3巻です。
立ち位置的に見ると、3巻はプロローグのエピローグ。ひとつの物語の終幕が描かれています。ひとつの物語が終わり、4巻から新たな物語が幕を開けます。

基本的にウチはamazonさんで物理小説も電子小説も買っているのですが、3巻はレビューが大荒れ状態でした。嫌な予感がしました。

異世界迷宮の最深部を目指そう 3 (オーバーラップ文庫)
著:割内タリサ先生
イラスト:鵜飼沙樹先生
コインに表と裏があるように、人の心も光と闇があります。
人の光が見えるのが二巻ならば、人の闇が見えるのが三巻です。
絶望という光と希望という闇がグチャグチャになって、登場人物ほぼ全員が表舞台にあがり、全員思惑と自らの心に従って行動を起こしていく英雄譚です。

2巻の終盤でハインさんからラスティアラに致命的な状況が訪れることがカナミ君に伝えられます。カナミ君の目的は元の世界に帰ること……というのは表層部分。けれど目的はそれだけで十分なのです。そのために彼は全てを犠牲にして進めてきました。

カナミ君には謎のスキル、【???】が備わっています。何故発動するのか、どういうプロセスなのかはまだすべての部分が明らかになったわけではありませんが、【???】を習得していたが故にあらゆる可能性が潰えていたことが明らかになります。

【???】は時限爆弾です。しかもただの時限爆弾ではありません。何度でも条件が満たされれば大爆発する、カナミ君が死ぬまで追いかけ続ける心を殺す爆弾です。まるで心にのみ作用するシアーハートアタックです。なにそれこわい。

【???】の副作用が大爆発するシーンは震えましたね。キャパを越えるとどうなるかずっと気になっていたんですけど、こう来るか、こうなるかと。いや死ぬでしょ。人という器のキャパを越えているでしょ。人という心がもたないでしょ。

この小説は過去編やインタールードにならない限り、カナミ君の主観に基づいて話が展開されていきます。では他の人物が何を考えているかというのは、そのキャラに移らない限りわからないです。

ラスティアラも、マリアも、ハインさんも、パリンクロン、そしてアルティも思惑があります。五者五様、それぞれが自分のベストを目指すわけです。

・どうしてラスティアラはカナミ君に気をかけたのか
・どうしてマリアはカナミ君を好きになったのか。どうしてラスティアラに嫉妬するのか
・どうしてハインさんは天上の七騎士を裏切ってまでラスティアラを救おうとするのか
・どうしてパリンクロンはハインに協力するのか
・どうしてアルティはマリアに魔法を教えたのか。どうしてマリアを助けるのか

100%ではありませんが大半の問題に対し、答えが示されるのが三巻です。
全てが上手く行き、全てが上手く失敗しました。酷いバッドエンドだ……。

ディアは一巻の時点で救われ、どちらかというと縁の下からサポートする立ち位置になるのでそういう意味では不遇なことになっています。けれどディアの演説は凄かったです。一巻のディアを知っていると三巻のディアはとても頼もしく見えましたし。

登場人物全員が表舞台で足掻き、足掻き、足掻き続ける。
その先に待ち受けていたのは、めでたしめでたしの第二部へのパスポート……ではなく、全てが壊れる片道切符でした。
この作者さん上げて落とすの上手いですね。パリンクロンが途中で一時退場したので肩透かしだったのかと思ったらあの展開ですよ……。

ラスティアラがどうしてちぐはぐな行動を取ったり空気読めなかったり変に優しかったり全ての行動に裏打ちが行われるのが三巻の前半戦。ラスティアラという少女がいかに創られ、精一杯生きた物語。
前半戦でラスティアラのキャラが描かれていたんですけど、後半まで読み終えるとマリアに塗り潰されて思ったほど印象に残らなくなってしまいました。それだけマリアの物語が鮮烈だった、ということになるんですが……。

二巻はラスティアラが表紙絵でした。
三巻はマリアが表紙絵です。ラスティアラを救うのが本筋なのに、どうしてマリアが表紙絵なんだろうと三巻の序盤を読んだ時点では首を傾げました。

……紛うことなきマリアの物語ですね。
恋は炎のようにーなんて言いますけど、物理的に焦がす恋の炎というか……。
アルティにはすっかり騙されました。知っているのか雷電ポジションになると思ったら、そう来るか、そう来るかっ!! ですよ。

「――ようこそ、探索者ジーク。ここが、こここそが十層。火の理を盗むものアルティの階層だ。(以下省略)」

痺れましたね。
そうか、そういうことか、そういうことだったのかと。
なんで家燃えているんだよ。なんでマリアが洗脳に近そうな状態になっているんだよ。
なんでマリアがって疑問符全てに終止符打たれて膝を打ちましたね。

そしてカナミ君自身にも何か秘密があるのが示唆されましたね。露骨に詠唱も魔法の名前も似すぎているんですよ。似すぎているってことはカナミ君にも何か秘密があるからこそ今に至る、至れなかったってことですよね。
炎に対する氷。氷に対する炎。怒涛の勢いで盛り上がっていくカナミ君VSアルティ&マリア戦は燃えました。心が躍りますね。
上げて上げてラスティアラ救出に巻の半分費やされ、後半は脱出戦だと思っていたのでこれは燃えますね。それまでが上手く行き過ぎていたが故に燃えざるを得ないですよね。

マリアも自分の全てを賭けてカナミ君に挑んできます。
まさかマリアがカナミ君と戦うことになるとは思わないですよ……何かあるだろうなとは思いましたよ。けれどよりによってカナミ君と戦うとは思わないですよ。ラスティアラと戦うことになるんだろうなー程度でしたよ。

互いに死力を尽くした結果、最後はカナミ君が勝ちます……と言いたいところですが、マリアの勝ちですよね。結局。カナミ君の口から真実の言葉を引き出すことに成功したのですから。終わってみればマリアの一人勝ち。マリアの想いが全てを塗り替えたのです。

……しかしまさかマリアがあんなことになるとは。
四巻以降どうするのって思っちゃいますね。火で探知できるからって、自分自身を失うようなものでしょあれは。けれどスキルに頼っていたからこそ、本質を見極められなかったというのは皮肉ですよね。それもパリンクロンによって教えられるとは……。

炎によって過去を忘却していったマリア。
全てが虚飾の鎧で覆い、全てを隠してきたカナミ君。

4巻の冒頭を読むと、嗚呼……二人とも同じ道を歩んでいるんだなって思ってしまいますね。過去に囚われ、今に捕らわれ、未来を偽る。
誰も悪くない。ただ、何もかもが上手く行かなかった……悲劇ですね。

それも二人がようやく気持ちを分かち合った直後で全てが破綻する悲劇。
パリンクロン貴様あああああっ!!! て思っちゃいますね。いやーすべてを仕組んでいたのはハインさんみたいなものですけど、全てを操っていたのはパリンクロンですよね。

まさかハインさん死ぬとは思いませんでしたよ。
死んだという事実だけに留まると思ったら、致命的な事実を突きつけられるんですからうぎゃーってなっちゃいますよ。
ハインさんの気持ちわかるんですよね。誰だって心があるんですから、自分の身の裁量をわかっているんですから、適者生存、カナミ君に託したいって思っちゃうでしょ。なれなかった自分を託したくなるでしょ。
上手くいった。上手く行き過ぎた。ただ、パリンクロンというイレギュラーが少し方向をずらしてしまった。その結果、全てがピタゴラスイッチのように崩壊してしまった。

ただハインさんから見ればあんまりな展開……とはならないでしょうね。
何故ならラスティアラを救出するという目的そのものは果たされてしまったから。
少なくともラスティアラが材料に使われることは、最低でも当面は防がれたでしょう。

ハインさんは結果的に亡くなりましたけど、目的は果たされたのです。悲劇で終わっても最悪は防げたのです。ベストである『カナミ君とラスティアラが』逃げおおせる展開にはなりませんでしたし、肝心のラスティアラが救われきれていないのがなんとも後味が悪いんですが……。

3巻まではジークフリード・ヴィジターの物語。偽りの英雄譚。
4巻からはアイカワカナミ君の物語。偽りの英雄譚。
4巻の冒頭を読みましたけどガラッと変わっていてビックリですね。
そりゃ3巻のラストであんなことになってしまうので、そりゃえげつない展開になっているだろうと思ったら思ったよりもずっと平和なプロローグで地に足付かないふわふわっとした気分です。

ってことで端折りましたが3巻の感想でした。
4巻の感想を書くのは少し時間が空きます。空くのを利用してこの一カ月で読んだ他のラノベの感想記事もアップしていきます。
とりあえず予定しているのはゴブリンスレイヤーと魔法少女育成計画です。おたのしみにー