1巻が第一部。
2、3巻が第二部。
と見立てると4巻からは第三部ってことになるんでしょうかね。舞台が一新され、ジークの名を棄て、アイカワカナミとしての冒険が幕を上げます。

偽りの平穏。偽りの楽園。
虚飾に覆われた天蓋の下でカナミ君は新たな出会いを紡いでいきます。

先にお断りをさせていただきます。
今回3巻までの確認も含めていくので、今まで以上にネタバレが酷いです。ご注意ください。





異世界迷宮の最深部を目指そう 4 (オーバーラップ文庫)
著:割内タリサ先生
イラスト:鵜飼沙樹先生
今回は異世界迷宮の最深部を目指そうの4巻の感想です。
ネタバレ多いです。ご注意ください。

まず振り返りと確認から進めます。

3巻は壮絶なバッドエンドで幕を閉じました。ジークフリート・ヴィジターとしての命運が尽き、相川渦波――アイカワカナミとして生きることになります。
(すみません。ジークは愛称でフルネームジークフリートでしたね)

さて、カナミ君には強力な洗脳が施されました。
人格は変わらず、しかしほんの少しだけ認識が差し替えられました。

ひと際大きい認識変化は、マリアを妹(カナミ君を兄)として認識していること。
そして一連の出来事は、パリンクロンに助けられたものとして認識していること。

お陰でディアとラスティアラのことは忘れていますし、ジークと偽名を使っていたことも覚えていません。アルティやティーダと戦ったことすら覚えていません。
あと4巻の描写を見る限り、マリアは火を使って方々を認識するスキルを忘れているか思い出せない状態であると思われます。ですので視力を失っている以上、聴力によって周りを認識しています。
ディアのヤンデレ具合が三段階くらいアップしてヒロインヤンデレースを爆走し始めました

さらに舞台はラウヴィアラに移動しています。恐らく聖人ティアラの降誕儀式を台無しにされている以上、カナミ君はフーズヤーズでは懸賞首になっていることでしょう。多分。

この洗脳の面白いというか厄介なところは、洗脳解除をしようと思えば可能である点。ロックは装備している腕輪に掛かっているのが十中八九確定なので、これさえ壊せば恐らくカナミ君とマリアの記憶は戻ります。多数の幸福を犠牲にして。

ラスティアラやディアもまた、カナミ君に洗脳が施されていることに気付きます。気付きますが解除しません。
まだその時が妥当ではないから……が無難な答えじゃないでしょうかね。
パリンクロンは策謀を幾重にも張り巡らせています。この時に解除するのはパリンクロンから見て得の多い展開……という予想も立てることができます。

4巻のカナミ君は実に生き生きしています。平和です。間違いなく幸福です。
マリアから見た4巻は実に幸福だと言えるでしょう。恋人ではなく、兄としてになってしまいましたが、確実に自分の居場所を確保できたのですから。確実に自分が求められる存在になったのですから。
そして添い寝シーンご馳走様でした。相変わらずマリアは嫉妬の炎に燃えています。

偽りの幸福の楽園。記憶が戻るとこれらが全て壊れます。
4巻から新登場する一部の登場人物は、それについて真実を認識しています。
パリンクロンの真意はまだわからず仕舞いですが、他の真実を識る者からすれば、カナミ君とマリアの記憶は善意から、幸福を願っているからこそ解除させたくないわけですね。

4巻はローウェンと出会うまで、出会ってからで展開が大きく二分します。
前半戦はカナミ君がギルド『エピックシーカー』のギルドマスターとして奮闘するお話です。カナミ君は記憶の認識をいじられましたが、『経験値』は残っているわけです。心は覚えていなくても、身体に刻まれた経験という名の記憶までは忘却できないのです。

2巻で登場したスノウ・ウォーカーが再登場し、エピックシーカーのサブギルドマスターとしてカナミ君と協力し合ってギルドを運営していきます。2巻以上にダメ具合が加速します。良いぞもっとやれ!
サブギルドマスターは他にもいますし、彼らの活躍機会も当然あります。

ギルドメンバーは一癖も二癖もある人が多いですが、彼ら彼女らは善性です。
基本的に4巻に出てくる新キャラは、ほぼ全てが『善い人』です。ですのでぬるま湯に包まれているようなふわふわっとした気分で読み進めるのではないでしょうか。

ちなみにウチが特に気に入った新キャラは鍛冶屋のアリバーズさんです。
デザインについて夜を明かしたいです。挿絵があったのがとても嬉しかったです。

3巻までと同じように、次元魔法と氷魔法を駆使して大立ち回りを演じます。3巻までと比べると命の危機に瀕するようなバトルが少ない以上、少々物足りないですけどね……。

後半は三十層の守護者、地の理を盗む者――ローウェンと出会うことで運命の歯車が動き出します。全裸褐色少女という属性盛りすぎ死神リーパーとローウェンは良いコンビというか良い味出しています。何となく脳内ボイス、ローウェンは保志総一朗さんなイメージですハイ。
ローウェンを成仏させるためには一大イベント、舞闘大会(武闘大会でも舞踏大会でもない)を進めていく――ということは、第三部は舞闘大会編……なんでしょうかね。規模というかどれほどバトルを重ねていくかわかりませんが、相応に長いお話になりそうです。

グレン・ウォーカーもいよいよ本格的に物語に絡み始めます。
3巻の頃からそうでしたけど、思っていたのとちょっと違うというか、弱腰の優男だったんだなぁ……と。いや、多分もっと違う一面があるのを期待しています。カナミ君が来るまで先に進んだ者なんですし。



舞闘大会がメインに進みつつ、方々の問題が山積みされていきます。

まず筆頭としてスノウの問題。
スノウの家柄の問題ですね。カナミ君が結婚を受諾するだけでハッピーエンドになりますがそうするわけにはいかないよねと。
カナミ君は真実と向き合うために腕輪を壊す壊さないは別にして、前に進もうとしています。そうするとスノウと結婚するわけにはいかないのです。というかプロポーズがああいうプロポーズなので、その場の流れで受けるわけにもいかないでしょうあれは……。
というかフランちゃんどこいった?

スノウの過去の一片しか語られていない以上、どうしてスノウがやる気を無くしたダウナー系になったのか、まだわかりません。
わかっているのは過去に何度も失敗し、失敗によって失ったものが多すぎたせい……なのはわかります。前フリがある以上、スノウは恐らく過去と向き合う展開が先で待ち受けている……んじゃないでしょうかね。
ケースがケースなのでシッダルク卿との婚約を解消することも、カナミ君と結婚することもしない第三のルートになるだろう予想は付きますけど、そうなると家の問題が一切解消できないです。母君を納得させるだけの新たなカードを用意しないと、きっとスノウは解放されず縛られたままなんだろうなと。

そしてローウェンを成仏させる問題。
ローウェンの反応から見て、同一人物なのか同名の別人なのか同姓同名の転生体なのかわかりませんが、1000年前にも『アイカワカナミ』という次元魔法使いが実在したのであろうことは予想できます。
ならアイカワカナミ君とは一体何者なのか、という問題が浮上します。
単なる同姓同名の別人……ってことは無いでしょう。双方次元魔法使いという共通点がある以上、無関係であるとは到底思えません。
ならカナミ君が『この世界』にやってきたのも大きい意味があるはずです。

つまりパリンクロンがカナミ君に洗脳という名のロックを掛けたように、もっと別の大きい存在もカナミ君にロックを施しているのだと思われます。
そうなると、今のところ一切出てこない妹の陽滝も無関係ではないのかもしれません。
というのは妹の陽滝のことをパリンクロンは認識していたからです。
仮にパリンクロンがカナミ君のように他者のパラメータを見るスキルを持っていたとしても、妹の陽滝を認識することは恐らくできません。ラスティアラができたのは、カナミ君の本名を看破し、異世界から来たという事実までです。

即ち、パリンクロンはもっと別の何らかの方法で、カナミ君の素性を知り得ていたことになります。
パリンクロンもまた、パリンクロンではないもっと別の一面があるに違いありません。
というか流れからするとパリンクロンはラスティアラは『失敗』しましたが、別の誰かの降誕した肉体って考えるのが妥当なんじゃね? って思っちゃいますよ……。

パリンクロンが施した洗脳が解除されるとこうなります。

・マリアとの関係が壊れる
・エピックシーカーのギルドマスターとしての立ち位置が壊れる
・マリアはカナミ君を手に掛けようとした事実を思い出してしまう
・スノウを救うことができなくなる

つまりラウヴィアラで築き上げてきたもの全てが破綻します。破綻すると間違いなく不幸になります。洗脳を解除しなければこれらを全て享受したまま、幸せな余生を過ごすことができます。カナミ君の実力もあって地位もお金も名誉も得ることができるでしょう。
それらを全て棄ててまで、果たしてカナミ君に洗脳を解除する価値があるのか。





あるに決まっているでしょう
カナミ君の第一目的は、元の世界に還ることではありません。
本当の妹である陽滝を守ることです。

認識を変えられ、マリアを妹の陽滝として認識している以上、カナミ君が求めている第一目的は『達成されてしまっています』。
だからこの洗脳を解除するのは容易なようで困難極まりないものになっています。
つまり洗脳を解除するには、まずマリアが妹ではないという認識に戻さなければいけません。

鍵を握るのは夢の世界でリーパーに託した言葉です。
リーパーだけが本当のカナミ君から託された言葉を携えています。

どのタイミングでこの時限爆弾が大爆発するかわかりません。
ローウェンと決着をつける展開も恐らくあるでしょう。
スノウの問題を解決する展開も恐らくあるでしょう。

二巻ラストと同じです。
いくつもの時限爆弾がカウントダウンを始め、今か今かと大爆発の機会を伺っています。

そしてカナミ君に課せられたスキル、『???』。
4巻は一度も発動していません。もしかしたらパリンクロンの手によってこのスキルは喪われているのかもしれません。
ウチは恐らく残っているだろう展開を予想しています。『???』が災厄としてカナミ君に不幸をもたらしたのであれば、今度はカナミ君を希望に導く不幸を与える……そんな気がしてならないのです。
指摘受けたので3巻読み直しました。思いっきり封印されたって表示ありますねorz
一気読みしないと忘れちゃいますね……申し訳ないorz


そしてカナミ君の時限魔法、『ディメンション・決戦演算』が人間離れしてスーパーコンピューターと化してきていよいよチートキャラになってきたなぁと。

ローウェンが言っていたと思いますけど、迷宮は成長を促すためにある……とするなら、今、まさしくカナミ君がそうなっていますよね、と。恐らく今後も右肩上がりでカナミ君強くなるでしょうし、どこまで人間離れしていくやら……。

ってことで4巻感想でした。
4巻は刺激を求める人には退屈な巻で、こういう平穏が好きな人にはたまらない巻になっていたと思います。5巻はいよいよ舞闘大会が開幕するでしょうし、バトルパート目白押しでとても楽しい巻になっている――そう思わずにいられません。