ひとりを除いた全ての役者は舞台に集う。
全てを見届けるために。全てを清算するために。全ての歯車を元に戻すために。

カナミ、ローウェン、リーパー。
三人の『親友』は、互いに互いを想っているが故に譲れない。
譲れないからこそ、それぞれの決勝戦が幕を開ける。

全ての清算が負債として襲い掛かる3巻――。
全ての清算が経験として実りをもたらす6巻――。

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異世界迷宮の最深部を目指そう 6 (オーバーラップ文庫)
著:割内タリサ先生
イラスト:鵜飼沙樹先生
今回は異世界迷宮の最深部を目指そうの6巻の感想です。
ネタバレ多いです。というかネタバレしかありません。本当にご注意ください。
あと『続きを読む』を設けているので察していただけるかもしれませんが、今回の感想記事、ガチのガチ、超ガチの超長文感想です(引用込みで20000文字オーバーです)。全部読むと時間潰れます。ご注意ください。


もしも異世界迷宮の最深部を目指そうがアニメになったら6巻までを2クールor20話くらいにすれば綺麗にまとまるんじゃないかなぁと思いました。それほど6巻で綺麗に完結したお話になります。肝心のパリンクロンに関する部分が全く解決していませんけどね。

6巻は読後感が非常に素晴らしい小説です。
色んなラノベを読んできましたが、これほど満足できたラノベは他にありません。
……まぁ今後色んなラノベを読んでいけば記録が塗り替えられるかもしれないですケド。

コホン、ホント素晴らしい小説ですので、もしも異世界迷宮の最深部を目指そうをお読みになる場合は、頑張って3巻まで、もしくは6巻まで読むのを目標にすると良いです。



まず5巻までのおさらいをしましょう。
パリンクロンが用意した腕輪によってカナミ君とマリアは洗脳を施されました。
そして紆余曲折を経て、5巻でようやくカナミ君の腕輪が破壊されます。
記憶が戻ったカナミ君は、パリンクロンを倒すべくいよいよ動き出します。
けれどその前に、まずは『親友』ローウェンと決着を付けなければいけません。

ココまでが5巻。
6巻はその続きです。ライナー君の動向が気になりますが、ローウェンと闘うには、その前に大きく解決しなければいけない問題がひとつあります。

リーパーです。
リーパーの願いは、ローウェンをずっとこの世に留めさせること。
つまりローウェンの願いとは真逆ですし、カナミ君の願いとも真逆です。

だから今まで協力的だったリーパーが、今度は正真正銘の敵として立ちはだかります。
リーパーと戦う展開自体は予想できたのですが、リーパーの真の力は読めませんでした。
まさか全員とパスを繋げていたとは……『魔法』だからできることでしょうけど、一気に数百人、数千人……数百年分の知識を得てしまいました。
いわゆる一種の、ロリババアってヤツでは(タコ殴り

例えるならあらゆるwikipediaをその身に宿したようなものです。足りなかった経験則を知識を糧にするという形で、幼い少女リーパーは得てしまったのです。
知識や経験を得てもパラメータがアップしなければ――と思ったら、辺りにいる人全てがリーパーの魔力供給源になってしまいました。一気に無理ゲーっぽくなっちゃいました。

じゃあどうやってリーパーを倒すのかっていうと、もちろんラスティアラたちも協力するのですが、リーパーが目当てにしていたマリア、そして成長したからこそのカナミ君あっての力で解決します。

元々リーパーと禍根を断ちたかったわけではありません。
その手前として、マリアの腕輪を破壊するのが第一目的でした。
記憶が戻る前、カナミ君はマリアが妹では無いことに気付いていました。けれどマリアとの今までの関係の記憶まで取り戻したわけではありません。
偽りの幸せの記憶の海で溺れるマリアを助け、元に戻す(3巻終盤参照)ためにマリアを助けるのです。

さて、マリアもカナミ君も装着していた腕輪は、どうやらニ十層、闇の理を盗むものティーダの力も使われているようです。再確認ですが、ティーダを倒した際に生まれた魔石はパリンクロンが買い戻して持っています。確か呑み込んで糧にしたんでしたっけね……。
そしてリーパーも闇属性です。腕輪に掛かっている呪いと相性抜群なんですね。

でも、マリアは火の理を盗むもの、アルテイの恩恵を受けています。
リーパーが膨大な知識を得ても、知らないことだってあります。そこが致命的でしたね。
アルテイの強大な炎の魔法は代償として、記憶を燃料にしています。
にも拘わらず、偽りの『今までの記憶』があること自体がマリアが記憶が偽りなことに気付くとは実に皮肉な結果です。
アルテイは確かにいなくなりましたけど、アルテイはマリアの中で生き続けています。

「(中略)嘘では誰も救われないってことを私は知ってます! (中略)」
(6巻、No.858より引用)

嘘で救われていたマリアが言う皮肉ですよ。
確かな幸せがそこにあったのに、気付いてしまったから、偽りだと気付いてしまったから……認めなくてはいけない。
偽物の楽園よりも、辛い現実のほうが幸せだとマリアは知っているから。本当の意味で救われるには、偽物の楽園を棄てなければならないから。
結局、リーパーは最善の手を打ったつもりで最悪の手を打ってしまったのです。

カナミ君もリーパーも、ローウェンという共通対象を想う気持ちはホンモノです。
けれど、互いに想う気持ちがホンモノでも、その先に観る光景は異なりました。
ローウェンにとって、果たして何が彼に真の幸福(救い)をもたらすのか。
どちらも決して間違いではありません。
けれど、ローウェンは未練が残っているのです。未練があるから、ローウェンはこの世界に留まっているのです。
未練を解決することが、ローウェンにとっての本当の救いなのです。

そういう意味ではリーパーが行おうとしていた結果がもたらしていただろう結果は、偽りの楽園で安らぎを得ていたカナミ君、マリアと非常に良く似ています。
だからこそ、『戻った』カナミ君は全力でそれを止めなくてはいけないのです。偽りの楽園を棄てる価値を、大切さを知っているのですから……。

カナミ君は4巻、5巻の経験を持っています。
リーパーを止めるためには、今までの戦術ではダメなのです。
リーパーを止めていた、ローウェンと同じことができるようにならないとダメなのです。

ではローウェンと同じこととは何か。
感応です。『アレイス流の奥義』が、リーパーに対する切り札になるのです。
だからこそ、ローウェンは一度もリーパーに敗北することは無かったのです。
カナミ君がいくら努力しても実を結ばなかった感応の修行。しかし感応は確実にカナミ君の中で花を咲かせていました。
いつ、どこで? そう、腕輪を壊したあとの呪いです。
剣の神髄、剣の極地、技術が昇華し、魔法の領域に達した至高の『魔法』。
腕輪の呪いに操られた結果、カナミ君は感応をその身に宿していたのです。

こうしてみると、今まで以上にパリンクロンの思惑が、カナミ君を成長させることだと思わざるを得ないですね。試練とは文字通り試練で、カナミ君を成長させるための試練になっていますから。

パリンクロンがカナミ君に用意した試練は『四つ』。
ラスティアラを救うためのボスラッシュ(天上の七騎士)。
火の理を盗むもの――十層の守護者、アルテイとその力を宿す『親友』マリア。
闇の理を盗むもの――ニ十層の守護者と同じく、闇の力を持つ『親友』、リーパー。
地の理を盗むもの――三十層の守護者、『親友』ローウェン。

全てを乗り越え、着実にカナミ君は成長しています。
肉体的だけではありません。精神的にも着実に成長していっています。

リーパーとの因縁に決着が付きました。
けれど解決したわけではありません。決着がついただけです。身動きを封じて決勝戦に干渉させないようにできるようにしただけです。
それでも、リーパーもカナミ君とローウェンの決着を見届ける責任があります。だってリーパーもまた、ローウェン、カナミ君にとって大切な存在なのですから……。



次はスノウの問題です。
(小説はスノウの問題を解決したあとでリーパーと決着をつける流れです)
5巻の感想でスノウが6巻でも干渉してくるのではーみたいなことを書きました。
けれどそれは杞憂でした。何故ならカナミ君がスノウの問題を見事に解決してくれたからです。
スノウの義母との問題解決は、実に読んでいて気分爽快でした。カナミ君の心の成長を垣間見えました。
そして改めて、5巻までの経験が活きているのだと思いました。貴族に対するヘイトが尋常じゃないものに昇華されていましたからね……。

少し意味深な尾が残りましたが、スノウの問題も無事に解決できました。
4巻のあとがきでスノウのキャラが二転三転すると書きましたが、まさか、

・ダウナー
・重度の依存症

と続いて、

・ポンコツ且つ卑屈

になるとは思いませんでした。
ラスティアラに対して媚びへつらうスノウ可愛い。
可愛いんですけど戸惑っちゃいますよ……。「えへへ」の破壊力ごちそうさまです。



そしてマリアです。
マリアも無事に記憶が戻りました。
『ご主人様、ジークフリード・ヴィジター』ではなく、『カナミさん』として関係性が戻ったのはホント良かったです。
スノウもマリアもそうですけど、関係性をタイに、対等に、平等に、助ける助けられる肩を並べる関係でありたいという、カナミ君の矜持が伝わって良かったです。
ただその反面、ヤンデレしかいないカナミ君のハーレムパーティは常に一触即発の爆弾抱えていますよね。カナミ君の心労は常に絶えません。自爆しそう。
相変わらずディアとマリアは険悪なままですし……。
ディアが余計キレるのもごもっともですよね。自分の『宝』であるアレイス家の宝剣を溶かされた上に別物に魔改造され、その上『敵』に渡ってしまっているのですから
ラスティアラとマリアの関係性がある程度修復されたのは良かったです。3巻の中盤までだと、ラスティアラがカナミ君を奪った図式の状態でしたからね……。



ラスティアラもそうです。
ティアラの降誕するために用意された魔石人間(ジュエルクルス)ではなく、ラスティアラ・フーズヤーズとして今までのしがらみから解き放たれ、やっと自分の一歩を踏み出せたんだなと。きっとフーズヤーズから逃亡していた時間の間に、それはもう散々苦労したんでしょうね……3巻と4巻、明らかにラスティアラの人間性が上がっていますから。

そういえば空白期間ってどれくらいあるんでしょうね。
パリンクロンによって洗脳を施された3巻ラスト。カナミ君が目覚めた4巻。
でも3巻の終盤、舞台はフーズヤーズからラウラヴィアに移動しています。
ってことは瞬間移動でもしない限り、カナミ君を運んだ期間が存在するはずです。その空白期間こそが、ラスティアラ、ディア、セラの成長期間になります。

こうして見るとパリンクロンはどこまで布石を打ったんだろって思っちゃいます。
1巻から3巻までの黒幕がパリンクロンですけど、4巻から6巻の間は腕輪と腕輪に掛かった呪い以外は特に手を打っていないんですよね。そりゃリーパーをかどわかしてけしかけた部分は当然あります。ありますけどディアやラスティアラたちによってイレギュラーな展開になる可能性だって当然あったハズなんです。

にも拘わらず、パリンクロンは表舞台に現れません。
6巻の終盤でパリンクロンがどこにいるのか、詳細こそわかりませんがぼんやりと明らかになります。離れすぎて直接干渉できる余地がありません。
(そういう魔法があれば別ですけど……)

ということは、カナミ君だけでなく、ラスティアラに対しても成長を促している節があります。そうじゃないとラスティアラにトドメ(終止符)を刺すべく、暗殺部隊や捕縛部隊をけしかければいいんですから。
事実、フェーデルト他はラスティアラのことを諦めていません。
諦めていないということは、『今後も続く』ということです。
けれどパリンクロンはラスティアラに対して手を打っていません。
ということは『カナミ君成長計画』の中に『ラスティアラ』もまだ継続して駒のひとつとして利用され続けているということに他なりません。

だからこそ余計にパリンクロンの最終目的がわからなくなります。
こんな回りくどいことをしなくても、あれだけキレ者なんですからもっとストレートな方法あるはずなんですよ……。話術で人を惑わし誘導させる力があるんですから、もっと効率の良い方法があるはずなんですよ……。どうして遠回しにするのか……。



さて、話を戻してカナミ君とローウェンの決勝戦の感想を書いていきます。

まずなんといっても今まで登場したサブキャラが一堂に集っているのは、この小説の集大成感を感じました。酒場の人たちも来ましたし、1巻で出会った冒険者も出てきました。
酒場の人たちが暖かく見守っているのはグッと来ましたよ……えぇ。

敵も味方も総動員です。
ジークフリード・ヴィジターであり、アイカワカナミであり、相川渦波であり、エピックシーカーのギルドマスターである彼に関わった人物がごく一部を除いて全て集います。
憎しみを抱く者も中にはいます。別の思惑を持つ者も中にはいます。
けれど、全ての者は決勝戦を見守る共通認識で結ばれます。

数々の思惑が錯綜する中、いよいよカナミ君とローウェンの決勝戦が幕を開けます。
けれどその前にカナミ君はローウェンと交わした約束を果たします。
律儀ですよね。カナミ君は……その人間離れした記憶力は、ほんの小さな約束ですら見逃さずに覚えているのですから。

そして絵になりますよね。マフラーたなびく剣士って絵になります。

観客席には当然、ラスティアラ他ヒロインが一堂に集います。
わだかまりは残ります。けれどヒロインたち全員の目的はひとつです。
カナミ君とローウェンの対決の行く末を見守ること。

カナミ君がローウェンと闘う決勝の場に来る前、当然ローウェンもドラマが描かれます。
ローウェンの前に来るのはひとりの英雄、『最強の英雄』、グレン・ウォーカー。
ローウェンの視点になったからこそ、やっとグレンの強さの一端が明らかになります。
なんというか今までの展開だとあまりグレンが強いって感じがしなかったんですよね。
暗殺特化型だったんですか……なんか納得しちゃいますね。

ローウェンにとって、ひとつの希望が示されます。
自分が本当に目指しているのは、自分の本当の未練とは何なのか。
英雄がテーマと化している第三部ですけど、ここにきて少しずつ英雄に対する価値観が動いていくのは静かですけど良い味出ているなぁと思いました。
そしてここまで来て、やっとウチはわかったんですよ。どっかで剣以外でアレイスって名前見たなぁって思ったんですけど、3巻の中盤の盛り上がっている場面で、ディアに軽口叩いた爺さんじゃないか! って。剣聖って称号も3巻で出ていますね。あのお爺さんがフェンリル・アレイスだったんですね。てっきりローウェンと闘ったフェンリル・アレイスは、勝手に想像で、もっと紳士っぽい、北斗の拳に出てくる海のリハクみたいな老練な人だと想像していましたよ……。

そうか、今までのお話って、そこまで繋がってくるのかと震えましたよ。

この小説って膨大な数の人物が登場しますけど、本当の意味で無駄になっている人ってあまりいないんですよね。直ぐに退場してもあとで再評価される流れか、あとで再登場する流れが多いっていう。
1巻のディアの踏み台になった冒険者たちまで6巻に登場しましたからね。
ほんとうに緻密な計算を組まれて作られた小説なんだなぁと舌を巻くしかないですよ。

そしてローウェンの過去。
奇しくもそれは3巻終盤のカナミ君が近いと言えます。強すぎる力は、それが背中を向かなくなった時、正面を向いた時に災厄と化す可能性が高いからです。
だって止められないんですから。制御できないんですから。制御できないならそれは不安定な力です。鎖で繋いでいなければ、飼い犬はいつ飼い主に牙を向けるかわからないのですから。
剣の道に生きたローウェンは、得るべきものを全て喪い、得るべきではないものを全て得てしまいました。未練が残るのは当然です。何も、『得られなかった』のですから……。

でも本当は違います。
得たものもあります。
それがリーパーという唯一無二な少女の存在。
強すぎて誰もが恐怖した自分を、唯一『対等に受け入れてくれた』存在。

終盤の話を先に持ってきますけど、ローウェンの未練がひとつであるはずが無いんですよね。『地上』にやってきてから、幾度となくローウェンは成仏しかけているんですから。

成仏しないのは、未練が残っているからです。
成仏しかけたのは、未練のひとつが果たされようとしていたからです。

ではローウェンにとっての未練とは何なのでしょうか。

英雄になりたかったからなんでしょうか。
賞賛されたかったからなんでしょうか。

英雄とは何でしょうか。
賞賛とは何でしょうか。

強ければ英雄になるのでしょうか。
強ければ賞賛されるのでしょうか。

小説の流れと順序を逆にして、先にローウェンの未練について紐解いていきます。



全ての答えを提示したのは、カナミ君でもリーパーでもなく、ローウェンを慕ってくれた子供たちでした。
そう――『ローウェン・アレイス』という存在を受け入れ、真っ直ぐに見てくれば、それだけでローウェン・アレイスの未練は果たせたのです。英雄や栄光、賞賛に固執して本質を見失っていたのです。守りたかったものが、そこにあったのです。

「このささやかな声援一つあれば、それだけで私はよかったんだ……」
(6巻、No.2268-2269より引用)

カナミ君もそうです。リーパーもそうです。
三十層の守護者でも最強の剣士でもなく、『親友、ローウェン・アレイス』として真っ直ぐに見てくれました。
『最強』グレン・ウォーカーも、『剣聖』フェンリル・アレイスも、やがて会場の人たちも、『ローウェン・アレイス』として見てくれました。
だから、ローウェン・アレイスの未練はひとつ果たされることができたのです。実が結ばれたのです。ローウェン・アレイスが救われるという実を。


では他の未練とは何でしょうか。
答えは最初から提示されていました。最初から明らかだったんですよ……。
自分を殺すためだけに作られた存在。そう――リーパーそのものです。
リーパーがローウェンの身を案じていたように、ローウェンもまた、リーパーの身を案じていたのです。
『生きること』、それは『死者』であるローウェンには決して届かない願いです。
ローウェンにできるのは、『生きる』のではなく、『留まる』ことなのですから。
だからローウェンは全てをカナミ君に託すことができます。カナミ君は『生きている』のですから……。生の道を歩いていけるのは、死者ではなく生者だけなのですから……。

カナミ君はローウェンと師弟関係です。
ローウェンは『親友』であり、同時に『師匠』です。
だから今までのすべてをぶつけて闘います。アレイス流剣術だけではありません。今までのすべての経験値(歩いてきた道)全てが、カナミ君の剣術です。
ロックマンで例えると今までの特殊武器総動員してぶつけているようなものですからね。盛り上がりの最高潮ですよ。

この小説は7巻以降もリリースされていますけど、もう最終回に近い感傷に浸っちゃいますね……。

4巻も5巻も、エピックシーカーのギルドマスターとして生きた『相川渦波』は全然無駄じゃなかったんですから。

1巻から3巻まで生きた『ジークフリード・ヴィジター』も全然無駄じゃなかったんですから。

『ジークフリード・ヴィジター』であり、『相川渦波』でもあるのが今のカナミ君です。
全ての経験は彼の中で生き続けています。

全ての清算が負債として襲い掛かる3巻――。
全ての清算が経験として実りをもたらす6巻――。

3巻と6巻は対になっています。

絶望で終えた3巻。
希望で終えた6巻。

『二つのお話』は、まるで闇と光の構図になっています。
絶望に絶望を重ね、絶望を希望で塗り潰し、やっとここまで来たんだなと。やっとカナミ君が真の笑顔で先を進めることができるんだなと読んでいるこっちまで笑顔になります。

余談ですが、今思えば『渦波』って名前は意味深ですよね。
渦も波も人の流れ、人の運命と見立てれば、まさにこの、異世界迷宮の最深部を目指そうという物語そのものを指し示していますから。
過酷な波ではなく、渦の波。渦ってうねりのようなものでもありますよね。
うねりの波と汲み取ると、なるほど良い得て妙だなと思っちゃいます。
カナミ君自身に隠されているであろう部分は7巻以降で明らかになるんでしょうね。
これで漢字にももしちゃんと意味がもしあるのなら伏線大好き厨のウチは大歓喜です。
渦波はともかく苗字の相川にまでもし意味があるのなら腰抜かすかもですね……。


ローウェンも今までを越えてカナミ君に肉迫します。
カナミ君がアレイス流剣術をマスターしたところで、そこは『アレイス流剣術を全て極めた者』の入り口に過ぎません。マスターし、さらに先を行くローウェンは、カナミが知らない先々を見せてくれます。戦闘における絶対的な経験値の差は、他の剣術を混ぜて昇華させたところで追いきれないのです。

でもカナミ君にも武器があります。
ローウェンはひたすら真っ直ぐです。フェイントなどを加えても、それらは全て『王道』なのです。しかしカナミ君はその次元魔法の適性もあって、駆け引きや読み合いに長けています。だから、闘いは次のステージに進みます。

ローウェンは剣を極めた者ですが、何も剣を振り回すだけが彼の特技ではありません。
『魔法』だって使えるのです。
ただしカナミ君や一般的な魔法使いのような魔法ではなく、『アレイス流剣術』を極めたが故に魔法の域に昇華した『魔法』です。
よく行き過ぎた科学は魔法に似ていると言われます。同じです。技術も極めていけば、『この世界』では魔法になるのです。

 瞬きの間に、数十の跡が残る。
 一呼吸の間に、数百の残光が煌く。
 一歩移動する間に、数千の軌跡が刻まれる。
(6巻、No.1827-1829より引用)

凄く綺麗な文章だなと思いました。
結晶と氷晶。
散りばめられた技術が、決勝戦という大舞台に宝石の花吹雪を咲かせていくのです。
決勝戦という大舞台が、『三十層を再現』していくのです。

それでも決着がつきません。
そこでローウェンはいよいよ最後の真の切り札を使います。

確かに奥義がひとつだけなんて言ってませんよね……まだ隠し奥義持っていましたよこの人は。カナミ君がローウェンに対して非難轟々なのも無理はありません。全部教えるって言っていたの、あれ嘘じゃんってことになりますから。

カナミ君は真の奥義、《亡霊の一閃(フォン・ア・レイス)》が使われた際、ローウェンの記憶を読み取ります。
ここまで緻密に計算が組まれた小説ですから、表現技法としてローウェンの過去を読み取ったわけではないんでしょうね。見方を変えるとサイコメトリー、つまりローウェンの過去を盗み見たことになります。

そういえばアルテイは悲恋があったことは明らかになっていますけど、それが具体的にどういう悲恋だったのかはマリアしか知らず、『読者』は知らされていませんよね。
そして3巻でティーダと関係があったことが示唆されているので、ティーダ、アルテイ、そしてローウェンの三名は共通して1000年前の人物ということになります。今のところ登場している全ての守護者が、1000年前に収束しているんですよね。

そして《亡霊の一閃(フォン・ア・レイス)》が魔法であると決定させた始祖って誰なんだろと読み直したら、

「今回は聖人ティアラ・フーズヤーズの聖誕祭だね。大陸に伝わる魔法の基礎を構築したと言われる聖人で――」
(2巻、No.3764-3765より引用)

ってあるんですよ。
kindleのワード検索便利過ぎて手放せなくなっちゃう。
あ、検索ワード打ち込んでも何故か半角英数になるのが大半なので、txtに適当に書いてコピペして検索かけています。ちょっと遠回しになるのがストレスになっちゃう。

コホン。つまり魔法の始祖はティアラ・フーズヤーズということになります。
……まさかのラスティアラも1000年前と因果関係があったってことが明らかですよね。
だってラスティアラはティアラという聖人を降誕させるために用意された魔石人間なんですから。

空っぽの肉体だとしても、その肉体はティアラのものでもあるんですから。
心がラスティアラという少女であっても、肉体はティアラ・フーズヤーズでもあるんですから。

そしてさらに、

「ありがとう。楽しかった。最後の魔法は懐かしかったなあ」
(1巻、No.2772-2773より引用)

とティーダが発言しています。
最後の魔法とは、

「――神聖魔法《シオン》」
(1巻、No.2727-2728より引用)

「―― 神聖魔法《キュアフール》、神聖魔法《ストラスフィールド》《ディヴァインアロー》《ディヴァインアロー》《ディヴァイン――」
(1巻、No.2739-2740より引用)

とそれぞれあります。神聖魔法を唱えたのは全てディアです。
まさか…………ね。

調べると神聖魔法はラスティアラも適正率があるので、1000年前、始祖である聖人ティアラも神聖魔法が使えたと思われます。というか『聖なる何らか』が無いのに聖人ってのも、なんだか変な話だなーって思っちゃいますけどね。お話的に考えて。

守護者(死者)も、カナミ君たち(生者)も、全部1000年前に収束しているじゃないですか……。カナミ君の秘密が暴かれていくうちに、1000年前のお話が語られるんでしょうけど、一体どうなるやら……。
やっと6巻でほんわかできるラストになったんですよ? 
この虚飾じゃない幸せの空間が壊れるなんて嫌ですよ……? マジで勘弁してください。

さらに調べていく中で1巻を読み直したんですけど、カナミ君の妹の陽滝が回想でですけど登場していますね。そしてマリアと性格が似ているな、と思いました。
だから性格が似ているマリアが妹だと認識するのはある意味では無理が無かったんだなぁと……。

最初に読んだ時は流し読みしていた部分も、読み直すと「もしかして」って思う場面が多々ありますね……。
ブービートラップが仕掛けられまくった戦場を走っていた気分になりそうです。


話を戻しますが、魔法が使えないローウェンが使える魔法です。
当然、カナミ君はそれにクレームや質問を投げかけます。

魔法のシステムの一端が語られますけど、それだけじゃないんだろうなと。
よくあるファンタジー小説って魔法を使うためのエネルギーを消費して魔法を作り出します。魔力とかマナとか呼ばれますよね。
でもローウェンは魔力を殆ど持っていません。魔力を持たないのにどうして魔法が使えるのか、ローウェン自身もふわふわっとした解答をします。そしてカナミ君がそれを実質否定していますので、魔法のシステムそのものもまだ先があるんでしょうね……。

ローウェンの人生を文字通り代償にして完成した亡霊の一閃。
思えばアルテイの超強力な炎魔法も記憶を代償にしていましたよね。
足りないものは代償で補うのが、この世界のシステムなんでしょうね。
ローウェンもアルテイもその結果、悲劇を得ました。マリアもまた、悲劇を得ました。
……なんだか悲劇を糧にすれば超強力な魔法が使える節がありますね。

とにかく、カナミ君とローウェンの対決は、ローウェンの勝利で1stラウンドは決着がつきました。勝負方法は武器落とし、カナミ君のクレセントペクトラズリの直剣を吹き飛ばしました。

次元魔法使いであるカナミ君は、少しでも認識できればシステムを理解して技を習得できます。けれど認識すらできなければ、カナミ君はシステムを理解できず習得できません。
まさに越えられない一枚の大きな壁として、カナミ君に課題を残す結果になりました。

惜しみない賞賛と拍手の嵐がローウェンに送られます。
個の音が全の壁となり、ローウェンを暖かく、鼓舞するように包み込みます。

けれどローウェンが真に求めていたものはこれではなかったのです。
真の答えは上で書いたとおり。けれどそこに辿り着くためには、まだプロセスを踏まなければいけません。

1stラウンドはローウェンの勝利で決着がつきました。
だから、2ndラウンドが幕を開けます。

剣士、カナミ(愛弟子)と剣士、ローウェン(師匠)としてではなく、
相川渦波(迷宮探索者)とローウェン・アレイス(剣士)として。
カナミ(英雄)とローウェン(剣聖)として。
カナミ(親友)とローウェン(親友)として……。

本来カナミ君の持ち味は、次元魔法と氷魔法をベースにしたフィールドを支配していく搦め手タイプです。剣士の適性はその一部分に過ぎません。そういう意味ではハンディキャップがある前半戦だったのです。

最強 VS 最強

真剣勝負(デスマッチ)が幕を開けます。
互いに賭けるのは命、そして互いが持つ愛剣です。敗者は勝者に『託す』のです。

カナミ君は自分のパラメータを見直します。
腕輪が破壊されたことにより、洗脳関連のパラメータは消え、そして【???】が復活します。

ここで注目すべきは、【???】がふたつあることです。
1巻の時点で【???】は二つ提示されていました。そして暴走すると混乱パラメータが溜まり、混乱が10.00を突破すると『清算され』、負債として全て雪崩れ込んでくる仕組みになっているのは3巻のとおりです。

ではもう片方の【???】とは何なんでしょうか。
……何なんでしょうね。助けることも苦しめることも行う【???】が片方ですから、恐らくメリットとデメリットが同居したスキルなんだと思いますが……。
(いや、暴走するケースが2種類あるっぽいので、【???】はそれぞれ別々に既に作用していたって展開もあり得ますが)

話を戻します。
今までと同じ戦術、魔法では勝てないと認識したカナミ君は新たな魔法を構築します。
異世界に来たカナミ君が異世界と名を冠する魔法を使うのは面白いなぁと思いました。無論、ルビが振ってあるので読みは違いますが。

今まで散々次元と名を冠する魔法が出てきましたけど、異次元と名を冠する魔法はコレが初めてじゃないでしょうかね……何というか、カナミ君がひとつ上に進んだような気がします。ローウェンがカナミ君の成長を促したように、カナミ君も自身の次元魔法をひとつ上の段階へ成長させたというか。

「よかった。この世界にも雪はあるんだね。みんな、『ティアーレイ』『ティアーレイ』 って言うから、この世界にはないのかと思った」
「ああ、昔、雪を見たことがあるんだ……。懐かしい……。本当に懐かしい……」
(6巻、No.2095-2097より引用)

カナミ君とローウェンの決勝戦って、激しい戦いが繰り広げられるんですけど、同時にとても情緒的なんですね。耽美というか、幻想的というか、風情があるというか。
煌めきが舞う冬の世界なんですよね。
自分語りになりますけど、むかし北海道に修学旅行に行ったことがあるんですけど、パウダースノー綺麗だったですよ……。こっちじゃ雪は降っても積もらないですからね……。

寒さは全てを奪います。
限りなく人間に近い状態だったからこそ、ローウェンに決定的なダメージ(状態異常)を与えます。ローウェンの身体から熱量を奪っていきます。凍らせていきます。
ダメージを受ければ受けるほど、ローウェンから『人間』が剥がれ落ちていきます。剥がれ落ちた先に待ち受けているのは、『モンスター』、『守護者』としてのローウェンの本質。観客から人間ではなく、モンスターとしての視線を浴びせられます。

ところで温度と音の関係ってご存知でしょうか。
温度が下がると音がより速く聞こえるという関係性です。
端的に理由を書くと、温度が下がると空気の密度が上がるからです。
夏場を連想してみてください。朝方のほうが湿度が高く、蒸し暑くて昼間のほうが暑さ自体は暑くても、湿度は朝に比べるとマシ……なんてことは無いでしょうか。あれと近い物を連想すれば良いです。

これと同じことが決勝戦の舞台で起こります。
気温が下がったことにより、今まで届かなかった『音』が二人の耳に届きます。
『音』とは『声』。『声』とは『声援』。『声援』とは「ししょー」と慕う子供たちの純粋で無邪気な声援です。地上に出てから歩んできたローウェンの行いが、今に活きてくるのです。
子供たちはローウェンを『最強』でも、『剣聖』でも『守護者』でも『モンスター』でも『カナミの親友』としても『亡霊』としても見ていません。
子供たちが知るローウェンは、『ローウェン・アレイス』ただそのひとつです。子供たちが知るローウェン・アレイスは、剣を教えてくれたローウェン・アレイスしかいないのですから……。

「このささやかな声援一つあれば、それだけで私はよかったんだ……」
(6巻、No.2268-2269より引用)

ローウェンは答えを得ました。
カナミ君が『試練』を乗り越え成長したように、ローウェンもまた、『試練』を乗り越え成長し、答えを得たのです。

なんかね、泣きそうになるんですよ。読んでいた時もそうですけど、今この記事を書いている時もそうですけど。この記事を書くために小説を読み直して余計ですけど。

実際6巻を読み終えるまでに2回泣きましたよ。
闘いに決着がついた時、そして最後の挿絵を見た時。
特に後者は反則ですよ……反則過ぎますよ。
どうして涙が浮かぶんでしょうね。悲しいから? 辛いから? 安堵から? よくわかりません。人間の心なんてロジックだけで語れるほど単純にできていません。自分自身が、自分を一番理解できない生き物なんですよ……持論ですけどね。

未練が果たされたからこそ、成仏しかけ、守護者としての力を喪っていきます。
だからこそ、不純物が限りなく取り除かれる今だからこそ、ローウェン・アレイスは最強の中の最強に着地します。研ぎ澄まされたものがより研ぎ澄まされ、もう二度と訪れない極地に辿り着かせます。満身創痍なのに全身全霊、全てを賭けて全てを賭した最強の剣聖は、欲しかったものを掴み取ります。

「ローウェンを応援しているのは、ここにもいるよ……。だって僕も、ローウェンのファンだからね……」
(6巻、No.2273-2274より引用)

「ありがとう」
(6巻、No.2275-2276より引用) 

全てが集約されていますよね。
彼らにとっての『英雄』は、確かにそこに存在したのです。

答えが出ても決着はつけなければいけません。
でないとそれが新たな『未練』として、ローウェン・アレイスを蝕むでしょう。縛り付けるでしょう。生の喜びではなく、死の喜びを得たローウェン・アレイスにとって、それはどれほど残酷なことでしょう。
だからどんな形であれ、決着はつけなければいけません。決勝戦の終わりは、直ぐそこまで来ているのですから……。

やがて互いが互いに対する最高最強の技のぶつかり合いは決着の時を迎えます。
激しくて、でも静かで、でも熱い至高の戦い。
この感想を読んで、もし小説を読んでいない方は、是非ともweb版をご覧になるか本を手に取るかダウンロード販売で購入して、結末を見て欲しいのです。文字通り一生懸命に生きた二人がいた証を、網膜に焼き付けて欲しいのです。
心が躍り、心が震え、心が熱くなりますよ。えぇ……。

誰にも敗北しなかったローウェン・アレイスの初めての敗北。
それは満足の二文字を彼に与えるただただ尊い感情をローウェンに与えました。



しかし終わりません。
まだ、未練は残っているのですから。

――リーパーです。

リーパーの願いはローウェンを『留めさせる』こと。
リーパーが即死の一撃を行ってしまった以上、緩やかに回っていた歯車は別の動きを始めます。もうひとつの未練が、ローウェンを再認識させるのです。

リーパーの言う「あの人」っていうのはパリンクロンに他ならないんでしょうね。
そしてパリンクロンはリーパーがこの行動を行った結果、何が起こるのかを全て予測し、計算していた。
思えばパリンクロンがどういう思惑でことを起こしていたとしても、運命の歯車が狂わされた人だらけになっています。ifの数だけ悲劇が生まれます。

カナミがもう間違えないように。
マリアがもう間違えないように。
ローウェンもまた、もう間違えないように。

認めたくない未練を認め、もう間違えない。誰のために? 自分のために? 
いいえ、未練――リーパーのために。

死がローウェンを解放するならば、死はリーパーも解放する。
その事実が故に、ローウェンは未練が残るわけです。こうしてパリンクロンに騙されてしまったように、リーパーは純粋無垢で不安が付き纏い、あとを任せる誰かがいなかったのですから。
けれど今は違います。カナミという『親友』がいます。死者から生者への魂のバトンタッチです。
だから、ローウェンは託すことができるのです。自分の全て、そして『親友』であるリーパーを……。

相手を想うが故に相手の想いに応えられない。
相手を願うが故に自分の願いを叶えられない。

相手の願いを叶えることは、自分にとっての一番大切なものを喪うことになるのだから。
凶悪な死神少女とはいえ、リーパーは同時に幼い子供です。
知識を得ても心が成長するわけではありません。
少女には、残酷すぎる二者択一なのです。
だから納得できても納得できないのです。納得できるわけがないじゃないですか……ローウェンがリーパーの唯一の『お友達』だったように、リーパーもまた、ローウェンが唯一の『お友達』だったのですから。
記憶の中で生き続ける、なんてよく言いますけど綺麗事ですよ。悲しい事実は悲しい夢になるんですよ。決して叶えられない幻になるんですよ。なら阻止するしかないじゃないですか……少なくともそれ以外の選択肢を持たない、存在意義を与えられたリーパーにはそれしかできないじゃないですか……。



延長戦に突入します。
恐らくパリンクロンの思惑通りなんでしょう。
三戦目は、ローウェン・アレイスではなく、『三十層の守護者』として、カナミ君に立ちはだかります。

感情が揺れ動きますね。
決勝戦、三回目の闘いは、

アイカワカナミ VS 三十層の守護者

ではありません。

ヴアルフウラの決勝戦に集う、戦う意思がある者全て VS 三十層の守護者

の構図です。
カナミ君が命を賭して戦うように、観客もまた戦います。
逃げることもできるでしょう。怯えることもできるでしょう。

けれど立ち向かう意思がある全ての者が戦います。
戦う力の無い者も、逃げず見守るという命を賭けて戦います。

『決勝戦』を守るために。
カナミ君がローウェンと交わした約束を反故にさせないために。

結界を失っても、ディアが、ラスティリアが、マリアが、スノウが、シッダルク卿が、スプリームのギルドメンバーが、エピックシーカーのギルドメンバーが、そしてその場に集う戦う力を持つ者全てが聖域を守ってくれるのですから。
今までずっと相容れない状態だったのにここにきてシッダルク卿がデレるんですよ。もう感動しちゃいますよ……好敵手と書いてライバルって読みますけど、やっとシッダルク卿が認めてくれるんですよ。
表層ではなく、深層で。やっと手を取り合ってくれるんですよ。
そりゃ読んでて嬉しい気分になっちゃいますよね。感極まりそうになっちゃいますよね。
ここまで長い……ひたすら長かったです。
カナミ君の物語であるように、シッダルク卿にも物語があります。
長かった……ここまで実に、長かったです……。

正直ウチはシッダルク卿のことを嫌いじゃないんですけどそんなに好きでもなかったんですね。でも、印象が変わりましたよ。変わらざるを得ないじゃないですか……。

「観客の皆様……心配はいりません。たとえ、どのような戦いの余波が観客席を襲おう とも、我らがギルド『スプリーム』が責任を持って皆様をお守りしましょう。かすり傷 一つ負わさないと、僕がここに誓います。ゆえに、決勝戦はまだ終わりません。この僕が終わらせません。絶対に」
(6巻、No.2621-2624より引用)

功績を焦って無茶をするシッダルク卿でも、カナミ君を認めないシッダルク卿でも、カナミ君に敗北したシッダルク卿でもなく、スプリームのギルドマスター、エルミナード・シッダルクが宣言しました。シッダルク卿もまた、この4巻から6巻の時間の中で確実に成長し、先へ進めたのです。

――決勝戦は、終わらない。

この闘いが終わったら、カナミ君も、マリアも、そしてスノウもいなくなるのに、エピックシーカーの人たちも呼応します。彼らから見たカナミ君は、相川渦波ではなく、エピックシーカーのギルドマスターのカナミ君他なりません。
だから当然応援します。助力します。カナミ君が戦うように、エピックシーカーの戦いも幕をあげました。

そもそも『エピックシーカー』は漢字で書くと、『英雄譚を求める者』(4巻参照)と書きます。まさに彼らが求めていた英雄が、今、目の前で闘っているんですね……。

英雄はなろうとしてなるものじゃないんです。
歩いてきた結果が、英雄という結果をもたらすんです。
だから英雄を目指す者は英雄にはなれません。
英雄を目指さなかった者が英雄になれるんです。
相川渦波という英雄像を否定した者だからこそ、英雄になれたんですね。

敵として立ちはだかった天上の七騎士までもがこの時は味方として助けてくれます。
みんなの想いはひとつです。この決勝戦を最後まで最期まで終わらせてあげること。

――決勝戦は、終わらない。

『地の理を盗むもの』になったローウェンは地属性魔法で宝石を武器に遠距離近距離オールレンジで攻撃してきます。
『最強の剣聖』ではなくなったが故に弱くなり、『地の理を盗むもの』になったが故に強くなりました。いかなる攻撃もダメージを与えられません。
超強いはぐれメタルを相手にしているって考えるとどれほど絶望的かわかりますよね。毒の針のような急所を狙える手段をカナミ君は当然持っていません。

――決勝戦は、終わらない。第三十の試練は終わらない。

でも違いますよね。
今まではそうでした。今までは持っていませんでした。
でも今は違います。違うんです。
ローウェンという師匠が教えてくれた、魔法があるんです。
でも使い方がわかりません。仕組みがわかりません。システムを理解できません。
でもやるしかないんです。やらないと負けて死ぬだけではありません。ローウェン・アレイスの誇りを穢してしまいます。

どれだけ高位魔法を唱えても、どれだけ頑張っても、届かない、傷を負わせられない。
だから自ずと《亡霊の一閃(フォン・ア・レイス)》を『再現』する流れになります。
でも構築できません。カナミ君が認識できる外だったのですから。

カナミ君は強いです。でも無敵じゃないです。
MPとHPという限界値があります。どれほど強くても、どれほどタフでも、闘い続ければ終わりが必ず訪れます。

さて、決勝戦は果たして誰と誰の戦いだったでしょうか? 闘いではなく戦いです。
カナミ君とローウェンだけではありません。決勝戦で戦う者は、他にもいます。

ローウェンを地の理を盗むものにした張本人。
ローウェンの未練であり、ローウェンとカナミの『親友』。

そう――リーパーです。
ようやく覚悟を決めたのです。
ローウェンを留めさせるのではなく、送るために。安らかな終わりを与えるために。

どれほどその決断が辛かったのかは言うまでもありません。ぐしゃぐしゃになった顔がそれを物語っています。
……しかしまぁーあれですね。
この物語はドSですね。どこまで登場人物を苦しめれば気が済むんでしょうか。どこまで読者を楽しませれば気が済むんでしょうか。
心が感じて動くと書いて感動と読みます。揺れ動きますよ……振り子のように。喜びも悲しみも、怒りも楽しみも綯い交ぜになりますから。徹夜で読破しちゃいましたからね……5巻以上に6巻は読むのが止まりませんでしたね……。

今までリーパーはカナミ君から魔力をもらっていました。
そしてリーパーはラウラヴィアにいる人、ヴアルフウラに集う全ての人から魔力を貰える状態になっていました。強奪といったほうが近いでしょう。
けれど今は違います。3巻でカナミ君が【???】の清算で負債が返ってきたように、リーパーがカナミ君に魔力を送ってくれます。冷たい死神の魔力でなく、熱い『親友』グリム・リム・リーパーとしての魔力が。

リーパーは託します。カナミ君に地の理を盗むものになったローウェンの願いを果たすことを。決勝戦を終わらせることを。そしてローウェンを『送る』ことを。

リーパーは戦います。
ローウェンを送るために。
もう、後は大丈夫だよと、後は任せてと証明するために。彼の未練を果たすために。

カナミ君の知るローウェン。
リーパーの知るローウェン。

二人の知るローウェン。
ローウェンを理解し、ローウェンの最後の奥義を習得するには、ローウェンを識らなくてはいけません。認識できなかった奥義を理解するには、ローウェンというシステムを解読しなければいけません。

死ぬために願われた人生。
世界に拒まれた人生。
死んでも強制された人生。

剣に生き、剣に死ぬ。剣だけが、彼を形作る人生だった。

でも今は違います。

カナミ君が、リーパーが。
そしてグレン・ウォーカーが、フェンリル・アレイスが、ローウェンを慕った子供たちがいます。もう……大丈夫なのです。ローウェン・アレイスという人物が生きた証は、死んでから初めて受け継がれるのです。魂のバトンタッチは、確かに行われたのです。

カナミ君は知ります。ローウェン・アレイスがいかに不幸な人生なのかをリーパーから。
リーパーは知ります。ローウェン・アレイスがいかに幸福な死後なのかをカナミ君から。

二人のローウェンは混ざり、溶け、そして到達します。
ローウェン・アレイスという一人の青年のシステムの全てに。

ローウェン・アレイスという剣(人生)は、二人の『親友』に受け継がれる。

『私は世界を置いていく』『拒んだのは世界が先だ』『だから私は剣と生きていく』
《亡霊の一閃(フォン・ア・レイス)》

世界に拒まれ、剣と共に剣と化すしか無かったローウェン・アレイス。

『私は世界を置いていく』『世界が拒んだ剣は』『私たちが受け継ぐ』
《親愛なる一閃(デイ・ア・レイス)》

剣とは即ち、ローウェン・アレイスの人生そのものなんでしょうね。
ローウェンに対する最後の答え。最後の言葉(魔法)。最後の安心。最後の希望。
ローウェン・アレイスを、受け継ぐ魔法。

『水晶という名の地の理を盗むもの』を破り、『親友、ローウェン・アレイス』へ。
長い長い闘いに、ようやく決着がつきます。
全ての未練は今果たされました。全ての想いは無事に届けました。

「……安心した」
(6巻、No.2988より引用)

ローウェン・アレイスに光が届きました。
もう、大丈夫なのです。
もう、リーパーは歩いていけるのです。
もう、カナミ君は立ち止まりません。
ローウェン・アレイスが『生きた』証は、十二分に遺されたのですから。

全てのしがらみからローウェンは解き放たれました。
それは即ち、最期が目の前に迫っていること。
そして、リーパーが呪いから解き放たれたこと。
触れたくても触れられなかった親友に触れることができたのが、最期の最期だけだなんて悲しすぎますよ……。

悲しみの別離ではなく、笑顔のさよならを。

ローウェン・アレイスは、ようやく報われました……。

ローウェン・アレイスという人生は、アレイス家の宝剣として形でも遺りました。
名前が変わり、『アレイス家の宝剣ローウェン』として……。
ローウェンからカナミ君へ、死者から生者へ最後のバトンタッチは果たされたのです。



正直書くとですね、ここで終わったほうが個人的に気持ちの良い読後感なんですよ。
でも違いますよね。明らかに三巻と対比になるように作られているんですから、当然このあとも続くんです。

何が? 逃亡がですよ。
三巻はそもそもラスティアラを助けるために国を敵に回して逃亡するお話です。
アルテイやマリアが立ちはだかり、最後パリンクロンに阻まれてそれは失敗に終わりました。

でも今回は違います。以前とは違います。
ライナー君やフェーデルト、スノウの義母が、決勝戦が終わったからこそ動き出す思惑で話は続きます。味方として強力してくれた天上の七騎士が敵として立ちはだかります。ラスティアラは賞金首にもなっていますから、ラスティアラを捕縛するために集まった冒険者もいます。

ライナー君が命ではなく、ローウェンの剣だけを狙ってきたのはちょっと意外でしたね。
そしてライナー君、憎悪に包まれても律儀なんですよね。答えなくていいことにわざわざご丁寧に答えてくれていますから。

そしてフランリューレ。
なんだか決勝戦のあとのヒロインインタビューは彼女の気がします。
2巻と比較にならないくらい成長しましたね……癒しの塊ですよ。

ラグネはラグネで何か秘密がありそうですし。
蛇足ですが、2巻を読んだ時点だとラグネの印象は、魔法少女育成計画のラピス・ラズリーヌと似ているなぁ、でした。気になった人は検索してみてくださいね。

そしてなんといってもシッダルク卿ですよ。
間違いなく、決勝戦のあとで一番輝いていたのが彼です。
あれだけ4巻5巻で印象落としておいて、6巻で一気に爆上げですよ。いや、決して悪い人じゃないのは最初から伝わってくるんですけど……どうしても……ね。

グレン・ウォーカー。
フェンリル・アレイス。

彼らもまた、カナミ君たちを助けてくれます。
グレンはウォーカー家という立場にあるのにも関わらず、義母(貴族)に反旗を翻して助けてくれます。なんと頼もしいことか。切ない気持ちがどんどん塗り替えらました。
気弱な優男に見えて、やはりローウェンの分析は正しかったのです。あれだけ囲まれても「そのくらい」という扱いですからね。

ローウェン・アレイスの意思は、二人にも確かに継がれました。
フェンリルのお爺さんカッコ良すぎですよ……。ローウェン・アレイスの末裔であることを誇りにしてくれているんですから。生前は世界に拒まれたローウェンが、死後になって初めて世界に諾されるっていう……。

3巻と大きく違います。
3巻の逃亡激と違って、6巻は助けてくれる協力者が沢山います。
3巻の時に認めてくれなかった人たちが、6巻では認めて助けてくれます。
今までのエピックシーカーのギルドマスター、相川渦波も、今までの迷宮探索者、ジークフリード・ヴィジターも、決して無駄では無かったのです。喪いつつも多数のものを得ていたのです。それはお金では決して得ることができない、強さの証というものを。



エピックシーカーのサブギルドマスター、レイルが最後の答え合わせをしてくれました。
全ての謎が明らかになったわけではありません。でもこれから先の道標を彼は提示してくれました。パリンクロンの真意はわかりません。けれどレイルはカナミ君とマリアの身を案じていました。それは3巻を読めば明らかですし、4巻でも何度も身を案じる展開が行われています。彼は敵であり、同時に味方だったのです。

レイル、そしてハインさん。二人はパリンクロンの友達です。
そして忘れてはいけないのは、ハインさんの死をパリンクロンは利用はしても侮蔑も貶してもいません。パリンクロンの内面も決して一枚岩ではない複雑なことになっているのは明らかです。だからこれから決着に向けて、パリンクロンの真意が徐々に明らかになるでしょう。

その先に何が待ち受けているのか、どんな真実が待ち受けているのか、どんな真相が待ち受けているのか、正直読み進めるのが怖いんですよね。だって6巻を読み終えるとハッピーエンドなんですから。3巻と真逆の、ハッピーエンドなのですから……。
ここで本を閉じれば希望に満ち溢れた終幕で終われるんですよ。そういう意味では4巻のような、偽物の幸福感を与えている……そんな気すらします。



今までの全てに別れを告げ、今からの明日(旅)が始まります。
航海という形で、カナミ君たちの新たな冒険が幕をあげます。

カナミ君、ディア、ラスティアラ、マリア、スノウ、セラ、そしてリーパー。
気付けば男ひとり女6人の大所帯ですね。問題はセラも含めて全員爆弾持ちであること。
3巻のカナミ君ハウスのように、7巻を読み始めた瞬間、どこかの無人島でカナミ君が目覚めるところから始まる――なんてことが無いことをひたすら祈るばかりです。



3巻の絶望の終幕。
6巻の希望の終幕。

これだけでは終わりません。
もう少しだけ続きました。
kindleって一番下に青いゲージが出るので、あとどれくらいページが残っているのかぶっちゃけわかっちゃうんですよね。だからローウェンとの戦いに決着がついて、まだ随分とページ数が残っているので「へ?」ってなっちゃいましたですよ。

……さて。
残りはローウェンの物語の終幕です。
ローウェンが幻視した、幸せな光景。

やがてローウェンはベッドに潜り、最後の眠りにつきます。

泣いちゃいますよ……この最後の挿絵は……。

第三部は最初から最後まで、綺麗に描かれた物語です。

暖かく、安らかな目覚めの4巻のプロローグ。
暖かく、安らかな眠りについた6巻のエピローグ。

完璧ですよ……完璧すぎるラストですよ……。


ってことで異世界迷宮の最深部を目指そう、6巻の感想でした。

おバカちゃんですねウチ。
計測すればわかりますけど、この感想記事、10000文字どころじゃない超ロング記事になっています
今まで色んな感想をここでも他所でも書きましたけど、これほど超長文になったのは今回が初めてです。長ければいいってもんじゃないんですけどね……どうしてこうなった

異世界迷宮の最深部を目指そうは一種のエンターテイメント、ジャンルと化していると思います。感想記事や感想やツッコミの呟きをすると即座にRTやFAVが返ってきます。正直怖さすら覚えます。
でも、それだけ作品が愛されているってことですよね。
それだけ素敵なファンに恵まれているってことですよね。

かくいうウチも現在進行形でweb発表目指して小説書いていますが、熱心なファンが生まれると良いなぁと、おぼろげに思うばかりです。

さて、異世界迷宮の最深部を目指そうの7巻ですが、すでに購入済みですがさすがに今度は空白期間を設けます。いい加減他のラノベの感想や読み途中のものを進めていきたいですからね。7巻の感想はのんびりお待ちください。……フラグじゃなくて今度は本当です
























追記:余韻を悪い意味で吹き飛ばすので最後に書きますが、親愛なる一閃を放った直後に挿絵があるんですけど、リーパーポーズがえっちぃすぎでしょと思いました(ごめんなさい