『統べる王』はアイド先生が拉致っていった陽滝のことですね。確か人形みたいな状態になっているんでしたっけ……?

使徒ディプラクラのことは恐らくラスティアラから情報を得たんだと思われます。
1000年前の出来事が11巻でラスティアラの行動指針に大きく影響が出ていますし、描かれていない外の場面で1000年前の出来事があれこれマリアたちに伝わっているんでしょうきっと。

ということで、使徒ディプラクラは1000年前の真実を知る超重要キャラなんだと思われます。
12巻or13巻辺りで出てきそうな気がします。というか聖人ティアラの再誕にも絡んできそうですね。




渦波君、ティティー関連

本当は分けたほうが良いんでしょうけど2人がリンクする場面が多いので一緒に取り扱います。

11巻は何といっても渦波君の今までの行動が降りかかってくる――まるで負債のようにのしかかる展開が多かったです。
1年という空白期間は人々の中で妄想空想想像を膨らませるのには十分な時間でした。
伝説の英雄であると共に英雄色を好むと言わんばかりの女たらしという印象を人々は抱きました。

今回は後半スノウと合流するまではラスティアラと再会したり、女性と話す機会はあれど、別の意味で渦波君に胃痛がもたらされる展開が多かったです。

「店長、任せたって言われても……。そ、その、ジーク君、元気出して! ジーク君には、女の子が 一杯いるじゃない! 聞けば、色んなところで誑しこんでるんでしょ!?」
(11巻、位置No.765-767より引用)

「これが……! あの伝説の天然女たらしの英雄『アイカワカナミ・ジークフリート・ヴィジター・ヴァルトフーズヤーズ・フォン・ウォーカー』……!!」
(11巻、位置No.3403-3404より引用)

「どうせ、フーズヤーズのお姫様を誑しこんで手に入れたものでしょう! だから、いかがわしいって私は言っているんです!!」
(11巻、位置No.3657-3659より引用)

話が続いていくにつれ、渦波君のこの世界におけるフルネームは様々な理由で段々と伸びていきました。そしてそれと比例するように、渦波君の周りには様々な属性の美少女が勢揃い。そして渦波君はというとみんなに分け隔てなく接していたお陰であれこれ尾ひれがついていきました。

その結果がコレです。
もっと早く、ラスティアラに対する愛を自覚し、他のヒロインに節度を持った態度を示していれば、これほど拗れたことにはならなかったでしょう。
……もっとも、その場合はヒロインの問題が解決しきれないので、やはりこうなってしまうのは自明の理。それこそまさに、運命だと言わんばかりの結果です

ちなみに上で挙げた引用3つのうち、リィンさんからの激励という名のメンタル攻撃は盛大に吹いてしまいました。

今回で1年越しにラスティアラに再会したことにより、燃え上がる渦波君の炎はラスティアラに振られたことによって意気消沈してしまいました。
いつでも再会できる……これエグいですね。いつでも再会できるということは、いつまでも再会できないと言い換えることができます。即ちラスティアラから明確な拒絶が渦波君に深い心の傷を残し、大きな理由が無い限り、再会するハードルを大きく上げてしまったのです。

もっとも、ラスティアラが渦波君を振ったのはちゃんと理由がありましたし、渦波君もラスティアラにそれなりの理由があることは知ってします。だから精神的なダメージは幾分か回復しました。
しかし、次にラスティアラに正常な状態で再会できるのかと言えばかなり怪しいと思います。なにせラスティアラが渦波君に黙って進めていることは、最悪、ラスティアラという少女の存在が消えてしまうことに他ならないのですから……。

ラスティアラは聖人ティアラが再誕するまで登場し続けるとしても、渦波君視点でラスティアラを見たのは、あれが最後の可能性だってあります。もしそうなった時、渦波君の心は持つのか、ただただ心配ですね……。


ところで11巻は渦波君がアイド先生と決着を付け、ティティーの未練を晴らすべく異世界のあっちこっちに出向きます。

ココで特に気になったことがひとつあります。
それはギルド、エピックシーカーの存在です

今更ですが、エピックシーカーとは3巻の最終盤、パリンクロンが渦波君(とマリア)の記憶をいじってギルドマスターに仕立て上げることになったギルドです。
ギルドのメンバーの中にはパリンクロンの友や知り合いもいますが、別に渦波君と敵対しているわけではありませんでした。

さて、何が気になったかって、今回エピックシーカーの存在によって、話がトントン拍子に進んでいるんですね

「カナミ、頼む。ギルドマスターをやってくれ。このくらいじゃ、まだまだだ。まだ『試練』ですら ない。カナミなら、もっと凄い『試練』だって乗り越えられると信じてる」
(4巻、位置No.187-189より引用)

結局、パリンクロンが回りくどいことをしたのは、パリンクロン自身が次のように述べています。

「簡単なことだ。俺は俺の中にいる使徒レガシィってやつの『未練』を果たしてやりたいだけなんだ。……『始祖カナミともう一度遊びたい』って、あいつの『未練』をな。あいつ、千年前を漁夫の利で勝ってしまって、すげえ不満一杯なんだってよ。ははっ」
 使徒という単語を口にする。シスのやつも口にしていたことだが、パリンクロンは使徒との関りが深いらしい。
 シスの話から察するに、こいつもディアや僕と似た境遇なのかもしれない。もちろん、いま語っている言葉を信用なんてしていない。けれど、少し前にワイスさんから聞いた言葉が頭の中でリフレインする。『生まれ』と『運命』。それはこいつにも当てはまっているような気がしてならない。
「当然、その使徒レガシィの『未練』は千年前にしか叶わないものだ……。だから、俺は千年前と同じ状況を作ると決めた。そのために国々の平和を乱し、大陸に『世界奉還陣』を敷き、『英雄』と『化け物』を用意しようとしたってわけだな」
 いつもと変わらぬ口調だが、冗談は一切混じっていない。ここにきて、ようやくパリンクロンの本心が見えてきているが、その中身が余りに――
「パリンクロン、あの千年前を再現する気なのか……!? あの!!」
(8巻、位置No.2692-2702より引用)

8巻で描かれていることが真実だとするならば、使徒レガシィは始祖カナミを不意打ちにして刺し違えています。しかし、この場面で聖人ティアラがどこにいるのかは描かれていません
つまり始祖カナミと使徒レガシィが刺し違え、迷宮に呑み込まれて1000年経つ間に、聖人ティアラが何らかの行動を起こすことは容易に可能です。

9巻の感想において、聖人ティアラが黒幕、パリンクロンは駒説を挙げました
使徒レガシィが裏切ったからこそ、その直後に聖人ティアラが使徒レガシィの魂に何らかの制約や呪いを施していてもおかしくないわけです。

「迷宮で、順序良く『理を盗むもの』の魔石をたくさん集めさせるってこと。そうすれば、魔力の器が大きくなって『化け物』になることもない。そして、最大レベルで『最深部』に着いたら、僕の『魔石』だけ抜いて陽滝を起こす。それで完治した陽滝の完成だ。うん、これでいける。完璧だ」
(8巻、位置No.3904-3906より引用)

不完全な状態で陽滝の肉体の中に始祖カナミの魔石が入った以上、計画を成功するには、成功させるための調律師のような存在がいてもおかしくありません。
つまりそれこそが聖人ティアラであり、不完全な迷宮、不完全な守護者、不完全な環境を『正しい手順』で進めるために1000年後も様々な干渉を行っている、のではないでしょうか?

9巻では聖人ティアラが何のためにそんなことをするのか予想できませんでした
しかし今なら予想できます。
それは完全なる始祖カナミと陽滝と再会するためじゃないでしょうか?

話が脱線しましたが、つまりエピックシーカーとは、渦波君が『正しい迷宮攻略』を行うために聖人ティアラが1000年先に用意した『拠点』なんだと思います。アイド先生を攻略するための。
だからパリンクロンは自分が倒された先のことも『与えられた呪い』で用意しなくちゃいけなかったんじゃないかなーと。
もっとも、使徒レガシィの魂って、シア・レガシィが本来受け継ぐハズだったので、パリンクロンではなくシアが則って行っていた可能性だってありそう……と思ったんですけど、ワイスさんのケースを鑑みると、『男の子』のパリンクロンは必ず選ばれていた……んじゃないかなぁと思いました。

よって11巻の歩みは、即ち用意されたレールの上を歩いている気がします。
文明が強制的にアップデートされ、あっちこっちに配備された新たな魔石線のように……。


さて、ティティーです。
いくつかのことは上でも触れてましたので省略します。
11巻において、ティティーは約1000年後に訪れた青春を満喫しているように見えて終始ほっこりしました。

終始渦波君からぞんざいな扱いを受けて不憫に思いました。
しかし自分の在るがままやりたいように行動しているので、これから未練を果たして退場するようなキャラに見えず、切ない気持ちでいっぱいです。さすがに必殺技名まで渦波君からケチつけられるのはあんまりだよと思っちゃいました。と同時に渦波君根っからの厨二病患者でもあると再確認です。

そんなティティーですが、『統べる王』の座を降り、『勇者』として振る舞い、やがて自分の身の丈にあっていたのが『庭師』だと気付いたってことで、割と9巻で抱いた予想って大ハズレでもなかったのかなぁ……なんて思ってしまいます。

そして特に印象に残ったのが、スノウとの絡みの次の一幕。

「うむうむ! こういう妹もよいの!」
「えへへー、頑張った甲斐があったー! 私を甘やかしてくれるお姉ちゃんが出来て、私の旦那様も 帰ってきてくれた! あー、本当によかったー!!」
(11巻、位置No.3496-3498より引用)

……この一幕、伏線と言うか今後アイド先生が同じようなことをするんじゃって思っちゃいます。

12巻は十中八九、アイド先生が過去を見つめ直すお話になるだろうことは予想できます。
『統べる王』を頼るのではなく、『ティティー姉様』(この呼び方は10巻参照)を頼る展開がって。
何のためにって渦波君を倒すためにですけど、アイド先生と『帰る』ことがティティーの目的なのですから、アイド先生の未練を果たすためならアイド先生サイドに移ってもおかしくないんですね。
結局、今ティティーとアイド先生が袂を分かっているのは、互いが見ているものが違うからですし。

ローウェンの未練を果たすために、渦波君はリーパーと協力し合いました
ならばティティーがアイド先生と協力し合う展開があってもおかしくないんですよね。

別れがすすけて見える11巻。
明るいのに切ない。面白いのに切ない。
楽しいのに切なさの残滓が残る……ティティーから抱いた印象はこんな感じですね。




大雑把に書きたいことはこんな感じです。
あとは項目を挙げるほど大きくないけれど、いくつかあります。

まずフェーデルトさん。んまーこの人、特に面白いことはしていないのに全て裏目に出てしまってギャグキャラじゃないのに面白人物に見えて仕方が無かったです
フェーデルトさんが採った戦術は7巻でアイド先生が渦波君を試すために用いた戦法と似たような感じで、確かにあれならばフェーデルトさんが自信をもって挑んでもおかしくないな、と思いました。
今後も復讐(という言葉が正しいのか?)する機会はあるでしょうし、地味に出番が多そうなキャラですね。


次にラグネちゃん。
2巻からは想像もできないほど昇進してビックリしました。
といっても11巻のラグネはどちらかというとナビゲート役といったところで、今後もこういう絡みだとちょっと悲しいなぁって感じです。


次にクロウさんやリィネさんたち。
10巻から引き続き再登場してくれて凄く嬉しかったです。
なんていうんでしょう。暖かいんですね。そして戦闘方面から離れた場所にいるからこそ、シリアスな空気や世界観やシナリオを忘れることができました。
渦波君がラスティアラに振られたあとの酒場の場面は大爆笑したのは言うまでもないです。


次にエピックシーカーのメンバーたち。
1年の経過で大きな変化があって、いかに渦波君が英雄と化しているのかが如実に伝わってきてとても良かったです。
変わらない良さと言いますか。アリバースさんを筆頭にとても懐かしい気持ちになりました。
……異世界迷宮の最深部を目指そう、4~6巻を読んでた頃から相当な月日が流れましたからね。

ただ、レイルさんがこの場にいなかったのが、残念な気持ちになりましたね……。


最後にルージュ。
11巻の表紙絵が何故ルージュなのかはあとがきで描かれています
要するに12巻における重要キャラのひとりになるのは言うまでも無いですね。
ラスティアラ以外で魔石人間の立場から物申せるのは現状ルージュしかいませんし、間接的か直接的か、ティティー以外で言葉が届きそうなのがルージュです。
とはいえ、上で触れたようにアイド先生が魔石人間に対する見方が変わってしまったようですし、まずは元の状態に戻すまでが大変なんでしょうね……。

そして寿命が短いからこそ、12巻で退場する可能性が高いんじゃないかなぁと思っています。
ルージュも含めて、魔石人間の在り方が11巻~の裏テーマのひとつに見えるので、何とか、何とか生き残って欲しいですね。
……と言いつつ、9巻の感想記事でレイナンドさんとベスちゃんが生き残るのを願ったら、10巻で早々と退場しちゃったんでもう、フラグにしか(泣




といった感じで11巻の感想記事は終わろうと思います。
終始グダグダになってしまって申し訳ないです。シュタッとするよりも思ったことをマシンガンしていくほうが性に合っているというか、感想が綺麗になり過ぎちゃうのでこういうスタイルのほうをわたしは選んでしまいます。
もし読んで物凄く読み難かったら指摘しちゃってくださいです。