モンスター娘のヒロインとキャッキャウフフする思考放棄型ラブコメ小説を期待すると盛大に大火傷します。1巻の感想でも似たようなことを書きましたけど、2巻はもっと顕著です。

面白い小説なんですけど、面白さの種類が違います。
人物描写に物凄く重点が置かれた丁寧な小説なのです。

PV動画、あれじゃ絶対に勘違いするでしょ(滝汗

表紙絵




モンスターのご主人様 : 2 (モンスター文庫)
著:日暮眠都先生
イラスト:ナポ先生
今回はモンスターのご主人様の2巻の感想記事です。
ネタバレだらけですので要注意です。

まず軽く1巻のおさらい。
高校の人間が丸ごと異世界転移(転生ではないです。転移で確定)しました。
飛ばされた先はモンスターが跋扈する森の中。
チートスキルに目覚める者、目覚めない者に分かれ、主人公である真島孝弘君は後者に。
やがて精神が摩耗し、疲弊し、人間が人間を襲うエグい展開に。
孝弘君はボコボコにされ、強い力を持つ者が力に溺れるとどうなるかの結果を見てしまった結果、人間不信に陥ります。トラウマと化してしまいます。
コロニー崩壊に巻き込まれた孝弘君はモンスターテイムに目覚め、ミミックスライムのリリィ、マジカルパペットのローズを仲間にします。
リリィは水島美穂の死体を捕食し、水島美穂の記憶とスキルと身体情報を獲得して擬態します。
なんやかんやあって加藤真菜を救出し、森から脱出するべく森の中をさ迷います。
その途中、クラスメイトである加賀君と再会しますが加賀君ご乱心。最初から孝弘君を襲う気満々なのでした。
加賀君を返り討ちにし、加賀君から得た情報、加藤さんが持っていた情報を汲み合わせ、どこを目指すのか進路を決め、改めて森を脱出しようと歩を進めます。

ところが白いアラクネの少女に襲われ、孝弘君が攫われます。
孝弘君を攫ったのはモンスターテイムと眷属モンスターの関係。そしてアラクネの少女は孝弘君を独占すべく、その他の全てを排斥します。
加藤さんはリリィとローズを説き伏せ、そして三人で協力して孝弘君をアラクネの少女から奪い返すのに成功します。アラクネの少女はリリィとローズに感化され、自分がどういう過ちを犯していたのか思い知り、崩れ落ちるのでした。


細かいところは端折っていますが、ざっとこんなところだと思います。
2巻の感想を書いていく前に1巻では得られなかった情報が出てきたので修正します。

まずコロニーの小屋。
実は建てたのは異世界転移組ではないことが明らかになりました。マジかよ。
じゃあ誰が建てたのかというと、3巻の冒頭で明らかになりますが異世界に住む人間の手によって、です。ちゃんと異世界にも人間がいました。万々歳です。
ちなみにモンスターが小屋に寄ってこない結界の役割を果たすギミックを仕掛けたのも異世界の人間だと明らかになります。
どうして異世界の人々が森の中に小屋を建てていたなどの理由は3巻で明らかに。
それらについては次回感想記事にて書いていきますね。

そして異世界に転移した孝弘君が通っていた高校の人間の人数。
大雑把な上にこれまた3巻の冒頭で明らかになるのですが、1000人以上で確定です
……高校ひとつでしょ? そんなに人数多いのが普通なんです……?

(ウチの通っていた高校だと1学年6クラス×3学年。1クラス約40人だから40×6×3=約720人くらい(留年、退学を考慮しないで)。教員も含めるとプラス40人くらいで760人ってところでしょうかね。よっておおよそあと1学年3クラスくらいあればクリアできますね。ってことで軽く調べたら大きい高校だと1学年10クラス以上のケースもあるようで。なるほどー……という気持ちに)

参考までに2012年度らしいですがグラフにしてくださっているサイトがあったので紹介。


諸々脱線しましたけどこれらの前提の上で感想を書いていきます。

まず、『後始末』。
白いアラクネの少女が三人目の眷属として仲間になります。
孝弘君の花の名前を名付けるアイデアはどうやら見切り発車だったようで、速攻で花の名前ネタが枯渇。マリーゴールド、パンジー、サクラ、ヒマワリ、デイジー、すみれ、ダリアなど色々あるでしょ? とウチは盛大に脳内ツッコミしました。
でもこれはある程度サブカルに強いから直ぐに思いつくことであり、オタク気質でない孝弘君には酷な話です。
さらに極限状況ですし、生存に情報が回っていれば、余力のあるリソースを全てそこに回すでしょうから回らなかったんでしょうね。文字通り頭が。

危うくチューリップと名付けられるところを加藤さんのアイデアにより、白いアラクネの少女はガーベラと命名されます。ちなみにどうしてガーベラと名付けられたのかについては、

 ――ガーベラなんてどうですか。
 ――スパイダー咲きって呼ばれる咲き方をするものもあるんですよ。
 ――やった。これで決まりですね。
(2巻、No.242-243より引用)

とあります。
スパイダー咲きで調べようとすると予測検索リストに追加でガーベラの項目が出現しましたので、かなり有名なんでしょうね。
ちなみにガーベラの花言葉は、希望・常に前進とのこと。
森を踏破する実力を持ったハイモンスターであり、2巻で孝弘君たちに道を指し示すことができたガーベラにぴったりダブルミーニングではないでしょうか。
リリィであるユリの花言葉は純真・無垢ですし、ローズである薔薇の花言葉は愛・美
(ユリも薔薇もガーベラも色別で変わりますが全般的な花言葉が上のとおりです)
奇しくも他の眷属も名前と花言葉が近しいものが選ばれたようです。

孝弘君も加藤さんも、『水島美穂の記憶』もそうですけど、みんな博識なんですねこの小説。難しい言い回しも出てきます。けれど『知識はあっても使われていない』んですね。
例えるなら紙に書かれた情報を読んでいる感が強い……でしょうかね。良い意味でリアルだなと思いました。
頭が良いけど決して良すぎるわけではない。
しかしオバカちゃんというわけでもないのです。
そんな都合の良い展開にはならないだろうというギリギリ感を攻めているというか。
考え、悩み、思いを馳せらせ、論理的思考と感情的思考。割り切れる部分、割り切れない部分。機械的、人間的。決して心は一枚岩ではありません。

ガーベラは自らの行為を振り返り、悔やみ、悩みます。
ガーベラは強いです。孝弘君のパーティの中では群を抜いて。
しかし心はまだまだ未熟です。古風な言葉遣いであっても、長く生きてきても、ガーベラに生まれた心はまだ子供です。経験が、無いのです。あと加藤さんを怖がっています。

だからガーベラはリリィやローズたちと距離をどう取ればいいか悩みます。
これはリリィやローズも同じ。ロジックで全ての理由を説明することはできません。感情が論理を越えることは多々あります。
ガーベラが孝弘君を襲った事実は覆りません。事実は、消えないのです。

ただしガーベラがしていたと思われた『罪』も同時に消えました。
具体的には1巻で出てきた生徒のバラバラ死体。てっきりガーベラの仕業だと思っていたんですけどね……うーん。ってことはチートスキル持った生徒が襲った……のかしら。
正気を失って同士討ちをする生徒が多発していましたし、無いとは言い切れないですね。


2巻で一番活躍したのはガーベラですが、一番変化があったのはローズでしょうね。
ご主人様である孝弘君に対して主従関係で眷属である三人の心が描かれていきますが、横の繋がり、そして加藤さんとの繋がりもあるわけです。
ローズが徐々に加藤さんと関係性を構築していくのは読んでいて暖かい気持ちになりました。ローズはリリィと比べ遊びが無く、どちらかといえば機械的と言えます。しかしローズにも心があるのです。少しずつ、少しずつ変化していき、自分の心がどうあるのか、どうあるべきなのかを悩み、考えていく。

加藤さんがローズのことを「友達」と呼んだこと。
ローズが加藤さんのことを「友達」と呼んだこと。

これが2巻における最大の出来事だと思います。
無論、2巻のラストでやっと異世界人に会えたのは大きいイベントなのですが、個人的にそれ以上に大きい出来事だと思います。



2巻は1巻と比較すると大きい戦闘場面が少なく、縮小気味です。
中盤にある風船狐との集団戦闘が一番大きいピンチです。
ピンチの度合いが多きけれど、結局ガーベラが強いことが誇示されてしまい、結果としてあまり心に熱いものは抱けませんでした。
個の強さを集団の強さが勝る良い展開なんですけどね……普段の関係構築の丁寧な描写に比べると淡泊だったというか。

2巻はいわゆる『繋ぎ回』です。
発生した大きい出来事をピックすると、

・ガーベラと眷属の2人が和解した
・魔力のシステムについて学んだ
・風船狐の集団に襲われた
・4『匹目』と5『匹目』の眷属が仲間になった
・孝弘君が自らの行動を顧みた
・加藤さんとローズが友達になった
・ローズが秘めたる想いを胸に抱き、裏工作を始めた(ぶっちゃけ3巻の表紙絵が答えですよね)
・グールに襲われた
・異世界人と邂逅を果たせた

これくらいしかありません。
細かい戦闘や他の描写はあれど、ページの大半は人物描写に多く割かれています。
過剰なほど丁寧である反面、イベント性にはどうしても乏しく、物足りない巻だったと書かざるを得ません。
それが悪いのかというと決してそうではないんですけど、もっとこう熱い展開を期待して読んでいます。ですので小説が持つポテンシャルとウチが求めるポテンシャルが一致していないことが不協和音とは言いませんけど、読んでいて不思議な気持ちになる理由だと思います。面白いんですけど思っていたのと違う方向で面白いってやつですね。

ほんわかしたのは新たに仲間になった眷属。
上で『人』ではなく、『匹』と書きましたが、リリィら3人と比べると大きく人間離れした容姿をしています。

アサリナは鉄砲蔓のモンスター。
孝弘君の腕に寄生し、彼の魔力を養分に命を維持します。口だけ生えた植物。
蔓を幽白のローズウィップよろしくでシュシューと伸ばします。
「ゴ、シュ、サマ!」と超カタコト。可愛い。ぶっちゃけあやめより好きです

あやめは風船狐の子供のモンスター。
手乗りサイズの可愛い狐です。もふもふなのです。ガーベラの頭の上がお気に入り。
狐耳が生えた女の子じゃなくて文字通り狐ですね。ケモナー属性の人が喜びそう。
「コン、コーン」と鳴き声も狐と同じ。人語を話せるわけではありませんが意思疎通は測れます。
あと火球を飛ばせますが子供なので戦力として期待できません。癒し枠

アサリナの花言葉は飾らぬ美、信じる心
あやめ(菖蒲)の花言葉は希望、メッセージ、情熱
ちなみにアヤメを英語にするとアイリス(Iris)です。どこかでアイリスなら見かける機会はあるんじゃないかなと思います。

人間である孝弘君と加藤さん。
眷属だけど人型に近しいリリィ、ローズ、ガーベラ。
眷属で人型からかけ離れたアサリナ、あやめ。
人間模様が複雑になっていきます。といっても激しい衝突があるわけではありません。
過去を振り返り、現在を見据え、未来を思い描く。

何度も何度もぶり返ります。
これは主人公である孝弘君も同じです。
孝弘君もまた、考え、そして成長していきます。

トラウマが治るわけではありません。
人間不信が治るわけではありません。
けれど着実に物語という名の経験が積まれていくのです。何も起こらないわけがないのです。

加藤さんとの関係がそう。
加藤さんに助けて貰ったのに、加藤さんを信じられない。信じきれない。
理解できても理解できない。身体が許しても心というシャッターを開けるのは、難しいのです。散々今まで同胞から酷い目に合い、裏切られ、裏切る現場を見てきたのですから。
だからちょっとずつちょっとずつ加藤さんとの距離も縮まります。
孝弘君が魔法の修行を行う時もそう。加藤さんが修行を行おうとする時もそう。
眷属という第三者を介して、孝弘君と加藤さんの仲も縮まります。
加藤さんは1巻以上に気持ちが全面だしされたセリフが多くなります。特にローズとの関連会話は2巻の大きい見所といえるでしょう。


「なのに、頼ってくれないんだよね」
「……」
「ご 主人様は、わたしたちのことを『頼りになる相手だ』と思っているのに、『頼りに してくれない』んだ。……違う、かな?」
 今度こそ、おれは否定の言葉を見付けられなかった。
(2巻、No.3063-3066より引用)

中盤で特に好きなシーンです。
孝弘君は人間不信で良い意味でも悪い意味でも遊びが無いです。
その上で『良識的』であるが故に責任感が強いんですね。そうなるとどうなるかって必要以上に全てを背負おうとしてしまう。リリィの指摘はごもっともなんですね。
こういうハーレム要素があると『男の子』であることを全面だしするいわゆるお色気的な展開がお約束だと思うんですけど、孝弘君責任感が強すぎて融通が効かないというか、好意を抱かれて超真面目に応えるんですよね。1巻も2巻もそうですけど。
だから自分がどういう人間かよくわかっているという。けれど眷属の女の子から求められているのはそうじゃない、そうじゃないんだと指摘されなければわからないんですね。
ただ孝弘君は耳を傾けることはできますし、そういう意味での臨機応変も効きますから、今後もっと眷属の女の子と距離を縮めて欲しいのです。



終盤はいよいよ緊迫した展開になっていきます。
といっても孝弘君のパーティは攻守が強く整っていますので、グール(ゾンビ)に苦戦することなく勝利することができます。不完全燃焼というかなんというか……。
グールは異世界人。全身鎧で兵士であると予想されます。
つまり国か国に近い単位で文明構築が行われている証左になります。
異世界人に武器防具の概念があるのが判明した以上、衝突する展開も予想できます。
そして理由は定かではないですが、グール、つまり死者がモンスターと化すケースもあることが判明。孝弘君たちのコロニーでもグールが発生したケースがあったようで、いくら力が強くても人間の形をしたものに、自分たちの元仲間に刃を向けるのは、良心があればあるほど枷になり、惨事を引き起こしたようです。
ゲームではなく、現実が描かれている以上、ゾンビ映画よろしくで機転が利くなんてことは学生である彼ら彼女らには難しいのです。

そしていよいよ異世界人との遭遇。
コロニーから脱出した者たちか、それとも探索班かわかりませんが学生もその中に含まれていました。騎士たちのリーダーとの少女と邂逅し、2巻は終わりを迎えます。

ここで大事なのは孝弘君(アサリナ)、リリィ(あやめ)とガーベラ、ローズ、加藤さんの二手に分かれていること。どうやら3巻はそれぞれ別行動をとっていくようですし、異世界の『システム』の説明も行われるでしょうし、ようやくプロローグ終了……といったところでしょうかね。予想よりも遥かにのんびりとした展開ですので、激しい展開を望むウチとしてはもうちょい展開に加速を求めたくなります。
けれどその分だけじっくりと人物描写が描かれていますので、共感するかは別にして、登場人物を容易に読み取れるようになっていくと思います。コミカライズされると心情描写を描くことが難しいでしょうし、コミカライズ版だけを見て中身が薄い物語だって思われるのは読んでいる人のひとりとして残念な気持ちになっちゃいます。



ということでモンスターのご主人様、2巻の感想でした。

3巻もそうですけど、カラー挿絵で盛大にネタバレするの良くないと思うんですよ……。
初見の楽しみを奪われたみたいになってしょんぼりしちゃいます。
なんというか物語は面白いのに、宣伝やガワの部分で大損していると段々と思うようになってきました。PVが特にそうですね。もうちょっとこう……物語に寄り添う紹介はできなかったのでしょうか(汗

以下、上では書かなかった雑記に近い感想みたいなもの。

そういえば孝弘君は生徒の死体をリリィに捕食させません。
水島美穂の記憶を受け継いでいて、捕食した生徒の思念・悪意を読み取るのを恐れているからさせていないんですが、なら誰が水島美穂を襲ったのか、って記憶はあると思うんですね。これから他の生徒とあれこれ合流する展開になるでしょうし、その手の生き残りの生徒が出てくる展開もあり得るんじゃないかなーとか思っています。盛り上がるのかって問われると微妙なんですけど、記憶を活かす展開があるならあるんじゃないかなーと。

あと嬉しさなどを言葉以外で表現する動作が出てくるとニッコリします。
具体的にはガーベラが蜘蛛足を動かすところとか。こういう表現大好きなのです。
(雑記に近い感想おわり)