電子の海文字の海

購入したラノベの感想を書いていきます。
主観全開、ゆるふわ感想記事になります。
主にamazon kindleさんで購入した電子書籍が対象ですが、
買えなかった場合は物理書籍の感想も書いていきます。

カテゴリ: モンスターのご主人様

年が明けました。
長いこと放置してすみませんでした(滝汗)。
今年ものんびり読んだラノベの感想をアップしていきます。

2019年ひとつ目の記事はモンスターのご主人様の4巻になります。



モンスターのご主人様4巻表紙絵




今回はモンスターのご主人様の4巻の感想記事です。
ネタバレだらけですので要注意です。


まず4巻の時系列がちょっとだけややこしいので2、3巻を軽く振り返ります。
2巻の終盤でエルフの騎士、シランと孝弘君たちは出会うんですが、この時孝弘君のパーティは二分します。

・孝弘君パーティ
孝弘君(アサリナ寄生)、リリィ(水島美穂の見た目、胸元にあやめ)

・加藤さんパーティ
加藤さん、ローズ、ガーベラ

孝弘君たちはシランたち騎士団に連れられ、何人かの転移者と共にチリア砦へ。
救出されたのは坂上君や工藤君、三好君たちも含まれています。

チリア砦で親友の幹彦君と再会。幹彦君は隊長にゾッコン状態。
他にはチート持ちの十文字君や渡辺君、飯野さんがいました。
飯野さんは帝国騎士団の一部を引き連れて樹海に向かっていきました。

3巻の終盤でモンスターの集団がおりゃおりゃーと砦目掛けて突っ込みました。
少女の顔になったローズの顔と腕が確か破損して、加藤さんたち3人は砦が炎上しているのを目撃するのでした。

色々省いていますがおおよそこんな感じでしょうかね。
4巻は3巻の途中の時系列から始まります。即ち、チリア砦が襲われる少し前から、ですね。まだ平穏な時です。



それでは4巻の感想に参ります。

まず孝弘君はモンスターを使役できるチート能力を他の人、エルフに明かしていませんでした。モンスターから守るためにあれこれ頑張っているのに、モンスターを従えられたらそりゃ敵扱いされてもおかしくないのです。
事実、砦が襲われた時に騎士団の人たちから黒幕だと疑われました。
無実の潔白をいっても証明する材料が無ければ冤罪は真実に書き換えられます。

孝弘君は人を信じていませんが、人を信じています。
そして元来優しい主人公君なのです。3巻で培った繋がりが彼を救ってくれました。

ただ、ですね……いくつか展開予想しながら読んでいたんですよ。
モンスターを操る黒幕は味方の誰かなんだろうなぁと。即ち、誰かが裏切るだろうなぁーと……。

それがカッコイイ挿絵の次のページでいきなし訪れるとは思わなかったですよ
敵が退場するだろうなーって展開は予想していましたが、味方が、それもチート持ちから退場していくとは夢にも思わなかったです。
攻撃の瞬間を狙って裏切ったのはちゃんと理由があって納得しました。
やはりこの小説の作者様は人物の論理的思考のプロセスの書き方が巧いです。
そのプロセスに同意できるかどうかは別にして、筋が通っていて納得しちゃうんですね。これは敵も味方も理詰めされているというか、詰将棋みたいな感じですね。

そしてもうひとつ。
4巻の挿絵はシランが飾っているのですが、まさかシランが死ぬとは思いませんでした。死亡フラグと生存フラグが同時に成り立っていましたけど、相手が悪すぎたのはまだ良いとして、表紙絵飾ってるんだから死ぬとは思いませんよ……。

でも、そこで終わらないのがこの小説の凄いところですね。
死んでも蘇生手段が無いのが明らかになっていますが、あそこからアンデッド化してアンデッド=モンスターだからパスを繋げて心を取り戻してアンデッドモンスターとして新たな眷属になるなんて予想できませんでした。
よくよく考えると2巻の時点でアンデッドになった騎士団と鉢合わせしますが、4巻ってあれだけ大量に死者が出たのにアンデッドになったのはシランただ一人だけっぽいんですよね。ってことはアンデッドになる条件は明らかになっていない非公開情報が隠されているのかなーなんて思ってしまいます。



十文字君が裏切るってのも予想していなかったです。3巻の時点では
でも4巻で挿絵で彼の顔が出てきた時、なんとなく裏切りそうな風貌だなぁって思ってしまいました(ごめんなさい)。
ただ裏切るにしてもどうして裏切って砦襲撃を起こさせたのかってのは推理しきれませんでした。
可能不可能は置いといて、よくよく考えると割と納得する動機で良かったです。
……いや、倫理的に考えると全然良くないんですけど、十文字君は現実を見据えていたんだなって思っちゃいますね。

根底に異世界に順応できるのかってのがこの小説の底のひとつにあると思うんですけど、異世界ライフを楽しむ余裕なんて4巻までの段階だと無いんですよね。平和であっても一時的なものですし、今まで出てきた施設は小屋や砦で人里とは無縁の状態が続いていますし。
なら極限状態に常に置かれているのですから、精神的に参ってしまっても仕方が無いと思うのです。思うんですけど平気で他人の命を奪ってしまうと一線を越えて戻れなくなっちゃうって思っちゃいますね……。

他人を殺してスイッチ入った十文字君ですけど、三好君との会話では良心と良心の呵責を感じましたし……でも、それはそれ、これはこれで割り切ってますよね。わが身が可愛いのはある種自然なことですし、元の世界に戻るために手段なんて選んでられないってのはよくわかります。同意できませんけど。



4巻はチリア砦を奪還していく流れになるだろうことは分かり易かったですが、展開が二転三転して中々先が読み難く、バトルシーンが多くて見応え抜群です。

……表紙絵の一部をガーベラが担っていますが、正直登場場面はそれなりにあったんですけど思ったほど印象に残らなかったです
猪口才なーとかしゃらくさいなど古風なセリフは印象に残っているんですが、他が濃すぎて主張負けしたイメージが(汗


真の黒幕は何となく読めたんですよ。
読めたんですけど中盤明らかに死んだでしょこれはって展開があって、あそこからどうやって生還したんだーってばかり考えていたので、中盤くらいに登場するドッペルゲンガーがああいう感じで絡んでくるとは思わなかったです。

真の黒幕こと工藤君ですけど、壮大なことをして真の目的が勧誘でしたし、工藤君のさらに上の存在がいることが示唆されていますし、先が読めないなぁと。

意外だったのは三好君が生還したこと……ではなく、三好君が特に大きくシナリオに絡まなかったことですね。ネームドキャラですしもっと大きい役割を担ってくるもんだとばかり思っていました。
幹彦君は隊長に惚れていますが、そこを突かれる(例えば人質にされるなど)と裏切る展開もあり得そうで中々怖い現状です。

チリア砦編……で良いんでしょうかね。
死者が沢山出ましたけどめでたしめでたし……じゃないですよね。
まだ砦のモンスターを追い払って工藤くんたち黒幕組が去っていっただけで、まだ敗残処理が残っています。5巻もチリア砦編なんでしょうかね。
懸念するべきは飯野さんたちがまだ戻ってきていないこと
ひと悶着あるだろうなーって思っちゃいます。膂力が強化されたウォーリアである十文字君と違い、明確にスピード特化ってスキル持ちの飯野さんです。
孝弘君たちと戦うことになったと仮定して、正面からではまず勝ち目なさそうな相手です。

この膂力が強化されたウォーリアってチートにも正しいかどうかは別にして、工藤君の解説は舌を巻きましたね……そういうことなのかーって思っちゃいました。

願いが、想いが力を成すなら幹彦君も何か明確に願った結果がエアリアル・ナイトってことですよね。一人称視点の幹彦君の心情描写が無い以上、あれで全力なのかまだジョーカーを隠し持っているのか定かじゃないですが、何か願った方向性があのチートだとするならば、それもシナリオに絡んできそうで楽しみです。

そういえば前回の記事で以下の部分を引用して紹介しました。

 対して、十文字の力には、そうしたものが感じられない。
 本来なら時間をかけて、想いを傾けた結果として得るべきものを、なんの代償もなく、 降って湧いたように手に入れたものだから、当然あって然るべきものが欠けているのだ。 むしろおれは、そうした彼らの在り方に、薄ら寒いものを感じていた。
 だからこそ、なのかもしれない。ふと思った。思ってしまった。
 おれたちのこの力には、本当に代償はないのだろうか?
(3巻、No.1199-1203より引用)

ってことは想いを媒介にして得たチートスキルの代償って何なんでしょう。
今回、シランを死から心を生還して取り戻した少しあとで孝弘君に何かしらフィードバックのようなものがあった描写があります。
恐らくあれが代償のヒントなんでしょうね。
生命力、寿命が代償だとなんかありきたりというか……。
この小説で論理的にあれこれ説明がついているのに、未来で回収されるものが代償ってのはしっくり来ないのです。もっと別の何かが代償になっている気がします。



4巻はいくつも好みの場面というか、好きな地の文やセリフが出てきて胸の内が凄く盛り上がりました。
いくつか挙げるとですね……、

 さあ。失われたものを取り戻しに行こう。
(4巻、No.3058より引用)

まず中後半のこの地の文ですね。
何が良かったかってあれだけ色んなものに疑い、信じず、常に一歩引いたところから考えていた孝弘君からこういう前向きな思いが飛び出したことですね。
しかもモンスター相手じゃなくて人(エルフ)に対して何ですから猶更です。
親友である幹彦君にすらカードを切りながら会話していたのに、チリア砦の戦闘で孝弘君の心が大きく成長したんだなぁと思っています。

 人間が笑うときには、たとえ作り笑いであったところで、そこになんらかの感情が 付随するものだ。しかし、『ベルタ』の笑みにはそれがない。その笑みは皮膚に張り付いた『なにか』にしか見えず、ただただ、おぞましさしか感じられないものだった。
(4巻、No.3738-3741より引用)

ここも好きな場面です。
どうしてかっていうと3巻でローズが少女の顔を作りましたよね。
ローズは加藤さんとガーベラを見て、人間味を、女の子を学んでいきました。
途中、表情についての指摘がありました。ローズは表情も学んでいきます。

4巻の後半に出てきた、ベルタが作った十文字君のコピー体は作り物の笑顔であっても感情の笑顔ではないのです。笑顔を模した笑顔。故に不気味の谷現象を起こしています。

ベースが人間でありつつ人間の笑顔から遠く離れるベルタ
ベースが人形でありつつ人間の笑顔に少しずつ近付くローズ

この対比ですね。
4巻は今までの展開と対比になる展開が多くて、読み追いかけていって思わず「おおっ」って思った場面がいくつもあります。
解決しきれていないものの、4巻で大きく一区切りついています。

孝弘君と工藤君の対比もそうですね。一歩ズレると孝弘君は第二の工藤君になっていたかもしれません。
孝弘君と工藤君。何が違っていたのかっていえば心の通った信頼できる存在に出会えたかどうか、じゃないでしょうか。
同じチートスキルでありながら、同じ境遇を歩みながらこうも大きくルートが異なってしまうのか……って思ってしまいます。

そしてこれがファーストインプレッションである以上、これから何度も工藤君と戦ったり絡む機会が増えていくんだと予想できます。
この時、孝弘君が自分を見失わないまま自分の道を歩んでいけるのか、些か不安なんですけど、リリィたちがちゃんと支え続けてあげればきっと孝弘君は茨の道でも歩み続けることができると思います。



ただ不安というかどうなるんだー的に気になる点もあります。
たとえばこの小説はどうすればエンディングに辿り着けるのか、辿り着くために何が必要なのかわからないという点です。
樹海が広がって人間を脅かしているのが大きい課題です。
工藤君たちの動向も気になりますが、帰るために必要なポイントなのかっていうとそうじゃないと思います。

そして仮定で話が進んだ以上、本当にスキルの成長が元の世界への帰還に絡んでくるならややこしいことになるだろうなぁと思います。そもそも孝弘君は元の世界にどれくらい還りたいのかもわからなくなり始めました。

つまりリリィたち眷属の存在が日に日に大きくなっていっている以上、彼女たちの存在が元の世界と天秤にかけた時の錘になってくるってことですね。
異世界をどうしたいのか、どうなりたいのかってビジョンがまだ全然見えない以上、まだまだ序盤というかいかようにも世界が広がっていきます。

そしてまだ表れていないネームドの元の世界のキャラたちもいます。彼ら彼女らもシナリオに関わって来るんでしょうね……特に気になるのは水島美穂と懇意だったっていうあの人ですが……さて。



最後に4巻を読んでとても個人的に気になったこと。
4巻の冒頭のカラー挿絵でリリィとローズが黒幕組と対峙する場面があります。
ローズは3巻の時点で顔を負傷しています。挿絵では顔が見えていますね。
でも4巻の作中でこういう描写があります。

  苦鳴とともに森の薄闇から飛び出してきたのは、白い服を身に纏った灰色の髪の 仮面の女と、彼女を追って飛来する無数の影絵の剣だった。
「ローズ!?」
 盾で防ぎきれなかった影絵の剣を、肩口から生やした仮面の女……もといローズ が、おれのもとまで後退してきた。
(4巻、No.4233-4236より引用)

ってことはですね、孝弘君ローズが少女の顔を創ったことを知らないはずなんですよね。最終盤で『仮面の奥でー』って地の文がありますし、まだ仮面は外されていません。
即ち、孝弘君がローズの表情を見るイベントが5巻で訪れることがほぼ確定しますので5巻の一番の楽しみになりました。
5巻を読むのは少しあとになりますが、いやー5巻も楽しみですねぇ……。
(おわり)

※追記
ひとつ書き忘れました。
シランが蘇りましたけど、アンデッド状態の時点で片目が喪われていますよね。
眷属になった現状、この片目ってどうなったんでしょう?

(今度こそおわり)

元の世界の人間、キーパーソンクラスになるかもしれない人たちが出てきて一気に盛り上がってきました。
前回も前々回も書きましたが、キャッキャウフフのラブコメを期待すると大火傷します。
人物模様、人物描写がとても色濃く描かれている小説なのです。



モンスターのご主人様3巻





今回はモンスターのご主人様の3巻の感想記事です。
ネタバレだらけというかネタバレしか無いです。要注意ください。

1巻はアラクネの少女、ローズと戦うところまで。
2巻は異世界の住人(騎士団)と出会うところまでが描かれていました。
2巻までを鑑みるとかなりスローなペースで進んでいるので、2巻までを要約すると、

・モンスター少女を3人+人型ではないモンスターを2人(匹が正しいか?)眷属にした
・加藤さんを助けたあと、加藤さんはガーベラと交流を重ねた
・異世界の騎士団と孝弘君と擬態したリリィが合流した

といったところになります。
次に答え合わせ。

異世界転移した孝弘君たちが拠点に使っていた小屋の数々。
造ったのは異世界に住む人々で確定です
シラン(金髪美少女エルフで騎士副団長)らが率いる、『同盟第三騎士団』よりも前にチリア砦に在中していた騎士団が造ったのだと思われます。
ではどうして造ったのかというと『この世界』に来訪した異世界人を助けるため……ではなく、樹海の最深部を目指すための中継地点だった、というわけですね。
というか確かに小屋の中にモンスターが襲ってくる展開は無かったですけど、襲ってこない明確な理由あったのですね……。

 おれはリリィにあらかじめ聞いておいた『一番嫌な感じがする場所』を調べた。
(1巻、No.769-770より引用) 

(中略)おれは小屋の近くの地面に埋まっている綺麗な透明の石を見付けた。石にはなにやら精緻な文字が刻まれていた。
 察するに、これは魔法的な品物ではないだろうか。こんなものを作れるという話はコロニーで聞いたことがないが、これがこの小屋の本来の持ち主のものだと考えれば納得 がいく。
 これは地味だが重要な事実を示唆している。
 この世界には、おれたち転移者以外の人間が、きちんと存在するということだ。
(1巻、No.772-778より引用) 

あ、あった……調べたらちゃんと描写ありますね。
思いっきり見逃してました。うううorzlll

魔法技術の粋を集めた(ただし製法が失われたとあるのでロストテクノロジーなんでしょう)って記述がありますし、科学文明とは別に魔法文明が非常に発達した世界なのだと思われます。今のところ90年代ファンタジーアニメのような魔法は出てきていませんし、魔法が科学の立ち位置になっているかはちょっとわかんないです。
追記:よくよく考えれば階梯というクラス分けで今まで何度か魔法出ていましたですハイ。
孝弘君パーティだとリリィ、つまり水島美穂が魔法使ってましたね。失礼しましたorzlll


追記ついでに確認。
リリィが今まで使った魔法をいくつか調べてみると、

 数秒のうちに作り上げたリリィの魔法は、第二階梯の水魔法。
 狩猟用大型拳銃に匹敵する殺傷能力を持ち、剣の性質を与えられていた。
 3本の水の剣が空中に現れ、隼の如く飛翔する。
(1巻、No.1363-1368より引用) 

「ごめん、ご主人様。わたしの回復魔法は第三階梯が限界だから」
(1巻、No.1516-1517より引用) 

 とっておきの攻撃魔法が、後方で待機していたリリィの掌で輝いた。
 属性は風。性質は弾丸。
 込められた魔力は第三階梯。対物ライフルにも匹敵する大威力だ。
 ――きぃん、と。
  鼓膜を引っ掻くような音の終点に、トレントの体躯の一部が炸裂した。
(1巻、No.3204-3210より引用) 

 四つん這いになって地に伏せていたリリィが、準備していた魔法を発動させた。
 三階梯の風魔法。与えられた性質は37本の刃。
 威力は多少落ちるが、その分だけ広い範囲を切り刻む、彼女のとっておきの一つだった。
 荒れ狂う風が暴威を振るう。蜘蛛の糸で吊り下がっていた照明がいくつか吹き飛び、床板代わりの細い丸太がばきばきと音を立てて舞い上がっていく。
(1巻、No.5036-5041より引用) 

ということで水属性、風属性、そして回復魔法の三属性。
リリィは上の引用でもあるように、水と風属性が得意分野。これはそのまま水島美穂の素質がそうだったのだと思われます。
魔法は階梯と呼ばれるクラス分けでカテゴライズされ、カウントが上がれば上がるほど上位魔法として扱われるようです。リリィはどうやら第三階梯魔法まで使えるようです。
1巻の途中で部位欠損は第五階梯回復魔法とありますので、きっと第五階梯回復魔法が使えるキャラが今後出てくるんだろうと思います。

あと魔法を使う際に幾何学模様の魔法陣が描かれます。
魔法陣の色がそのまま属性に対応しているようですね。



チリア砦であてがわれた個室で孝弘君は自分の気持ちを整理し、リリィに吐露します。
孝弘君の言うことはもっともであると同時に、それだけ裏切られ続けたのか否かで心境が変わるのかなぁと思いました。そもそもこの世界で生きていくためには、力の無い者は誰かに縋らなければいけませんからね。NOと言えないレールを進まなければいけないのです。
故にモンスターを眷属にできる孝弘君は中間のレールを進んでいるんじゃないかなと。
孝弘君の眷属たるリリィたちは強いですけど、孝弘君自身はまだまだ発展途上ですからね……腕に寄生したアサリナが戦闘方面で活躍するのはもっと先になるんでしょうし。

そしてもうひとつ大きい変化がありましたね。
孝弘君の友人(親友)の鐘木幹彦君が登場したことです。

なんていうか思ったよりも普通でビックリしました
オタク気質ってあったのでもっとこう……濃いキャラだと思ったら話し方はフランクだし好感抱ける好青年じゃないですか。しかも一途。良い……凄く良い。
挿絵を見て思いましたけど、異世界に来てもネクタイをきちんとしているくらいですし、根が真面目なんでしょうきっと。男性キャラが出てきて癒されるの嬉しいですね……。
例えるなら……そう、幹彦君はオアシスです。オアシス。読んでいて笑みがこぼれてしまいました。

ひとつ、気になったことがあります。
チリア砦の責任者はジェイラス=グリーンって人なんですけど、今のところシランはフルネーム名乗っていないんですよね。苗字は限られた者しか無い世界なのでしょうか。

そして異世界系で避けて通れない問題。どうして会話が成立するのか
これも上手いシステムが用意されていてなるほどなぁと思いました。

と同時に疑問に思ったこともあります。
魔石を用いて異世界の人と会話が成立するのはわかります。
リリィは水島美穂の身体を触媒にしているのですから日本語が成立するのもわかります。
ではローズとガーベラはどうして日本語で会話できるのでしょうか
とまで考えて、孝弘君とパスが繋がっている以上、孝弘君の使う言語、即ち日本語になったのかなと思いました。仮にこの仮説が正しいとするならば、日本語を読むこともできるんじゃないかなとも思いました。秘密の暗号通信に使えそう。

「同じ異世界転移ファンタジーでも、おれたちとは物語のジャンルが違っているんだよ」
(3巻、No.871より引用)

これが全てだと思いました。
英雄たる振る舞いをする遠征組。
裏切りや惨禍に怯えるコロニー組の対比になってます。

そしてそれを聞き、違和感の正体、そして『それも正しい』と考えていく孝弘君のプロセスが良いですね。1巻も2巻も感想で書きましたが、この小説はとても心情描写が繊細に丁寧に書かれています。同意できるかは別にして、説得性が非常に高いんですね。孝弘君の一人称視点で基本的に物語は進みますけど、言葉だけの他の人物も、動機と行動に一貫性があるので非常に骨太な印象に見えます。ノイズを感じないんですね。

中盤、十文字君が手ほどきをしている場面でひとつ、大きく思ったことがあります。
この世界に来た稀人(元の世界の人)はこの世界の人と比べて、何故か特異的に何かしら能力が高いケースがいくつかあります。
孝弘君が、

 対して、十文字の力には、そうしたものが感じられない。
 本来なら時間をかけて、想いを傾けた結果として得るべきものを、なんの代償もなく、 降って湧いたように手に入れたものだから、当然あって然るべきものが欠けているのだ。 むしろおれは、そうした彼らの在り方に、薄ら寒いものを感じていた。
 だからこそ、なのかもしれない。ふと思った。思ってしまった。
 おれたちのこの力には、本当に代償はないのだろうか?
(3巻、No.1199-1203より引用)

と胸の内で思っています。
読んでいて、ソシャゲで例えると重課金組と無課金組の対比に近いのではないかと思いました。重課金というのは、要するに時間や労力をお金でショートカットしている、ということです。であるならば、チート能力はお金に該当する、何らかの代償コストを経て努力や在り方を獲得している、であってもおかしくないんですね。
当たり前のように享受している超パワーは、元々この世界の住人だったらいざ知らず、別世界から来たのですから、何かしら理由が無いと本当はおかしいのです。
ゲームはそういう『設定』があるからこそ『プレイヤー』はすんなり入り込めますが、この小説の『登場人物』にとっては、この現在こそが『リアル』なんですし。



シランからこの世界について、この世界に来訪した異邦人――稀人、勇者の伝承を聴いていく流れで、ふと思いました。
この手のお話って特別扱いされる人って、結婚して子供を授かったりしないんでしょうかね。悪い書き方をすれば種馬みたいな扱いになってしまってもおかしくないと思うんですが……。
異世界から来るのがチート能力のトリガーなのか、異世界の血があればトリガーになるのか定かではないですが、勇者を戦力として見ている以上、そういう試みのようなものが行われてもおかしくないんじゃないかなぁと思いました。勇者が男性であればそれこそハーレムルートのような展開が過去にあってもおかしくないと思うんですね。
異世界から来る人が必ずしも良い人とは限りません。悪に染まる人もいれば、最初から悪人だったケースもあるのではないでしょうか。もしくは悪人は来訪できないシステムなのかもしれないですね。

「……この指先サイズの筒は?」
「ライターですね。火が出ます」
(3巻、No.1578-1579より引用)

日本語に自動翻訳されているんだなぁと改めて思いました。
火筒とかじゃなくてライターですからね。孝弘君が処理できる最適な単語が自動選択されているんだなぁと……。

ほかのモンスター使い(テイマー)がいるかいないか……シランとケイの反応、そしてそのあらましを見て、これ絶対悪のモンスター使いが出てくるだろうなぁと思いました。
友好的か敵対的かなんて表面上じゃ判断できないですよね。リリィたちが友好的であるのを孝弘君はわかっていますが、それはパスが繋がっている、そしてモンスター・テイムのチート能力があるからです。無い人には、それはわからないのです。
であるならば精霊使いであるシランたちの反応も至極当然ですよね。使い手にしかわからないのですから……裏切りに転じられて敵になれば、って考えれば恐れられ、差別されてもおかしくないと思うのです。



中盤、ケイが行方不明になりました。
孝弘君たちの推理は論理的で良いですねぇ……筋道立てて考えていくのですんなり理解できます。面白いなぁと思ったのは、異世界の人と元の世界の人は翻訳の魔石があるから会話が成立できるけど、じゃあ魔石が無かったら会話はどうなるのか、というシーンがあったことです。
というか金髪少年で嫌な予感がしましたけど、やっぱしケイに悪さしていたの、坂上君じゃないですか……トラブルをまき散らしちゃってますね。困ったものです(困ったで済む話じゃないですけど)。

十文字君、坂上君、そして工藤君。
三人とも何かしら含みがありますし、まぁ何かあるんだろうなと。
このまま砦でコツコツ鍛錬を重ねましたーで終わるわけはないでしょうからね。
ただ1000人over+稀人組という大規模な砦ですし、何かが起こっても数の論理で何とか……ならないですよね。多分。これが単純にモンスターと人間が戦う構図であるならば、チート能力持ちが活躍すればそれで決着に向きますが、稀人組の誰かが裏切れば簡単に均衡が崩れるのは目に見えていますし。ただ裏切るメリットが浮かばないので、当面の間は大丈夫だと思うのですが……。

悪かった点だけではなく、そのあとの展開を鑑みれば、ケイと孝弘君の距離感が縮まったのはほんわかしました。「孝弘様」ではなく、「孝弘さん」と呼ぶのを見てグッと来ましたです。なんていうんでしょうね。慕っている感が強くなったんですよね。
それまでのケイは一歩どころか二歩引いているというか、恥ずかしさと恐れで身震いしているに近い印象があったんですね。だから助けられたあと、孝弘君たちの付き人になってケイの言葉と印象がほんわかする方向にシフトして、良いなぁと思いました。



夜。
今まで何度かリリィと逢瀬を重ねるに近い場面があったと思うんですけど、なんていうかシチュ、そしてリリィの決意も相まってとても尊い場面に見えました。
挿絵の破壊力が凄いですね。この小説の挿絵はどちらかというと萌えーな感じよりは半歩ほど引いた印象があるんですよね。地味とかそういうのじゃなくて、何て言うんでしょうかね……綺麗、でしょうか。1巻の表紙絵は背景が真っ白なのもあって地味だなーと思ったのですけど、2巻、3巻と背景が加わり、表情豊かになることで綺麗だなーと思ったのです。

「ごめんね、アサリナ。一晩だけ、ご主人様を独り占めさせてちょうだい?」
(3巻、No.2748-2749より引用)

直接的な表現を使わずに、これでもかと情熱的なセリフですよね。
この小説はR18小説ではありませんが、かといって何も無いのかというとそんなことは無いと思います。漫画版は顕著に描かれているので、そういう意味では漫画版のほうが正しいのかもしれません。
けれど直接書かない情緒がわたしは大好きです。
奥ゆかしさと言うんでしょうかね……綺麗というか美しいというか。上手く言葉にできません。

孝弘君サイドの3巻のお話はここで終わりを告げます。
中途半端ってことは無いんですけど、もうちょっと先を見たい(別にそういうシーンが見たいって意味じゃなくてチリア砦のお話の続きがって意味で)って強い気持ちを抱いちゃいますね……。



ココからはローズ視点のお話。

そういえば3巻の表紙絵、最初「誰!?」って感じで見ていましたけど、よく見れば関節や白い面を見て、「ああああローズなのかあああ」ってわかりました。
顔は何となく何をどうすればそうなったかの想像はついたのですが、髪の毛どうしたんだって思ったので気になっていたんですよね。
というか感想書くためにカラー挿絵を見直しに行ったのですけど、なんという大惨事。スーパーネタバレになってるじゃないですか……孝弘君視点の段階でこういう展開になっていないですよ……も、もうちょっと手心のあるマイルドなネタバレをお願いしたいです。

さて、2巻の後半で加藤さんとローズで何か含みのありそうな展開がありましたけど、なるほど、そういうことだったのですね。

 上体を乗り出したわたしに、友人――加藤真菜は、薄らと笑みを浮かべた。
「リメイクで」
(3巻、No.2789-2792より引用)

なんでしょうね。
モンスターのご主人様ってギャグ的な展開は皆無な小説だと思っているんですけど、たまに真面目シリアスで笑いを誘ってくるから卑怯です。文章だけなら至極普通なのに手前の流れで笑いを誘ってくるんですよ……ずるいですよ。場面は真面目一辺倒なだけに余計。

 そう。『思いのままに』だ。それがつまり『思い描けないものは作れない』ということ を意味していると知ったのは、この試みを始めてからのことだった。
(3巻、No.2821-2823より引用)

クリエイト系スキルの良点であると同時に弱点ですよね。
自分という名の限界、殻が最大の障壁になるっていう。
限界を超えるには、限界を超えるきっかけ、刺激が無いと、そして相応の努力が必要っていう。天才肌であればあるほど、苦しむ部分じゃないでしょうか。それも機能性と見た目っていう、ある意味真逆の方向に対しての技術ですし。
不気味の谷をラノベで見るとは思わなかったですね……どっちかっていうと現実かゲームで目にする単語ですし。

「ローズさんは表情がうまく作れていません。造形についてはかなり人間らしくなってい ますけど……と言いますか、むしろ完璧過ぎて人間味がなくて天使みたいになってますけど、表情が駄目です」
(3巻、No.2850-2852より引用)

例えとして正しいかわかんないんですけど、PS4のゲームソフトで精巧に描かれた人物みたいな感じなんでしょうかね。綺麗すぎて違和感があるーみたいな。 

  彼女が指先を押し付けると、わたしの頬はやわらかく沈み込んだ。
(3巻、No.2863-2864より引用)

なん……だと……?
てっきり精巧なブティックなどで置かれているファッションショップや大手百貨店に置かれているマネキンみたいな感じ(感触が硬い的に)だと思っていたのでびっくりですよ。
名前出しちゃいけないと思うので濁しますけど、某工業さんのシリコン製ドールみたいな感じなんでしょうかね。
柔らかさがあるなら、もう人間と大差ないじゃないですか……一気にローズのヒロイン力が格段とパワーアップしたというか。3巻の表紙絵のローズめちゃ可愛いですし

3巻の表紙絵を見た時、どうしても疑問に思ったことがあったんですよ。
顔は技術で再現するとして、髪の毛をどうやって再現したんだろと。
読み進めるまではてっきりガーベラにお願いして蜘蛛の糸を髪の毛のように加工してもらったーと思っていたんですけど、そうか、その手があったかと感服しました。
別に髪の毛を再現するのに必ずしも髪の毛でなければいけない理屈は無いですよね。それも今までの時点で近しいものをドロップしていたじゃないですかっていう。
だから少女の顔になったローズの髪の毛の色は灰色の髪だったのかと感嘆としました。

「……体のほうにも、手を加えるべきですね」
「体もですか」
「はい。これまでは顔の造形に全力を挙げてきたわけですが、それだけでは、片手落ちでしょう。女の子はやっぱり、やわらかくないと駄目です」
「駄目、ですか?」
「駄目です」
(3巻、No.3022-3024より引用)

加藤さんもローズも似ている部分があるんですよね。
即ち、成果を上げるために努力も犠牲も厭わないタイプ。端的に言えば研究者タイプ。
顔だけ変えても身体のほうは硬いままでしょって思っていたので、あぁ、やっぱし身体も細工していくのかと読者の動線誘導が上手いなぁと。孝弘君と合流するまでに変化というか進化というか生まれ変わりに近いところまで進んでしまいそうです。

「心配しなくても、真菜の体はとても可愛らしかったですよ」
「う、うぅう……」
(3巻、No.3101-3102より引用) 

少女モンスターと人間の考え方の違いが面白いですね。
プロセスの根っこが全く異なるので噛み合うようで噛み合わない。だから相互理解できているようで相互理解できていない。ズレても合う場所もあるから会話は成立する。けれど繊細な部分ですれ違いがあるので価値観の違いで四苦八苦する……。

端的にいうとご馳走様でした、ということです。この二行だけ読んだら絶対に勘違いするでしょ……潤いを感じます。

「あれだけ美人で可愛くて、好きな人のために尽くすタイプで、おまけに、えっちな捕食 系。先輩とはパスで心が繋がっていて、好きな気持ちは筒抜けで、耳元でお互いに、いつ でもラブレター朗読してるような状態なんですよ。これがチートでなくてなんなんですか」
(3巻、No.3139-3141より引用)

見方を変えると、そのままリリィに対する嫉妬に見えるんですね。
ということは程度の大きさはわかりませんけど、やはり加藤さんも孝弘君に対して好意を持っているのだなと。孝弘君グループの中では唯一の人間・女性ですがリリィたちのように戦う力があるわけでもなく、女性的な意味合いで身体的に優れているわけでもない。つまりコンプレックスの塊であると。そしてローズのボディ制作を行う過程で再認識して痛感した……といった感じなのではないでしょうか。
加藤さん視点は一巻の後半で大きく枠が設けられていますけど、あの時は孝弘君がガーベラに攫われて非常事態でした。

思えばこの小説は視点を大きく武器にしていると思います。
基本的に孝弘君の視点でお話は進みますけど、時折視点が変わります。リリィも、ローズも、ガーベラも、そして加藤さんもロジカルにプロセスを積み立てていくので、とても読者に伝わり易いと思うのです。だからこそ、明かされていない時の時間軸の胸の内を想像するのはとてもワクワクします。

1巻ではリリィ視点が。
2巻番外編ではローズ視点が。
3巻ではローズ視点がそれぞれあります。
ガーベラの視点が今のところ(見逃しが無ければ)多分無いのが残念です。

加藤さんの視点が無いのかというと、3巻の番外編で初めて出てきます。
話が前後しますが番外編を読み進めていくと、加藤さんが主に孝弘君とローズに対してどのような感情を抱いていたのかの一端が語られます。
加藤さんに限った話ではないんですけど、この小説って結構難しい言い回しがそこそこの頻度で出てきます。賢い、頭が良い、だから論理的に考えていくことができるんだろうなと思います。孝弘君とパスを結び、自我と心を獲得したリリィたちも同様です。リリィの場合はベースとなる水島美穂の記憶・知識もありますが、感情的であってもとてもロジカルなのです。

では加藤さんはどうなのか。
加藤さんは感情の起伏が薄く、どちらかというと自分を曲げない頑固な気質があって、実は情熱的な女の子だと思います。ただそれが表面に出にくいだけで、喜怒哀楽はハッキリとしていますし、他者のために自分の身を投げうる自己犠牲に近い精神性も持ち合わせています。
そしてハッキリと孝弘君に対して恋心を抱いているのが語られました。
静かに燃える炎は今後どのように大きく、情熱的に燃え盛っていくのか……楽しみが増えましたです。



話を戻します。
美少女になったローズには当然、それ相応の可愛らしい服装が必要になります。
となると機織り職人よろしく、ガーベラの手が必要になるわけです。

が、が……ですよ。
ガーベラは暴走気質ありましたけど、まさか先にずっと後のことを想定してアクションを行っているとは思わなかったです。言葉遣いこそ古めかしいですけど、多分一番肉食系ですよね。それも行為に及ぶという意味ではなく、もっと長期的な意味での肉食系
思えば孝弘君を攫った実力行使派ですし、正式な眷属として仲間になったからといって、うちに秘める想いは燻らないわけがないのです。わけがないんですけど、なるほどーそう来るかーと……アラクネ、つまり蜘蛛である強みを二重三重に活かされたヒロインなんですね。
なんだかほくほくしちゃいますね。どちらかというと淡々と進んでいくのがこの小説だと思うんですけど、こういう場面を見るとほくほくしちゃいますね。萌え萌え路線も好きですけど、こういう機微を楽しむ路線好きなんですよね。何度も読むことでじっくりコトコトと煮詰まっていくというか……。



前後に次ぐ前後ですが、先に3巻の番外編を見て良かったと思いました。
何が良かったのか? 3巻の終盤が、です。

終盤はしばらくの間、ローズ視点で加藤さんとひたすら会話が続いていきます。
3巻はガーベラが不憫だなと思ったのはナイショ

ローズが加藤さんが孝弘君に対して、恋心を抱いているのを看破するんですよね。
この時のロジカルなシナリオ運びは、まるで推理小説の犯人当てパートのような重厚な見応えがあって面白いです
正直なところ、3巻の終盤を読むまでは、全体の七割くらいが孝弘君とリリィが中心に話が展開されるので、ローズが美少女になった驚きを差し引いても、表紙絵をローズと加藤さんにする大きい意味があるのか? と思っていました。

なんですけど残り三割でそんな疑問がひっくり返されちゃいましたね。

「疑われたままでもかまわないから、それでも真菜は、ご主人様の近くにいたいと願って いる。それだけの想いを、ご主人様に抱いている。だからこそ、ご主人様のために、見返りを求めず力を尽くしもしたのではありませんか?」
(3巻、No.3496-3498より引用)

上手い対比になっているなぁと思いました。

リリィは孝弘君に人間をもう一度信じて、人間と一緒に暮らして欲しい
対して加藤さんは、孝弘君に人間を信じて欲しくなくて、ずっと一緒に居たい

という、他の人間に対してどう思って欲しいのかが見事に真逆になっています。

「わたしはこの気持ちを、真島先輩に伝えるつもりはありません」
「っ! なぜです……!?」
「伝えたくないんです」
(3巻、No.3559-3560より引用)

加藤さんが抱く想い。
シンプルなようで複雑で、そして一枚岩ではありません。
端的に書けば加藤さんは関係性が変化するのを恐れている。今の自分が在るのは孝弘君のお陰で、それまでの自分自身は死んでしまった。そして心の空白を埋めてくれたのが孝弘君であり、埋まっていない自らは生きているが死んでいる。何が? 心がです。

加藤さんはローズを応援し、想い続ける。
ローズは加藤さんを応援し、想い続ける。

加藤さんとローズがどんどん対になってきていますよね。
孝弘君とリリィ。加藤さんとローズ。……ガーベラが不憫な立ち回りになっている気がするんですけど、二人一組で良い流れができていると思います。

モンスターのご主人様は現在11巻まで発売されていて、今度12巻が発売されます。
つまりお話は長く続きます。加藤さんの立ち位置もきっと変わるでしょう。
その時に前向きに変わるのか、それとも後ろ向きに変わるのか、話が進むにつれて孝弘君も含め、孝弘君たちのパーティ全体の心が成長していっているので、お楽しみがどんどん増えていくなと。
わたしが読むスペースはゆっくりですけど、続き読んでいきたいですね……。



最終盤は急転直下というか、それまで戦闘とはほぼ無縁だった3巻ですけど、一気に雲行きが怪しくなってきました。
モンスターが襲ってくる描写は1巻や2巻で何度もありましたけど、大規模な軍団で襲ってくるシーンは今まで無かったのです。いや、コロニーを襲ったモンスターは大軍団だったかもしれないですが……。

流れが流れなので読んでいて強く違和感を覚えるわけです。
何かから逃げている最中の大軍団なら、「あぁボス的なモンスターが襲ってくるんだろうなぁ」って展開が予想できるんですけど、なんか統率が取れているっぽい節があるんですよね。

そして、

 ダメージがなかった? そんなはずがない。頭部がふたつに割れているのだ。即座に死なないのは、虫の生命力ゆえのことだとしても、ほんの一瞬さえ動きをとめないなんてことがあるはずがない。本当に、なにが起こって……。
(3巻、No.3725-3727より引用)

とあります。
……中盤辺りのシランのお話と組み合わせると、これ悪い考えを抱いたモンスター使いの人がいるってことですよね。
つまり元の世界からこの世界に来た人の中かつチート能力持ちで裏切り者って書くのが正しいかわかんないですけど、明確に殺意を抱いている者がいるってことですよね。
しかもパスを繋げるなんて優しいものではなくて、洗脳レベルで指令を出すレベルで

問題はチリア砦の外側にいるのか内側にいるのか不明であること。
しかもチート能力は孝弘君のように隠している可能性もあります。
目に見えるものが正しいとは限らないのです

「どうか生きてください。幸せになってください。……真菜が幸せになれないのに、わたしの物語がハッピー・エンドになるはずないではありませんか」
(3巻、No.3823-3824より引用)

ローズにフラグ乱立していません?
死亡フラグっていうフラグが。あからさまに加藤さんを庇って命を落としそうな雰囲気がじわりじわりと近づいているんですけど……。
嫌ですよ……せっかく容姿を変え、孝弘君により近づこうとひたむきで、それでいて加藤さんとどんどん友情を育んでいっているのに……。

ガーベラと合流したところで3巻は終わりを迎えます。
冒頭のカラー挿絵のように、チリア砦が襲われている構図を迎えて。

ここでひとつ、疑問が浮かびました。
ローズって直前で左眼が転げ落ちて、左腕の手首から先が破壊されているんですよね。
あれ? カラー挿絵だと無事じゃなかったっけ? ってことで早速冒頭を見直しました。

ローズの左目は髪の毛で隠されてわからなくなっています。
加藤さんを抱き抱えていますけど右腕のみが映っています。整合性取れてました……見えないところは勝手に『あるだろう』と思うのが人間心理。確か空間補完効果って言うんでしたっけね。想像で補ってあるものだとばっかり思っていました。
というか本編最後の部分をカラー挿絵に持ってきているのか……凄いネタバレをしちゃってますね。びっくりですよ……良いんです? 

ってことで3巻は終わりを迎えました。
4巻は孝弘君視点とローズ視点、二つの視点から多角的に展開される……でいいんでしょうかね。砦が襲撃されるまでの場面が描かれていませんので、きっと4巻が始まるとじわりじわりと不穏な展開が這いずっていくのだと思います。
砦が襲われている以上、誰かが黒幕なのは間違いありません。今まで登場したキャラなのか。それとも今まで登場していないキャラなのか。雰囲気だけで行くなら坂上君か工藤君が怪しいのかなぁと思っています。遠征して離れた飯野さんが悪人とは思えないので、多分男子勢の誰かが手を引いているのだと予想します。

問題はどうしてそういうことを引き起こしたか、なんですよね。
メリットがわからないんですよ……いうなれば砦って絶対安全地帯に近い聖域みたいなものでしょ? それをわざわざ壊すっていったい何がしたいんでしょうか。
モンスター使いだから砦を壊しても生きていける、と見立てることもできます。
けれどその場合もわざわざ砦を壊す必要性が無いんですよね。こっそり出ていけば良いだけの話なので。バレて殺されるリスクだってあるでしょうに……。

3巻は緩急の付け方が上手い構成だと思います。
じっくり温めて急に爆発させるというか……4巻を直ぐに読んで続きを見なければっ!



ってことで今回はこの辺で終わりにします。
いやーカラー挿絵でどうなるか予想がついていたにせよ、盛り上げ方が上手いですね……複雑に絡み合う人間模様も相まって、いったい誰が生き残れるのか、誰が真犯人なのか楽しみで楽しみで仕方ないです。




モンスター娘のヒロインとキャッキャウフフする思考放棄型ラブコメ小説を期待すると盛大に大火傷します。1巻の感想でも似たようなことを書きましたけど、2巻はもっと顕著です。

面白い小説なんですけど、面白さの種類が違います。
人物描写に物凄く重点が置かれた丁寧な小説なのです。

PV動画、あれじゃ絶対に勘違いするでしょ(滝汗

表紙絵




モンスターのご主人様 : 2 (モンスター文庫)
著:日暮眠都先生
イラスト:ナポ先生
今回はモンスターのご主人様の2巻の感想記事です。
ネタバレだらけですので要注意です。

まず軽く1巻のおさらい。
高校の人間が丸ごと異世界転移(転生ではないです。転移で確定)しました。
飛ばされた先はモンスターが跋扈する森の中。
チートスキルに目覚める者、目覚めない者に分かれ、主人公である真島孝弘君は後者に。
やがて精神が摩耗し、疲弊し、人間が人間を襲うエグい展開に。
孝弘君はボコボコにされ、強い力を持つ者が力に溺れるとどうなるかの結果を見てしまった結果、人間不信に陥ります。トラウマと化してしまいます。
コロニー崩壊に巻き込まれた孝弘君はモンスターテイムに目覚め、ミミックスライムのリリィ、マジカルパペットのローズを仲間にします。
リリィは水島美穂の死体を捕食し、水島美穂の記憶とスキルと身体情報を獲得して擬態します。
なんやかんやあって加藤真菜を救出し、森から脱出するべく森の中をさ迷います。
その途中、クラスメイトである加賀君と再会しますが加賀君ご乱心。最初から孝弘君を襲う気満々なのでした。
加賀君を返り討ちにし、加賀君から得た情報、加藤さんが持っていた情報を汲み合わせ、どこを目指すのか進路を決め、改めて森を脱出しようと歩を進めます。

ところが白いアラクネの少女に襲われ、孝弘君が攫われます。
孝弘君を攫ったのはモンスターテイムと眷属モンスターの関係。そしてアラクネの少女は孝弘君を独占すべく、その他の全てを排斥します。
加藤さんはリリィとローズを説き伏せ、そして三人で協力して孝弘君をアラクネの少女から奪い返すのに成功します。アラクネの少女はリリィとローズに感化され、自分がどういう過ちを犯していたのか思い知り、崩れ落ちるのでした。


細かいところは端折っていますが、ざっとこんなところだと思います。
2巻の感想を書いていく前に1巻では得られなかった情報が出てきたので修正します。

まずコロニーの小屋。
実は建てたのは異世界転移組ではないことが明らかになりました。マジかよ。
じゃあ誰が建てたのかというと、3巻の冒頭で明らかになりますが異世界に住む人間の手によって、です。ちゃんと異世界にも人間がいました。万々歳です。
ちなみにモンスターが小屋に寄ってこない結界の役割を果たすギミックを仕掛けたのも異世界の人間だと明らかになります。
どうして異世界の人々が森の中に小屋を建てていたなどの理由は3巻で明らかに。
それらについては次回感想記事にて書いていきますね。

そして異世界に転移した孝弘君が通っていた高校の人間の人数。
大雑把な上にこれまた3巻の冒頭で明らかになるのですが、1000人以上で確定です
……高校ひとつでしょ? そんなに人数多いのが普通なんです……?

(ウチの通っていた高校だと1学年6クラス×3学年。1クラス約40人だから40×6×3=約720人くらい(留年、退学を考慮しないで)。教員も含めるとプラス40人くらいで760人ってところでしょうかね。よっておおよそあと1学年3クラスくらいあればクリアできますね。ってことで軽く調べたら大きい高校だと1学年10クラス以上のケースもあるようで。なるほどー……という気持ちに)

参考までに2012年度らしいですがグラフにしてくださっているサイトがあったので紹介。


諸々脱線しましたけどこれらの前提の上で感想を書いていきます。

まず、『後始末』。
白いアラクネの少女が三人目の眷属として仲間になります。
孝弘君の花の名前を名付けるアイデアはどうやら見切り発車だったようで、速攻で花の名前ネタが枯渇。マリーゴールド、パンジー、サクラ、ヒマワリ、デイジー、すみれ、ダリアなど色々あるでしょ? とウチは盛大に脳内ツッコミしました。
でもこれはある程度サブカルに強いから直ぐに思いつくことであり、オタク気質でない孝弘君には酷な話です。
さらに極限状況ですし、生存に情報が回っていれば、余力のあるリソースを全てそこに回すでしょうから回らなかったんでしょうね。文字通り頭が。

危うくチューリップと名付けられるところを加藤さんのアイデアにより、白いアラクネの少女はガーベラと命名されます。ちなみにどうしてガーベラと名付けられたのかについては、

 ――ガーベラなんてどうですか。
 ――スパイダー咲きって呼ばれる咲き方をするものもあるんですよ。
 ――やった。これで決まりですね。
(2巻、No.242-243より引用)

とあります。
スパイダー咲きで調べようとすると予測検索リストに追加でガーベラの項目が出現しましたので、かなり有名なんでしょうね。
ちなみにガーベラの花言葉は、希望・常に前進とのこと。
森を踏破する実力を持ったハイモンスターであり、2巻で孝弘君たちに道を指し示すことができたガーベラにぴったりダブルミーニングではないでしょうか。
リリィであるユリの花言葉は純真・無垢ですし、ローズである薔薇の花言葉は愛・美
(ユリも薔薇もガーベラも色別で変わりますが全般的な花言葉が上のとおりです)
奇しくも他の眷属も名前と花言葉が近しいものが選ばれたようです。

孝弘君も加藤さんも、『水島美穂の記憶』もそうですけど、みんな博識なんですねこの小説。難しい言い回しも出てきます。けれど『知識はあっても使われていない』んですね。
例えるなら紙に書かれた情報を読んでいる感が強い……でしょうかね。良い意味でリアルだなと思いました。
頭が良いけど決して良すぎるわけではない。
しかしオバカちゃんというわけでもないのです。
そんな都合の良い展開にはならないだろうというギリギリ感を攻めているというか。
考え、悩み、思いを馳せらせ、論理的思考と感情的思考。割り切れる部分、割り切れない部分。機械的、人間的。決して心は一枚岩ではありません。

ガーベラは自らの行為を振り返り、悔やみ、悩みます。
ガーベラは強いです。孝弘君のパーティの中では群を抜いて。
しかし心はまだまだ未熟です。古風な言葉遣いであっても、長く生きてきても、ガーベラに生まれた心はまだ子供です。経験が、無いのです。あと加藤さんを怖がっています。

だからガーベラはリリィやローズたちと距離をどう取ればいいか悩みます。
これはリリィやローズも同じ。ロジックで全ての理由を説明することはできません。感情が論理を越えることは多々あります。
ガーベラが孝弘君を襲った事実は覆りません。事実は、消えないのです。

ただしガーベラがしていたと思われた『罪』も同時に消えました。
具体的には1巻で出てきた生徒のバラバラ死体。てっきりガーベラの仕業だと思っていたんですけどね……うーん。ってことはチートスキル持った生徒が襲った……のかしら。
正気を失って同士討ちをする生徒が多発していましたし、無いとは言い切れないですね。


2巻で一番活躍したのはガーベラですが、一番変化があったのはローズでしょうね。
ご主人様である孝弘君に対して主従関係で眷属である三人の心が描かれていきますが、横の繋がり、そして加藤さんとの繋がりもあるわけです。
ローズが徐々に加藤さんと関係性を構築していくのは読んでいて暖かい気持ちになりました。ローズはリリィと比べ遊びが無く、どちらかといえば機械的と言えます。しかしローズにも心があるのです。少しずつ、少しずつ変化していき、自分の心がどうあるのか、どうあるべきなのかを悩み、考えていく。

加藤さんがローズのことを「友達」と呼んだこと。
ローズが加藤さんのことを「友達」と呼んだこと。

これが2巻における最大の出来事だと思います。
無論、2巻のラストでやっと異世界人に会えたのは大きいイベントなのですが、個人的にそれ以上に大きい出来事だと思います。



2巻は1巻と比較すると大きい戦闘場面が少なく、縮小気味です。
中盤にある風船狐との集団戦闘が一番大きいピンチです。
ピンチの度合いが多きけれど、結局ガーベラが強いことが誇示されてしまい、結果としてあまり心に熱いものは抱けませんでした。
個の強さを集団の強さが勝る良い展開なんですけどね……普段の関係構築の丁寧な描写に比べると淡泊だったというか。

2巻はいわゆる『繋ぎ回』です。
発生した大きい出来事をピックすると、

・ガーベラと眷属の2人が和解した
・魔力のシステムについて学んだ
・風船狐の集団に襲われた
・4『匹目』と5『匹目』の眷属が仲間になった
・孝弘君が自らの行動を顧みた
・加藤さんとローズが友達になった
・ローズが秘めたる想いを胸に抱き、裏工作を始めた(ぶっちゃけ3巻の表紙絵が答えですよね)
・グールに襲われた
・異世界人と邂逅を果たせた

これくらいしかありません。
細かい戦闘や他の描写はあれど、ページの大半は人物描写に多く割かれています。
過剰なほど丁寧である反面、イベント性にはどうしても乏しく、物足りない巻だったと書かざるを得ません。
それが悪いのかというと決してそうではないんですけど、もっとこう熱い展開を期待して読んでいます。ですので小説が持つポテンシャルとウチが求めるポテンシャルが一致していないことが不協和音とは言いませんけど、読んでいて不思議な気持ちになる理由だと思います。面白いんですけど思っていたのと違う方向で面白いってやつですね。

ほんわかしたのは新たに仲間になった眷属。
上で『人』ではなく、『匹』と書きましたが、リリィら3人と比べると大きく人間離れした容姿をしています。

アサリナは鉄砲蔓のモンスター。
孝弘君の腕に寄生し、彼の魔力を養分に命を維持します。口だけ生えた植物。
蔓を幽白のローズウィップよろしくでシュシューと伸ばします。
「ゴ、シュ、サマ!」と超カタコト。可愛い。ぶっちゃけあやめより好きです

あやめは風船狐の子供のモンスター。
手乗りサイズの可愛い狐です。もふもふなのです。ガーベラの頭の上がお気に入り。
狐耳が生えた女の子じゃなくて文字通り狐ですね。ケモナー属性の人が喜びそう。
「コン、コーン」と鳴き声も狐と同じ。人語を話せるわけではありませんが意思疎通は測れます。
あと火球を飛ばせますが子供なので戦力として期待できません。癒し枠

アサリナの花言葉は飾らぬ美、信じる心
あやめ(菖蒲)の花言葉は希望、メッセージ、情熱
ちなみにアヤメを英語にするとアイリス(Iris)です。どこかでアイリスなら見かける機会はあるんじゃないかなと思います。

人間である孝弘君と加藤さん。
眷属だけど人型に近しいリリィ、ローズ、ガーベラ。
眷属で人型からかけ離れたアサリナ、あやめ。
人間模様が複雑になっていきます。といっても激しい衝突があるわけではありません。
過去を振り返り、現在を見据え、未来を思い描く。

何度も何度もぶり返ります。
これは主人公である孝弘君も同じです。
孝弘君もまた、考え、そして成長していきます。

トラウマが治るわけではありません。
人間不信が治るわけではありません。
けれど着実に物語という名の経験が積まれていくのです。何も起こらないわけがないのです。

加藤さんとの関係がそう。
加藤さんに助けて貰ったのに、加藤さんを信じられない。信じきれない。
理解できても理解できない。身体が許しても心というシャッターを開けるのは、難しいのです。散々今まで同胞から酷い目に合い、裏切られ、裏切る現場を見てきたのですから。
だからちょっとずつちょっとずつ加藤さんとの距離も縮まります。
孝弘君が魔法の修行を行う時もそう。加藤さんが修行を行おうとする時もそう。
眷属という第三者を介して、孝弘君と加藤さんの仲も縮まります。
加藤さんは1巻以上に気持ちが全面だしされたセリフが多くなります。特にローズとの関連会話は2巻の大きい見所といえるでしょう。


「なのに、頼ってくれないんだよね」
「……」
「ご 主人様は、わたしたちのことを『頼りになる相手だ』と思っているのに、『頼りに してくれない』んだ。……違う、かな?」
 今度こそ、おれは否定の言葉を見付けられなかった。
(2巻、No.3063-3066より引用)

中盤で特に好きなシーンです。
孝弘君は人間不信で良い意味でも悪い意味でも遊びが無いです。
その上で『良識的』であるが故に責任感が強いんですね。そうなるとどうなるかって必要以上に全てを背負おうとしてしまう。リリィの指摘はごもっともなんですね。
こういうハーレム要素があると『男の子』であることを全面だしするいわゆるお色気的な展開がお約束だと思うんですけど、孝弘君責任感が強すぎて融通が効かないというか、好意を抱かれて超真面目に応えるんですよね。1巻も2巻もそうですけど。
だから自分がどういう人間かよくわかっているという。けれど眷属の女の子から求められているのはそうじゃない、そうじゃないんだと指摘されなければわからないんですね。
ただ孝弘君は耳を傾けることはできますし、そういう意味での臨機応変も効きますから、今後もっと眷属の女の子と距離を縮めて欲しいのです。



終盤はいよいよ緊迫した展開になっていきます。
といっても孝弘君のパーティは攻守が強く整っていますので、グール(ゾンビ)に苦戦することなく勝利することができます。不完全燃焼というかなんというか……。
グールは異世界人。全身鎧で兵士であると予想されます。
つまり国か国に近い単位で文明構築が行われている証左になります。
異世界人に武器防具の概念があるのが判明した以上、衝突する展開も予想できます。
そして理由は定かではないですが、グール、つまり死者がモンスターと化すケースもあることが判明。孝弘君たちのコロニーでもグールが発生したケースがあったようで、いくら力が強くても人間の形をしたものに、自分たちの元仲間に刃を向けるのは、良心があればあるほど枷になり、惨事を引き起こしたようです。
ゲームではなく、現実が描かれている以上、ゾンビ映画よろしくで機転が利くなんてことは学生である彼ら彼女らには難しいのです。

そしていよいよ異世界人との遭遇。
コロニーから脱出した者たちか、それとも探索班かわかりませんが学生もその中に含まれていました。騎士たちのリーダーとの少女と邂逅し、2巻は終わりを迎えます。

ここで大事なのは孝弘君(アサリナ)、リリィ(あやめ)とガーベラ、ローズ、加藤さんの二手に分かれていること。どうやら3巻はそれぞれ別行動をとっていくようですし、異世界の『システム』の説明も行われるでしょうし、ようやくプロローグ終了……といったところでしょうかね。予想よりも遥かにのんびりとした展開ですので、激しい展開を望むウチとしてはもうちょい展開に加速を求めたくなります。
けれどその分だけじっくりと人物描写が描かれていますので、共感するかは別にして、登場人物を容易に読み取れるようになっていくと思います。コミカライズされると心情描写を描くことが難しいでしょうし、コミカライズ版だけを見て中身が薄い物語だって思われるのは読んでいる人のひとりとして残念な気持ちになっちゃいます。



ということでモンスターのご主人様、2巻の感想でした。

3巻もそうですけど、カラー挿絵で盛大にネタバレするの良くないと思うんですよ……。
初見の楽しみを奪われたみたいになってしょんぼりしちゃいます。
なんというか物語は面白いのに、宣伝やガワの部分で大損していると段々と思うようになってきました。PVが特にそうですね。もうちょっとこう……物語に寄り添う紹介はできなかったのでしょうか(汗

以下、上では書かなかった雑記に近い感想みたいなもの。

そういえば孝弘君は生徒の死体をリリィに捕食させません。
水島美穂の記憶を受け継いでいて、捕食した生徒の思念・悪意を読み取るのを恐れているからさせていないんですが、なら誰が水島美穂を襲ったのか、って記憶はあると思うんですね。これから他の生徒とあれこれ合流する展開になるでしょうし、その手の生き残りの生徒が出てくる展開もあり得るんじゃないかなーとか思っています。盛り上がるのかって問われると微妙なんですけど、記憶を活かす展開があるならあるんじゃないかなーと。

あと嬉しさなどを言葉以外で表現する動作が出てくるとニッコリします。
具体的にはガーベラが蜘蛛足を動かすところとか。こういう表現大好きなのです。
(雑記に近い感想おわり)


モンスター娘という『属性』をご存知ですか?
モンスター要素を持つ女の子って書くと伝わり易いでしょうかね。
ハーピィだったりマーメイドだったり下半身が馬だったり頭からツノが生えていたりetc...

『モンスター娘』は『人間』でできる部分、できない部分があります。
その差異が、モンスター娘という属性を引き立ててくれます。

この小説は、人間に裏切ら酷い目にあった真島孝弘君(主人公)の物語。
人間であること。モンスターであること。たったひとつの大きい壁がスパイスとなって物語を彩ります。

表紙絵



モンスターのご主人様 : 1 (モンスター文庫)
著:日暮眠都先生
イラスト:ナポ先生


今回はモンスターのご主人様の1巻の感想です。
ネタバレだらけですので要注意です。

先に書きます。
なんとこの小説、普通のラノベなら必ずあると言ってもいい、作者のあとがきがありません。ビックリです。
あとがきが無い分だけ、限界まで物語が書かれています。
どんな小説でもあとがき結構楽しみにしていただけに、残念のような、その分だけ物語があったので嬉しいような……複雑な気持ちです。

さて、この小説はなろうさん出身小説でコミカライズも行われています。
相当数なボリュームが確約されていて、この記事を書いている現在、11巻まで既に刊行されています。
コミカライズ版は小説版に比べて分かり易い反面、心情描写が漫画だとどうしても圧縮されてしまうため、余韻が残り難い印象があります。というか両方比較すると小説版に軍配をあげざるを得ません。
ちなみにこの小説を知ったのはコミカライズ版がきっかけです。それだけにもやっとしちゃいます。

『小説家になろう』掲載ページ

コミカライズ版掲載ページ(リンク先から探してください)

あともうひとつ。
女の子が凄惨な目に合うシーンがありますので、そういう系が苦手な方は回れ右をすることをお勧めします。

さてどういうお話なのか軽く見てみましょう。
いわゆる現代世界から異世界に移動するケースの小説です。転生では無いです。恐らく。
主人公君である孝弘君だけでなく、教師も含めて学校の人間が丸ごと異世界に行きます。規模が大きいのです。恐らく三桁の人数でしょう。コミカライズ版の1話目をご覧になればわかりますが、異世界に移動してから森の中に建てたと思われる小屋の数は相当数に上るようです。

異世界に行った人間の数が多い上に、異世界に移動した際にいわゆるチートスキルに目覚めた生徒がゴロゴロ発生します。目覚めない生徒もいます。また、チートスキルも強弱様々なようです。
戦闘向きのチートスキル持ちをウォーリアと呼ぶことにし、探索班を出すなどして模索していきます。

しかし弱肉強食な世界なのです。モンスターやドラゴンが跋扈する森の中にワープしてしまったので、戦闘能力があるメンバーとそうでないメンバーに別れ、居住生活を繰り広げます。死人も当然ながら沢山出ます。遺体だらけなのです。
そうするうちにだんだんと精神も肉体も疲弊していき、やがて秩序が崩壊します。モンスターと人間の戦いではなく、人間と人間の戦いに突入します。内部分裂、略奪etc...

それまでチートスキルに目覚めなかった孝弘君も巻き込まれ、それはもう酷い目に合います。そうして崩壊したコロニー(居住区)を背に、孝弘君は生きるために森の脱出を目指すのでした……。



ココまでがプロローグです。
コミカライズ版だとイラストがある分エグさ倍増です。女の子も殺されているんですよ……なんて酷いことをっ。
こういう人間同士の醜い部分を散々見てしまったため、孝弘君は人間が信じられなくなってしまいます。いわゆる人間不信ってやつですね。

孝弘君は力尽きて死に掛けた時、スライムに襲われます。
ところがそのスライムとパスを繋ぐことに成功し、孝弘君は命を救われたのと同時にチートスキルを獲得したことがわかります。モンスターテイム――モンスター使いですね。召喚術師ではないです。
ややこしいので要約すると、パスを繋いだモンスターの好感度が最高になり、尽き従ってくれます。パスを繋いだモンスターは『眷属』と呼ばれます。
ですのでそのモンスターの意思は尊重されますし、命令に逆らうこともできます。する気があるかどうかは別にして。パスは誰とでも繋ぐことができるわけではなく、限られている、いわゆる眷属になる素質があるモンスターにのみ発揮されます。
また、パスが繋がったモンスターには強い自我が芽生えます。

スライムといえば古今東西ドラクエが一番有名だと思いますけど、本来スライムはアメーバに近くて斬属性に滅法強いとかそういう手強いモンスターなのです。昨今だと美女の姿を模ってスライム娘になるーなんてケースも色んな漫画やアニメで見受けられます。

この小説に最初に出てくるスライムはミミックスライムと呼ばれ、捕食した対象のスキルを獲得します。さらに擬態のスキルもあります。
例えば火を吐く狼、ファイア・ファングを捕食すれば火を噴けるようになります。

紆余曲折を経てマジカルパペット(等身大のウッドマネキンのような人形)も仲間にし、1人2体の『3人パーティ』で森の中を進みます。

孝弘君はいわゆるオタク気質の人間ではなく、結構難しい言い回しも使う知的な人です。後に出てくる加藤さんなどもそうです。オタク知識は友人から伝聞である程度身に付いているようですが、良くも悪くも遊びがあまり無いタイプですね。
ただ繋がりを大切にする一面もあり、仲間にしたモンスターに花の名前を付けます。もしかしたら植物に精通する何か過去かエピソードがあったのかもですね。
(と思ったら2巻で直ぐにネーミングに底が尽き、あわばチューリップという名前が付けられるところでした。孝弘君ちょっとー!?)

ミミックスライムにはユリである『リリィ』。
マジカルパペットには薔薇である『ローズ』。

見方がちょっと変わりますけど、ペットなり何なりで自分で名前を付けると、それはもう愛着が沸きます。ゲームではなく現実なら猶更です。そして従順なんですから、孝弘君はそれはもう人間不信の反動もあって愛を注ぎ込みます。

コミカライズ版の1話や小説の最初のほうの挿絵をご覧になるとわかりますが、孝弘君は生来的には明るくてそれなりに活発だったようです。
しかしプロローグや本編で何度も人間の浅ましさ、醜さを見てしまい、人間不信が加速して表情が暗く陰りを帯びます。割と酷い目に合う系主人公君ですね……。

さて、『3人パーティ』で森の中を進んでいくと、同学年の生徒『だった』水島美穂を発見します。『だった』と過去形なのはすでに事切れていたからです。コミカライズ版からこの小説を知ったのですけど、冒頭で書いた、

女の子が凄惨な目に合うシーンがありますので、そういう系が苦手な方は回れ右をすることをお勧めします。

というのはそういうことです。
もう少しあとでもうひとつそういうシーンがありますので、合わない、嫌いな人は回避推奨です。

表紙絵の女の子が水島美穂であり、水島美穂『ではありません』。
スライム、擬態からピンと来た人は正解です。ミミックスライムであるリリイが水島美穂の遺体を捕食して水島美穂になります。ヒロイン一人目ですね。小説ではずっとリリィと呼ばれているのでこの感想記事もリリィで統一します。

リリィは水島美穂の記憶、チートスキルも受け継いでいます。
さらにスライムでありながら水島美穂に擬態している間、肌の質感などは人間と遜色ない際限が可能になっています。肌の産毛を感じる描写がありますので、それはもう再現率が凄いのです。
スライムでもありますので、限界はありますけど斬られても再生できます。そういう意味で非常に打たれ強い側面があります。

ただしこういうコピー系ではお約束ですけど劣化コピーとなります。100%の力を発揮できるわけではありません。また、水島美穂は魔法が使えたということで受け継いだリリィも魔法が使えます。
このように魔法の概念が登場しますが、まだ断片的なのでこの世界における魔法の強さ、限界などは二巻以降で詳しく語られるのだと思います。

階梯という強さのクラス分けは結構好きです。
ちなみにラノベ、オーバーロードだと魔法は位階というクラス分けで出てきます。呼び方がそれぞれ違いますので注意。

リリィが水島美穂の姿を模り、そして孝弘君に最高好感度と化しているので、それはもう疲弊した孝弘君を文字通り身も心も癒してくれます。
リリィは水島美穂の性格も受け継いだとあったので、水島美穂の性格が明朗快活のストレートなタイプのヒロインですね。しかも専門知識、オタク知識もそれなりにあるようで、リリィも水島美穂が持っていた知識をそのまま使いこなすことができます。つまり『異世界』には無いものでも知覚することができます。例えば孝弘君が中盤で『廃液』と例える場面がありますが、リリィは水島美穂の知識・記憶があるので廃液の意味を理解できています。

「相変わらず男の子のことに関しては疎いんですね。まあ、いまはそればかりでもない ようですけど」
(1巻、No.4231-4232より引用)

とあるので、多分生前も水島美穂は孝弘君に好意を抱いていたんじゃないかなぁと予想できます。モンスターであるリリィは、『水島美穂のキャラ』で孝弘君に最好意に接しますけど、それはリリィであって水島美穂ではないのです。
そしてモンスターテイムのパスが作用した部分も多いでしょうし、死人に口なしよろしくで水島美穂がどうだったのかは周りからどう見られていたのかでしか判断できません。

この小説の面白い部分のひとつとして、孝弘君は斜に構えた性格で語彙力堪能ですが、戦闘に関する知識や異世界に関する知識の基礎は、周りから聞いて構築されたという部分があります。
文中にもありますが、人間不信ですけど同時に人間を信じているのです。
だから他人の話を疑いつつも耳を傾け、知識を獲得できるんですね。
そういう意味でドライですけど取捨選択がとても上手いキャラクターになっていると思います。

さらに序盤から中盤はボチボチなのですが、中盤以降登場人物の心情描写を掘るのがとても上手い構成になっています。淡々としているようで、行動理念に対して一貫性がある上にどうしてそうなるかのプロセスまで深く踏んでいます。だから表層ではなく深層が読み手に伝わり易くなっているんですね。

この部分は小説だからこそ伝わり易く、コミカライズ版だと厳しい印象があります。
小説の強みは心情描写を文字で伝える部分が大きいと思うんですね。
特に後半のリリィ、ローズ、加藤さんの3人の問答シーンはとても良かったです。



話を戻します。
水島美穂に『擬態』しているリリィですが、見た目は完全に水島美穂と同一です。
声も、そして性格も模倣しています。
ですのでミミックスライムだと知らなければ水島美穂ではないと気付けません。
この小説の主題のひとつは、恐らくモンスターと人間の境目、垣根だと思います。

人間だからできること。
モンスターだからできること。
人間だからできないこと。
モンスターだからできないこと。

それぞれがある故に、衝突したり反発したり利用したり利用されたりします。

途中、男子生徒数名に襲われている加藤真菜という女子生徒を救出します。
加藤さんは水島美穂の後輩で、彼女の人となりをよく知っているようです。上でもありますが、

「相変わらず男の子のことに関しては疎いんですね。まあ、いまはそればかりでもない ようですけど」
(1巻、No.4231-4232より引用)

とあるように水島美穂自身が気付かない、もしくは気付かないフリをしていたことですら知っています。

加藤さんにチートスキルはありません。
モンスターであるリリィやローズと違い、いわゆる『お荷物』になります。
けれど加藤さんは人間です。モンスターではないのです。
だからモンスターであるリリィやローズと価値観の相違、人間とモンスターの違いで衝突します。

加藤さんは孝弘君以上に人間不信に陥っています。
そりゃそうですよね。異世界に飛ばされた上にスキル持ちで無いが故に立場が無く、その上、襲ってきた生徒から逃げるべく、水島美穂らと逃げ、水島美穂は亡くなり、そして自分は襲われて酷い目に合いかけるんですから……。

加藤さんが孝弘君に好意を持っているのは間違いないと思います。
しかしそれが友愛なのか親愛なのか恋愛なのかはわかりません。
ただし、

「眷属でないと駄目なんですか?」
 ほんの一瞬ではあるが、彼女は極大の怒りをわたしに向けていた。
(1巻、No.4473-4474より引用)

とあるので、恋愛感情に近い感情を持っているのは間違いないと思います。

どちらかというと加藤さんは大人しく自己主張しないようで、実は胸の内は激しいものを持っているようです。さらに観察眼がとても高く、その上、物事の順序を組み立てて考える力がとても高いです。段階を踏んで会話するのでとてもわかりやすいです。誘導尋問が得意なタイプですね。
戦闘能力が無くても、加藤さんにだってできることはあるのです。

人間だけど戦闘スキルが無い加藤さん。
モンスターだけど戦闘スキルがあるリリィ、ローズ。

の構図ですね。
上手いこと対になっているんですよね。
一枚の大きい壁がある故に関係性が生まれ、同時にその大きい壁があるが故に越えられないものがあるっていう。



リリィは明朗快活のストレートなタイプのヒロインです。
そしてローズは実直で硬いタイプの論理的思考タイプのヒロインですね。途中から喋られるようになります。ただヒロインと言っても等身大のウッドマネキンのような人形ですから、目も口も鼻もありません(どうやって喋るのかは考えるほうが野暮ってもんです)。
だから傍目で見てモンスターだとわかりますし、決してヒロインたる見た目にはなれません。
けれど喋ることができるのです。孝弘君を抱きしめることができるのです。
人間の肉体で無いことはひとつの障害ですが、それ以外の部分は孝弘君に尽くし、そして愛し通せるのです。

リリィもローズも孝弘君のことをご主人様と慕い、愛します。
そして生殺与奪の根っこに孝弘君がいます。孝弘君を助けるためには自らだって犠牲にできます。
喜ぶことができます。
怒ることができます。
哀しむことができます。
楽しむことができます。

見た目が人間でなくても読み進めていくうちに、読み手もヒロインとして意識していけると思います。
描写が比較的淡泊で基本的に孝弘君の一人称で物語は進みますが、孝弘君もまた、徐々にリリィやローズに惹かれていくのがよくわかります。それだけ『二人』が魅力的なんですから……。



この物語はプロローグを除き、大きく4つの山場があります。
ひとつは加藤さんが襲われている現場に遭遇した時。

ふたつはクラスメイトの加賀君と再会した時。
最初に見たコミカライズ版が確か『加賀君編』のクライマックスでしたっけね。

冒頭で書いたように、秩序が崩壊し、人間が人間を襲う構図になってしまいます。
果たして再会したクラスメイトは、理性を、秩序を、そして善性を維持できているのか、どこまで信じていいのか、裏切らないのか。判断が問われてきます。

結論から書くと加賀君は裏切ります。
けれど加賀君はifの孝弘君でもあるわけです。孝弘君の精神が摩耗し、タガが外れれば加賀君と同じようになっていた可能性は決して否定できないのです。
だから加賀君の行為は決して許されませんし、殺されても文句は言えません。けれど同情とは違いますけど、同じクラスメイトを手に掛けるのです。孝弘君が何も思わないわけがないのです。

孝弘君は人間不信に陥っています。けれど同時に人間を信じてもいるのです。
裏切られた際の保険は賭けていても、同時に裏切らない可能性も賭けているのです。
だから孝弘君は余計に傷つきます。
そりゃそうでしょう……異世界に来るまでは他愛もなく学校生活で顔を合わせていたのですから。

孝弘君は人間を信じていません。けれど全てを信じていないわけではないです。
裏切る前提で考えたとして、裏切る必要性があるかどうかを選別できます。
付く必要が無い嘘を考える、というわけですね。全部が全部嘘ではなく、真実があるかどうか考えます。嘘を付くには嘘を付く必要性、メリットが当然あるわけですね。ならそれらがないなら嘘を付く理由にはならないということにもなります。

加藤さんから得た情報、加賀君から得た『真実だろう情報』。
これらの情報を基にして、孝弘君たちは森を進みます。

先に書くと1巻の段階では異世界に人間がいるのかどうかは一切不明のままです。
探索班は帰ってきませんし、水島美穂を想っていた高屋君も、二つ名を冠するチートスキルを持った生徒たちも出てきません。森から抜け出すことなく物語は終わります。
だからモンスターが生息していること、魔法の概念がある以外にこの異世界がどういう世界なのかほぼ不明です。

帰ることができるのかわかりません。
そもそも食糧問題がある以上、留まることもできません。明日が、見えないのです。

そういう意味では、タガが外れた生徒たちはある意味では幸せかもしれません。
極限状況に置いて、自業自得の結果になれど、最期にやりたいことをやって死ねたのですから。絶望を抱いたまま虚無に呑まれて死ぬよりは幸せなのかもしれません。
無論、だから許されるのかは別の話です。秩序があるが故に理性が働き、人は善性で行動できます。
けれどその『ルール』が外れる状況になってしまえば、それは善性を失えば力が支配する世界になってしまいますからね……ルールは守られてこそのルールなのです。



後半は女の子モンスター、白いアラクネの少女との死闘が行われます。
モンスターによって自身が抱く価値観が異なるという、まさにこの小説に相応しい主題に突入します。
ちなみに白いアラクネの少女は一人称が妾(わらわ)で古風な言い回しとキツネっ娘系で見かけるタイプのキャラになっています。孝弘君のことを主(あるじ)と呼びます。

アラクネもまた、孝弘君とパスが繋がることによって自我が芽生えた眷属モンスターです。
巨大蜘蛛から女の子が生えていると言えば想像できるでしょうか。銀髪ですし古風に近い言葉遣いなので中々個性が強いキャラです。

ただリリィやローズと大きく異なる部分があり、このアラクネの少女は孝弘君を独占したいと考えています。そしてリリィやローズと違い、モンスターとしてのレベルはもっと上位のもの、ハイモンスターになります。つまりリリィやローズでは根本的にレベルに差があり過ぎて太刀打ちできません。

ローズのスキルは道具作成能力です。孝弘君たちの武器防具は基本的にローズが作成してくれます。
さらに自らの腕などを取り外して交換することもできます。
そんなローズですが、一撃のもとに吹っ飛ばされて半壊します。絶対的な力の差、というやつですね。
リリィは擬態能力のほかに水島美穂が獲得していた魔法スキルがありますけど、やはりアラクネに対抗するには厳しく、やはり敗北します。
当然、戦う力が無い加藤さんで対抗することもできません。なす術がなく、孝弘君は攫われてしまいました。

ウチはこの小説を読んで、面白いと思い始めたのはこの辺りからですね。
それまではモンスター娘系って昔はともかく、今だと萌え属性にもありますから、意外と見る機会があったんですよね。ならどこで差別化されるかで面白さが決まるといっても過言では無いと思います。
正直なところ、前半戦だけでは評価に困る部分が多かったです。

この『モンスターのご主人様』が面白いと思ったのは、まさにこの後半からなんですね
具体的には上でも書きましたが、加藤さんがリリィとローズと問答するシーンです。

モンスターだから決して人間にはなれないけど、戦闘能力があるリリィとローズ。
人間だけど戦闘能力が無く、孝弘君の力には決してなることができない加藤さん。

対比の構図ですね。
その上、孝弘君が攫われたことでリリィはブチギレています。
だから一刻も早く孝弘君を助けたいのです。そうなると『お荷物』になっている加藤さんの処遇をどうするのか、という問題が発生します。

モンスターであるリリィは加藤さんを放置して孝弘君を救出することも、加藤さんを放置しないで一緒に孝弘君を救出する選択肢もあります。
前者を決行した場合、救出できる確率が上がる反面、全て無事に成功したと仮定したとして、孝弘君に嫌われてしまう未来も同時に想像できます。
後者を選んだ場合、お荷物である加藤さんと一緒に行動するのですから、当然移動速度が落ち、ただでさえ劣勢なのに戦闘になると更なるハンディを背負うことになります。

だからどちらを選んでも何かを失うんですね。
そして最上位に来るのが孝弘君である以上、孝弘君からの信頼を犠牲にしてでも助けに行こうと思うわけです。

けれど根本的な部分を、リリィは忘れているんですね。
仮にこのまま加藤さんを放置してローズと二人で挑んだとして、勝ち目の無い戦いをしようとしているという根本的な問題を。

加藤さんのロジックの展開はとても見応えがあります。
理に適っている上に段階的にリリィを、ローズを説き伏せていくので、それまでの暗くて自己主張が大人しかった加藤さんのイメージが一変します。
加藤さんもまた、この小説においてとても重要なポジションなのだと気付かされます。

「わたしは加藤さんのことを羨ましいと確かに思っていて……」
(1巻、No.4181-4183より引用)

「嫉妬、してるかもしれなくて……」
(1巻、No.4185-4186より引用)

「こんな汚い感情を抱いているって知られたら……ご主人様に嫌われちゃう」
(1巻、No.4186-4187より引用)

それはまさに、人間らしさであるということ。
ローズに指摘され、加藤さんに指摘され、リリィもまた、心が成長していきます。
自らの醜さを認めること。自らの非を認めること。
間違いを認めることは物凄く難しいのです。理論武装を固めるのは簡単です。けれど、それを認めることは難しいのです。敗北すると同義だと捉えてしまえるのですから。

アラクネと戦うのが目的ではありません。
孝弘君を救うのが目的なのです。
目的の優先順位をはき違えたお陰で、孝弘君を除いたパーティは加藤さんがいなければ壊滅するところでした。勝率ゼロの勝負を挑んでも、意味が無いのです。

ならばどうするか。
プランを練ります。アラクネを倒すプランではありません。孝弘君を救うプランです。
だから、アラクネは決して倒せなくても良いのです。

しかしアラクネに捕まっている孝弘君を救出できても、アラクネが追いかけてくるのは間違いないですし、やはり戦闘に突入してしまうと勝ち目がありません。
ならばどうするか。それはリリィもローズもモンスターである――眷属であることを利用します。リリィやローズにあって、アラクネに無い部分を突きます。弱点を攻めるといっても過言では無いでしょう。

故にアラクネの牙城は崩れます。
自らが気付かなかった弱点をさらけ出され、自分を持って自分にトドメを刺すのです。
眷属であるとはどういうことなのか。孝弘君を想う気持ちは同じなのに、どうしてリリィたちとは違うのか。その差が、毒の刃となってアラクネを襲うのです。

アラクネの少女によってモンスターがモンスターテイムによって自我を獲得する一端が語られます。この世界のモンスターの在り方について語られます。
けれどそれは一端に過ぎません。まだこの小説はプロローグです。森から脱出してからが恐らく本番なのでしょう。

1巻は綺麗に終幕します。
モンスターであること。人間であること。
ひとつの答えを出し、ひとつの道を築きます。
けれどそれはエピローグであり、同時にプロローグです。

まだ、物語は始まったばかりなのです。



ということでモンスターのご主人様、1巻の感想でした。
上でも書いていますが、心情描写の事細かさに惹かれました。
2巻以降も継続読書確定です。予想と違う方面で面白かったです。
二つ名を持つチートスキルを持った生徒が全く出てきませんでしたが、2巻以降で出てくるんでしょうね。女の子の名前もありましたしどういうキャラなのか非常に楽しみです。

前半よりも後半で畳みかけてくる小説なので、もしお読みになる際は、前半で投げ出さずに後半も読まれることをお勧めします。


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